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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

子どもへの応益負担をゼロに

中村尚子

障害児分野の骨格提言は、児童福祉法の領域と関連するため、障害者自立支援法(以下、自立支援法)に代わる新法(総合福祉法)の骨格提言とは別立ての「関連する他の法律や分野との関係」(以下、関係事項)として記述されています。

関係事項の冒頭「権利擁護」の項では、子どもは権利の主体であり、最善の利益が保障されなければならないと述べ、「早期支援」「通所による支援」「障害児入所支援」などの各論について、「地域の身近な場所」「児童一般施策の活用」という観点での改革の必要性を指摘しています。各論に盛り込まれた事柄の大半は、2008年7月から議論されてきた「障害児支援の見直し」と同一線上にあり、2012年4月からのいわゆる「つなぎ法」(2010年12月改正)の施行によって具体化するものもあります。

障害児分野でも「二つの指針」を軸に

自立支援法施行以来、障害児分野では発達しつつある子どもという特別な時期の課題を無視したまま、障害分野の土俵で成人期の仕組みに同調させる施策がすすめられてきました。そして、応益負担などが児童福祉法の中に持ち込まれてきたのです。

自立支援法に代わる新法を具体化する際には、同時に、児童福祉分野に染み込んだ自立支援法の「毒」をぜひとも取り除かなければなりません。

そのためには、骨格提言の「はじめに」に書かれている二つの指針を、障害児分野にも生かす手だてが講じられなければならないと思います。「障害のある児童が他の児童と平等にすべての人権及び基本的自由を完全に享有することを確保する」と述べた障害者権利条約(第7条)と、「速やかに応益負担制度を廃止」することなどを約束した基本合意文書に基づいて、児童福祉法関係法制の制度改革がすすめられることが求められています。

子どもほど費用負担が強まる

しかし、骨格提言を蔑(ないがし)ろにして、自立支援法を廃止せず部分改正で済ませようとする法案が閣議決定されました。政府は、その理由の一つに、先にも触れた「つなぎ法」によって改善がされていると述べています。しかし、障害児分野の問題は何ら解決されていません。加えて、「つなぎ法」の施行によって、児童福祉に入り込んだ自立支援法の仕組みは、さらに強化し固定化され、ますます子どもの権利が遠のくように思われます。

たとえば、政府がすでにほとんどの利用者の福祉サービス利用費用は無料か低額と宣言している応益負担問題をみてみましょう。

障害のある幼児が通園施設(児童発達支援センターなど)に通う場合の負担は、「当該通所給付決定保護者の家計の負担能力その他の事情をしん酌して政令で定める額」(児童福祉法第二十一条の五)ですから、親に収入のある子育て家庭のほとんどは無料になどなりません。障害に応じたケアを受けようとすると、子どもほどお金を払わなければならないのです。

また、流行性の病気にかかることが多い、きょうだいや親の都合で通園を休みがちなどといった、子どもが通う施設の特徴を踏まえて、報酬の日額制を改善してほしいという声が上がっていましたが、そうしたことが検討されることはありませんでした。

骨格提言で掲げられた、「障害に伴う必要な支援は原則無償」、「事業運営報酬の月額化」の実現は、障害児支援の分野では最低ラインの願いです。骨格提言をベースにしつつ、子どもの発達を保障するという視点を明確にした改革を望みます。

子どもの福祉を自立支援法にしてはならない

子どもという時期に光を当てた福祉改革という点では、制度利用の入り口が契約制であることは改善しなければならないと思います。応益負担、日額報酬制と並んで、障害児分野が先駆けとなって児童福祉法の中に直接契約制を持ち込みました。子どもにとって必要な療育を受けるにあたって、「選択」という名で保護者に責任を帰す契約制度は、児童福祉の仕組みとしてふさわしくありません。子ども、とりわけ障害が確定しないケースを含む乳幼児期の福祉から契約制度をなくしていく方向を、今後検討してほしいと思います。

ここで注目しなければならないのは、政府がすすめようとしている「税と社会保障の一体改革」の目玉である「子ども・子育て新システム」です。現在、政府は新システムを具体化するための法案を準備しています。

しかし、新システムになっても、0~2歳児の保育所が増えるわけではないので、「待機児解消」も期待できません。では、新システムの目的は何か。それは、契約制度を保育所などすべての子どもの施設に拡大しようとすることにあると言えます。新システムでは、保育所に代わる「こども園」に子どもを通わせるために、親は就労時間などによる「認定」を受け、認定に応じた費用を「個人給付」され、園と契約します。一時預かりなどのメニューもありますが、その部分は市町村事業で、交付金で対応。これは自立支援法と同じ設計の制度です。

こうした動きを知るにつけ、障害者福祉制度改革は、単に障害分野だけで考えていたのではダメだということが分かります。子ども全体の権利を守る研究や運動とも共同して、制度改革を求めていかなければならないと言えましょう。

(なかむらたかこ 障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会)