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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

障害程度区分をどこまで生き延びさせるのだろうか?

冨田昌吾

障害者自立支援法の見直しの議論の中で、障害程度区分の存在そのものに左右される「支給決定の仕組み」については、総合福祉部会での議論はもちろんのこと、いろいろな場面で議論された。支援費制度から障害者自立支援法の成立に至る中で制度の根幹に関わる部分であっただけに、大きな争点としてあり続けた。

「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」の中では、1-3選択と決定(支給決定)という項目だてで、「支給決定の在り方」「支給決定のしくみ」「サービス利用計画」「『障害』の確認」「支援ガイドライン」「協議調整」「合議機関の設置と機能」「不服申立」という8つの表題によって、その骨格が示されている。

それに対して、厚生労働省案は、これまでの障害者自立支援法の流れから、「支援の必要度に関する客観的な尺度の導入」「相談支援の充実」「不服審査会の設置」「障害程度区分の在り方の検討」「ケアマネジメントを重視した支給決定の弾力化」などを行ってきたとし、今後5年間かけて、あり方を検討するとした。

その結果、民主党の障がい者ワーキングチーム(WT)「厚生労働省案に対する意見」2012年2月21日の「2.支給決定の在り方の見直し」についての以下の意見、

障害程度区分の在り方に限らず、支給決定全般の在り方について、検討を行い、必要な措置を講ずることとすべきである。

また、この検討にあたっては、障害者及びその家族その他の関係者の意見を聴くべきである。

法の施行後5年を目途とされている検討の期限については、本ワーキングチーム(WT)においてその期限を短縮すべきとの意見が強かったことから、短縮する方向で検討すべきである。

を受ける形で、3年の検討期限ということで、障害者総合支援法案として、出されることになった。

総合福祉部会の議論の推移をみると、障害程度区分については、そもそも廃止という前提で議論がなされてきていることを考えると、厚生労働省と総合福祉部会および障害当事者、関係者の間で、全く議論がかみ合っていないということができるだろう。

実はこの間、同じように改訂の作業の議論をすすめている介護保険についても、要介護認定の廃止に関しては関係者から多くの意見が寄せられた。しかし、社会保障審議会介護保険部会平成22年11月30日の「介護保険制度の見直しに関する意見」の中で、

(2)要介護認定について

○要介護認定は、介護保険制度において、客観的にサービス供給量を決定し、介護サービスの受給者の公平性を確保するために不可欠な仕組みである。利用者が必要とするサービスが提供されるよう、要介護度区分の見直しや要介護認定を廃止し、利用者に必要なサービス量については、ケアマネジャー、利用者、家族、主治医、事業者、保険者による会議において決定すべきとの意見もある。

○しかしながら、要介護認定の廃止は、

・要介護度区分を減らすような見直しは要介護度の改善により突然支給限度額が大きく減少することとなる。

・また、一次判定から二次判定に至る要介護認定のプロセスに変更がなければ、保険者の要介護認定に係る事務の簡素化にはつながらない。

・要介護認定の廃止は、介護が必要な度合いが同程度であっても、提供されるサービスに大きな差が生じるなど、ばらつきの大きい仕組みとなる。

・要介護認定を廃止すれば、給付を受けない健常な被保険者からみれば、節度なく給付を行っているかのように誤解されるおそれがあるといった問題があり、却って受給者間の不公平を生み出すおそれもある。

という見解にて、退けている。この最後の部分が、すなわち一般の国民からすると節度のない給付サービスが行われている誤解を受けるという文言が、支援費制度から障害者自立支援法の成立への流れの中の議論とかぶることをみると、結局は「給付の適正化、透明化」という文言のために、1件あたりにして約2万円といわれる審査のためのコストをかけ続けている。

介護保険の要介護認定についても、障害者自立支援法の障害程度区分についても、コンピューターの一次判定が必要な支援を導き出すことはできない。介護保険が改正のたびに要介護認定の二次判定の審査項目を追加していることや、障害程度区分の40%近い二次判定の変更率をみても明らかである。特に認知症、知的障害、精神障害について難しいことはすでに周知のことである。

障害者自立支援法の改正法の中で、今後の検討規定として、3年の間に、障害程度区分の認定を含めた支給決定の在り方について明示がなされた。この検討議論が、単なる障害程度区分の延命のような検討議論に終わるのか、それとも、今回の骨格提言によって示されたような、ある種の根本的な検討議論になっていくのか、いまの時点では分からない。

まさに、「障害程度区分をどこまで生き延びさせるのだろうか?」である。ただ、単純に障害程度区分を変える、なくす議論ではなく、手帳制度やサービス体系のあり方など、総合的に議論をし、最終的に、できるだけ簡素化される仕組みが構築できるような議論がなされるように望んでいる。

(とみたしょうご 龍谷大学短期大学部等非常勤講師)