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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

地域間格差を広げないために人材育成の仕組みが大事

加藤恵

今回の「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案の概要」における基本理念には、「共生社会を実現するため」「社会参加の機会の確保および地域社会における共生」が揚げられている。地域や社会が共生の理念を持つことや、障害福祉という概念だけではなく、ライフステージにおけるすべての場面において社会参加や参画の機会があることが何よりも大事であり、それが理念に含まれていることは、望ましいと感じる。

「社会参加や参画」および「選択の機会」については、適切な時期に当事者や家族に分かる形での情報提供があって初めて実現することであり、情報提供の役割を果たす可能性の高い相談支援員は、その人に分かる形での情報提供と、生活に関わる分野との協議・協働・共通言語で話し合いができる土台を構築しつつ、分かりやすく伝える力が必要になる。

また、法律があるべき社会の姿を示し、根拠となるが、それを実施するのは人であり、この法律の真意を理解し、その地域にあった実践を実現できる人材の育成こそ、今の課題だと感じる。

相談支援の連携体制の整備においては、基幹相談支援センターが地域における相談支援の中核的な役割を担い、サービス事業所以外に医療機関・民生委員、身体障害者相談員や知的障害者相談員との連携を努めることとなっている。ここには、明確に人材育成等の仕組みについては触れられていない。しかし、相談支援の現状を考えると、基幹相談支援センターを企画・運営できる人材の育成を同時に実施していかなければ、本来意図する中核的役割や連携を行うことは困難であり、現在もある相談支援事業の地域間格差はより広がるのではないかと考える。

そこで、総合福祉部会等でも議論されていることではあるが、今後の相談支援事業の課題だと考えている以下の4つの課題、1.多層的な相談支援体制の整備、2.相談支援員の研修体制の整備、3.当事者・家族をエンパワメントする仕組み、4.多職種・他機関との連携調整を含む横断的な相談体制整備、について考えてみる。

1については、身近な相談支援事業所での包括的・継続的かつ生活に関わる分野との協議・協働による相談支援がベースにあり、その事業所を支援する形でのスーパービジョンおよび人材育成・複雑な相談に関する対応等を実施する総合相談支援センターが必要であり、それに加えて障害特性に応じた専門相談を担うセンターが必要であると言われている。多層的相談支援体制が整備され、連携がとれた支援になると、今の1人相談支援事業所の抱える課題が解決され、かつそれぞれの地域で現場における人材育成も可能になると期待できる。

一方で、複数かつ多層にわたる相談支援事業所のそれぞれに抽出される課題をどのように集約し、役割分担をして課題解決を行うのか等、それぞれの地域での地域特性を勘案した検討の必要性を感じる。

2については、現在、初任者研修・現任研修・専門研修と整備されつつあるが、社会資源開発および多職種・他機関との連携調整を行う上で必要な合意形成能力や交渉能力・プレゼンテーション能力等の必要能力を向上させる研修にまで至っていない現状があるように感じる。

また、本来であれば相談支援事業が対人支援であり、その場での状況判断や情報提供が必要であり、かつ多種多様な分野との連携で成り立つことからも、座学とともに現場においてのOJTが座学以上の頻度と労力をかけて行われるべきであると考えるが、その実施の仕組みや財源確保には至っていない。現状では1人相談支援事業所も多く、OJTの有無こそが、相談支援員の質や相談支援事業の充実の地域間格差の一番大きな要因になっているのではないかと考える。

3については、サービス利用計画の作成の対象者が拡大される中で、力を入れて行うべき事業だと考える。障がいのある当事者や家族がエンパワメント支援事業によりグループ活動など交流の場を持ち、またピアカウンセリング等を実施することにより、当事者による正しい情報が伝わる場が持てる。また当事者が地域での暮らし方や知恵を語り合うことにより、当事者同士で活きた情報交換ができ、地域生活に移行できる当事者が増え、その充実により地域生活の定着を促進すると考える。

エンパワメント支援事業においては、当事者および家族と支援者双方の役割の理解と、継続し続けるためのサポート(当事者自身の人材育成の場等)の仕組みが必要であると考える。

4については、当事者の暮らしが分野や年齢で区切られることのないように関わる機関とともに考える土台が必要であり、関係する分野の知識や取り組みにも、ある程度の知識や人脈を持ち、だれにでも分かる言葉で情報共有し、同じ目標に向かって支援するためのチーム形成が必要であると考える。また、それは個人や事業所としての資質にとどまることなく、それぞれの街で協働できる仕組み・話し合える場の設定が必要だと考える。

今回の新法へ期待することは、体制の整備にはすべて現場で活かされる人材育成が同時に行われるべきであり、地域で暮らすための支援には当事者を中心とした関わるたくさんの方との共通理解が欠かせず、そのためのOJTを含めた人材育成の仕組みが整えられることを期待したい。

(かとうめぐみ 半田市障がい者相談支援センター)