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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

障害者の地域移行、地域定着の可能性について

今村浩司

平成24年2月8日の障がい者制度改革推進会議総合福祉部会において、「障害者自立支援法等の一部を改正する法律案(仮称)」についての「厚生労働省案」が提出された。この案文は、障害者自立支援法が憲法違反であるとする訴訟において、平成22年1月に原告・弁護団と政府が、平成25年8月までに障害者自立支援法を廃止することを含んだ和解のため締結した「基本合意文書」と、平成18年に国連で採択された「障害者権利条約」、この2つを基礎的な指針として、総合福祉部会で、平成23年8月30日に提出された障害者総合福祉法の「骨格提言」を受けて出されたものである。

しかし、その内容は骨格提言のものと大きくかけ離れたものとして、関係諸団体等から批判の声や、案文見直しを求める厳しい意見が多数出ている状況である。内容的にも障害者自立支援法の名称を見直すことを検討するとし、法律自体の廃止を明確にしていないことや、骨格提言の主要な改革点についても触れられていない箇所が多数あること等、骨格提言を十分に反映させた内容を盛り込む案文とはなっておらず、大きな疑問を生じさせた。

その後、平成24年2月21日には、関係諸団体からの意見等々を踏まえた修正・変更がなされた「厚生労働省案」が再度出された。その主な修正点は、「制度の谷間」を埋めるべく、障害者基本法の改正を踏まえ、障害者の範囲を拡大したこと、支給決定の在り方の見直しを行ったこと、障害福祉計画の定期的な見直しを行うこと等々である。

その中でも、この法律の制定により、旧制度から改変される地域移行支援・地域定着支援については、これまで補助事業として実施してきた内容を新たに個別給付化とし、地域移行の取り組みを強化することとされているものである。

地域移行支援は、「障害者支援施設や精神科病院に入所等をしている障害者に対し、住所の確保、地域生活の準備や福祉サービスの見学・体験のための外出への同行支援、地域における生活に移行するための活動に関する相談等の支援を行うもの」とされている。

また、地域定着支援は、「居宅で一人暮らしをしている障害者等に関する夜間も含む緊急時における連絡、相談等の支援を行うもの」とされている。

以前の地域生活支援事業においては、その取り組みの程度に関しては市町村に一任されており、全国的な市町村格差が生じていたと考えられる。これまで補助事業として実施してきた地域移行支援・地域定着支援が、地域相談支援として新たにスタートし、個別給付化され予算整備されることにより、全国の自治体において、共通のシステムで地域相談支援事業が行われることとなる。

しかし、ここで注意したいのは、以前の地域生活支援事業において、その地域の実情によって柔軟な対応や工夫をしてきた自治体も多いということである。新制度へ移行したことによって全国共通のシステムとなるが、これまでの各自治体が取り組んできた独自の施策の対応を継続できるようにすることが重要である。各々の地域の実情を踏まえ、引き続き継続した支援を保障することが必要と考えられる。

また、骨格提言の「地域移行」にて、「すべての障害者は、地域で暮らす権利を有し、障害の程度や状況、支援の量等に関わらず、地域移行の対象となる。」と述べられている。その解釈において、ご家族の環境状況や社会的な支援不足から、希望していない生活環境にある障害者についても、地域移行の支援対象に選ばれるべきであるとされている。しかし、従来の居住サポート事業、精神障害者地域移行支援事業の一部を再編した地域相談支援事業(地域移行支援・地域定着支援)は、地域定着支援の対象者について、グループホーム・ケアホーム、宿泊型施設の入居者に関しては対象外としている。これでは骨格提言で示した文言と整合しないのではないかと考えられる。

このように、再度出された「厚生労働省案」は関係団体からの意見を踏まえた修正・変更がある程度なされたものの、現実的には「基本合意文書」や、障害福祉部会の「骨格提言」を最大限に反映したものとは考えにくい現状である。

今回の一連の障害者関連法律の整備は、障害者権利条約の批准、障害者基本法改正等と時期が重なり、当事者をはじめ各関係者の関心は高く、期待されてきた障害者福祉制度の見直しの、またとないチャンスである。この機会を何とか最大限に活かして、現行の障害者自立支援法の抜本的な改正と、新たな障害者施策の策定を祈るばかりである。

さらには、平成24年3月13日に障害者自立支援法一部改正法案が閣議決定された。しかしである。いまだ「基本合意文書」と「障害者権利条約」との整合性の問題や、各関係機関との間で議論が続いている事柄への対応は残されたままであり、まだまださらなる見直しや検討が必要であり、今後も各関係機関による継続的な意見具申を行い続けていくことが肝要であると思われる。

関係者である私たちは、当事者の日常生活・社会生活の実現のために、彼らの視点で意見を発信しなければならないということを忘れてはならない。だれもが当たり前の生活をしていくための権利を持ち続けられるということを、実践で証明していけるように、関係者は常に問題意識を持ち続けて、対処していかねばならないと考えている。

(いまむらこうじ 医療法人(財団)小倉蒲生病院 社会福祉士・精神保健福祉士)