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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年3月号

「障害者総合福祉法」を実現するための予算になっているのだろうか

岩崎晋也

1 総枠として増加しているものの、まだまだ予算水準が低い

障害保健福祉部の予算額で対前年度比10.4%の増、障害福祉サービス関係費(自立支援給付と地域生活支援事業)に至っては、対前年度比16.2%(約1,097億円)の増であり、国の財政状況を考えれば政府の積極的な姿勢を評価することができそうである。

だが障害福祉サービス関係費は、図に見るように、支援費制度が始まった平成15年度から毎年ほぼ10%を超える勢いで増加している。さらにその内訳を見てみると、入所系サービスに関する費用がここ数年少しずつではあるが減額しているのに対して、通所・訪問系サービスは急激に増加している。平成20年度を境に、通所・訪問系の予算額が入所系を上回り、23年度に至っては入所系の2倍になっている。平成24年度予算における通所・訪問系と入所系の内訳は示されていないが、その差が拡大していることは確実であろう。

このように通所・訪問系の予算額が増加している理由は、入所施設から地域移行により通所・訪問系が伸びたわけではないことは図を見れば明らかである。地域で生活する障がい者のニーズに福祉サービスが応えられてこなかったことの表れであり、まだまだ家族が肩代わりし、潜在化しているニーズがあると言えよう。

今後、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(以下「骨格提言」と略す)を具体化していけば、一層の通所・訪問系を中心としたサービスへのニーズが拡大し、更なる予算増が必要となろう。

しかし昨年示された「社会保障・税一体改革成案」では、「総合的な障害者施策の充実(制度の谷間のない支援、地域移行・地域生活の支援)、難病対策の検討」と述べられているものの、その財源については検討されていない。今後の予算拡大に向けて、一体改革の議論の中で、障害福祉サービを明確に位置付けていくことが必要であろう。

2 「骨格提言」を実現するための予算になっているのだろうか

平成24年度の予算は、本来であれば、昨年8月に出された「骨格提言」を具体化するための予算となるはずであった。しかし中身を見てみると、障害者自立支援法を廃止し、新しい制度体系に移行するための予算措置がほとんどなされていない。

たとえば今回の予算では、「実態に即した公平・透明な支給決定が行われるよう、障害程度区分に関する調査・検証を行う」として、「障害程度区分の調査・検証」が1億円の新規事業として計上されている。しかし「骨格提言」で示された支給決定方法は、現行の障害程度区分を取りやめ、新しい支給決定方法を提言している。この事業が、現行の障害程度区分の修正のために使われるとすれば、「骨格提言」を明らかに無視するものと言えよう。必要なのは廃止されるべき現行制度の支給決定方法の検証ではなく、新しい支給方法の開発であり、そのために予算は使われるべきであろう。

また昨年の23年度予算では、「制度の谷間のない『障害者総合福祉法』(仮称)の検討にも資する基礎資料とするため、障害児・者等(これまでの法制度では支援の対象とならない者を含む。)の生活の実態等を把握するための調査」として3.2億円が計上され、「生活のしづらさなどに関する調査(全国障害児・者等実態調査)」として実施された。しかしこの調査は、在宅生活者を対象とするもので、施設入所者や入院患者は対象となっていない。「骨格提言」の重要な柱である地域移行を具体化するためには、施設入所者や入院患者を対象とする調査も必要であるが、今回、予算化はされなかった。

最後に、精神障害者の地域移行・地域定着支援について指摘したい。昨年の23年度予算で新規事業として計上された「精神障害者アウトリーチ(訪問支援)推進事業」は、概算要求の段階では1.9億円増加を求めていたが、最終的には9千万円の増加で、3か所増の28か所分の予算にとどまっている。

国は平成16年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」で、10年間で社会的入院を解消し、精神科病院のベッド数を約7万床減少するとしてきた。しかし現在でもベッド数は減らず、入院患者数も32万人で推移している。計画を実現するためには地域移行や地域定着のための社会資源があまりにも少ないことは明らかであろう。財政再建が大切なのは分かるが、社会的入院は人権侵害であり、財政を理由に低い水準にとどめておくことはできないのではないだろうか。

障害福祉サービス(入所、通所・訪問系)予算額の推移
棒グラフ 障害福祉サービス(入所、通所・訪問系)予算額の推移拡大図・テキスト
(注1)
・予算上サービス種別ごと積算内訳はない。上記推計では、障害福祉サービス予算(訪問を除く)毎年の入所と通所の利用実績により按分して算出。
・H12年度からH21年度の入所と通所の利用実績については、サービス種別毎に社会福祉施設等調査の実利用人員、国保連データの1人当たり単価により算出。訪問については年度ごとの予算額を計上。
・H22年度以降については、H18年度からH21年度までの入所と通所の利用実績の伸び率、訪問の予算額の伸び率により算出。
(注2) H21年度の報酬改定率5.1%
(編集部注・第1回障害福祉サービス等の報酬改定検討チーム(H23.11.11(金))資料3を墓に作図しました)

(いわさきしんや 法政大学現代福祉学部教授、日本障害者協議会政策委員会副委員長)