音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年3月号

平成24年度予算について

佐藤聡

2012年度の障害関連予算について、評価できる2つの新規事業と、1つの課題について述べたい。

1 「重度訪問介護等の利用促進に係る市町村支援事業」(新規事業)

障害者自立支援法では居宅サービスも義務的経費になったが、国が自治体に支弁する費用には上限がある。これが国庫負担基準というもので、障害程度区分ごとに金額が決まっている。市内の1年分の全利用者の国庫負担基準の総額が国から自治体に支弁される費用であり、これを超えた部分はすべて自治体の負担となる。多くの自治体はこの総額を超えないように支給決定をしている。その結果、支給量に上限を設けて、長時間介助が必要な利用者にも必要な量の支給決定をしないという事態が続いてきた。

この問題は深刻で、和歌山市では重度の脳性マヒの石田氏が必要な量の支給決定を受けられず、和歌山市と争ってきた。一審(和歌山地裁2010年12月17日)二審(大阪高裁2011年12月14日)ともに和歌山市の訴えを退け、大阪高裁の判決では、和歌山市に578時間以上の支給決定の義務づけを求めた。このように、多くの自治体で国庫負担基準が実質的に支給量の上限となってきたのである。

これを改善するために、2009年度から都道府県の基金事業として「重度訪問介護等の利用促進に係る市町村支援事業」(障害者自立支援対策臨時特例交付金の基金事業)が実施されていた。国庫負担基準をオーバーした自治体には、この基金からお金が出る仕組みである。

しかし、3年間という限定的な施策だったため4年後には助成がなくなり、負担が増えることを恐れて多くの自治体では支給量の上限を改めず、必要な量の支給決定をしない状態が続いてきた。

2012年度からはこの事業が補助金化され恒久的な仕組みとなった。今後は、自治体は国庫負担基準を超えることを気にすることなく、一人ひとりに必要な量の支給決定を出すことができるようになった。支給量に上限を設けてきた自治体は、ぜひとも上限を撤廃し、重度障害者の地域生活を実現してほしい。

ただし、中核市と政令指定都市が対象外となっていることは大きな問題である。長時間介助が必要な重度障害者が地域移行する時は、必要な量の支給決定を出し、かつ、ヘルパー派遣事業所など社会資源が整っている自治体に転入するという実態がある。その多くは中核市や政令指定都市である。先進的(頑張っている)な自治体ほど重度障害者が集まり、自治体の負担が多くなるという現在の仕組み自体に問題があるのだが、これを緩和するためにも中核市や政令指定都市も対象に加えることが必要である。

2 地域移行支援と地域定着支援(新規事業)

地域移行を進めるための新規事業であり、相談支援事業者が訪問相談や同行支援、関係機関との調整等の事業を実施した場合に一定の報酬が支払われる。

地域移行支援の実践としては、たとえば、自立生活センターでは20年くらい前から自立生活プログラム(ILP)を実施してきた。施設や親元での生活が長かった人には、公共交通機関の利用の仕方から始まり、介助者への指示の出し方、お金の管理の仕方、自分が使える制度の学習、宿泊体験など社会生活力を高める支援が必要であり、定期的に集まってプログラムを行ってきた。これは地域移行を進めるために非常に有効で、大きな成果を出している。

こういった事業はほとんどが事業所の負担で実施されてきたのだが、2012年度からは事業化され、相談支援事業者に一定の報酬が支払われるようになる。さらに地域定着支援も事業化され、地域移行して間がない人には、緊急対応なども行えるようになる。この2つの事業により、地域移行を支援する事業所の運営が安定し、利用者の負担も少なく、よりいっそう地域移行を進めることができるようになる。

3 ヘルパーのたん吸引(課題)

「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」により、2012年度からヘルパーも一部の医療行為(たん吸引と経管栄養)ができるようになる。医療的ケアが必要な重度障害者の地域生活を支えるためには、ヘルパーの医療行為は不可欠である。これまでも一定の要件で認められてきたのだが、このたび法制度が整えられ、研修の仕組みが整備されて実施されることになった。法制度が整ったことは歓迎すべきことだと受け止めているが、報酬単価が非常に低いところが大きな問題である。

たとえば、前記の医療的ケアを実施した場合、報酬に加算される額は利用者一人につき1日1千円だけである。特定事業所加算の要件も加わったのだが、もともと特定事業所加算を受けている事業所は、報酬上何も増えない。一方で、資格取得のための研修には看護師等を講師に加えたり、利用者ごとに実地研修(不特定のものの場合)を行うなど事業所の負担は増加する。報酬がほとんど変わらずに負担だけ増える今回の改正では、医療的ケアを実施する事業所が増えるとは考えられない。

2006年に自立支援法がスタートした時に、重度訪問介護の単価が他の居宅サービスに比べて極端に低く設定されたため、事業を実施する事業所がほとんどなく、重度障害者の生活が成り立たないという問題が起こった。その時と同じような問題が起こるのではないか。医療的ケアを必要とする障害者の地域生活を支えるためには、報酬上の評価は不可欠であり、今後の改善が求められる。

(さとうさとし メインストリーム協会)