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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年3月号

ほんの森

障害者自立支援法違憲訴訟
―立ち上がった当事者たち―

障害者自立支援法違憲訴訟弁護団編

評者 福島智

生活書院
〒160―0008
新宿区三栄町17―2―303
定価(本体3,000円+税)
TEL 03―3226―1203
FAX 03―3226―1204

和歌山県の大谷真之さんは今、30歳代後半。生まれつき体に障害があり、車椅子生活を送る。大学卒業後、障害当事者による地域での自立生活活動に取り組んだ。

「和歌山でも一人の人間として選んだサービスを受けられるようになってきた」と喜んでいた大谷さんだったが、そのような流れにストップを掛けたのが2006年4月に施行された自立支援法だった。

兵庫県在住で、視覚障害のある吉田淳治さんとしず子さん夫婦は「私たちは外出するのも命がけなんですよ」と語る。これまで、ヘルパーなしで外出した際に、電車のホームから転落するなど、何度も危険な思いをしたことがあった。そのため吉田さん夫婦には、ヘルパーの支援が欠かせない。ところが、そうした命綱のヘルパーの利用などにおいて応益負担を課す自立支援法が施行された。

こうして、大谷さん、吉田さんら、障害のある原告71人が、全国14地裁に対して「障害者自立支援法違憲訴訟」を起こした。その背景には、障害のある当事者の命がけの苦闘がある。本書は、こうした障害のある71人の原告の暮らしをドキュメントとして踏まえながら、改めて、この「違憲訴訟」の意味と意義を考察した力作である。

「違憲訴訟」は2008年10月に一斉に提起され、紆余曲折を経て、2010年1月に「(原告・弁護団と国(厚生労働省)との)基本合意文書締結」に至る。そして、同年4月に全訴訟での「和解」成立という経過をたどった。その「基本合意」の概要の一部は、次のようなものだ(一部略)。

・国は、速やかに応益負担制度を廃止し、遅くとも平成25年8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する。

・障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする。

・国は、障害者自立支援法を、立法過程において十分な実態調査の実施や、障害者の意見を十分に踏まえることなく、拙速に制度を施行するとともに、(中略)障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し、(中略)心から反省の意を表明するとともに、この反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当たる。

2012年2月15日現在、この「基本合意」はどこまで実現されているといえるだろうか。「違憲訴訟」とは何だったのか。

政府・民主党は障害の有無を超え、一人ひとりの人間の生きる意味と尊厳をどのように考えているのか。

現在進行形のこの重い「問い」を、本書を通して改めて噛みしめたい。

(ふくしまさとし 東京大学教授)