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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

「工程表」は新法制定への道標

森祐司

1 自立支援法から新法制定に向けて

障がい者制度改革推進会議総合福祉部会では、平成22年4月27日の第1回開催以来、新法の制定に向けて18回にわたる検討を重ね、23年8月30日「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言―新法の制定を目指して―」を取りまとめ、同年9月26日に推進会議の了承を得て、蓮舫内閣府特命大臣に手交した。その後、厚労省は骨格提言を基に新法案作りの作業に取りかかったが、その動向は知らされることなく、総合福祉部会に対しての打診や協議等一切行われず、構成員からは厚労省への大きな不信の声が上がった。

一方、日本障害フォーラム(JDF)では、骨格提言の内容が膨大であり、かつ自立支援法から新法への移行に際する事業体系の廃止~施行への調整関係も明確に示されていない等の問題点があったことから、それら課題を解消し新体系が円滑に施行できるよう、骨格提言を最大限反映した法案作りと分かりやすい実施案の構築を模索した。そして、実態を明確にするための「工程表」を作成することとなった。

ようやく開催された2月8日の第19回総合福祉部会において、初めて「厚生労働省案」が公表されたが、同日、JDFでは、新法への具体的な工程表を書き込んだ「障害者総合福祉法制定に向けて」(第1次案)を提出した。第1次案は4本の柱((1)新法制定に関する基本的考え方、(2)自立支援法の事業等の問題点、(3)新法と自立支援法との関係・新法実施の工程表、(4)新法作成にあたってのチェックポイントおよび引き続き検討すべき事項)から構成され、骨格提言を踏まえた内容とした。

2 JDFの工程表の意義と期待

工程表をなぜ作成したか、その理由は明白である。本来、総合福祉部会の役割として、骨格提言の論点整理において自立支援法上の各事業の欠点と利点の具体的かつ詳細な検討、ならびに新法作成と施行に向けた具体的工程表を作成すべきだったであろう。しかし、平成23年8月30日までに骨格提言をまとめ上げるという作業上の縛りから作成するには至らなかった。そのためJDFは、新法への移行と確実な施行を図るためには具体的な工程表が不可欠と考え、また、関係者への信頼や安心を高めていくためには、事業体系の最終的完成図の明示が喫緊の課題として工程表を策定した。

さらに、この工程表がだれにも分かりやすいスタイルであることを念頭に、以下の点に留意して作成した。

(1)骨格提言の10事項(1.法の理念・目的・範囲、2.障害(者)の範囲、3.選択と決定、4.支援体系、5.地域移行、6.地域生活の資源整備、7.利用者負担、8.相談支援、9.権利擁護、10.報酬と人材確保)と旧法の事業との関連を明確に示すこと。

(2)新法の施行時期と旧法の関連事業の廃止時期との関連性を明らかにすること。

(3)自立支援事業と地域生活支援事業の統合化を検討整理すること。

(4)地域生活支援事業の義務的経費化を検討すること。

(5)工程表から明らかになる検討課題を解明すること。

(6)新法の事業のうち試行すべき事業と、その施行期間を明確にすること。

(7)完全施行後の事業体系の最終的完成図を明らかにすること。

この工程表によって、利用者・行政・事業者・議員等関係者ならびに国民に新法の全体像と施行時期等を周知させ、また、厚労省案の工程表の作成や新法と厚労省案との対比(相違点)の明示、骨格提言の10事項のうち厚労省案に取り上げられなかった事業の明確化とその理由開示のほか、今後の障害施策の方向性を明らかにすること等を言及できた意義は大きい。

3 障害者総合支援法案、閣議決定から国会審議へ

前述の通り、厚労省は第19回総合福祉部会において、厚労省案を発表したが、わずか4枚の簡略な中身で「法律名の変更」「理念や目的の規定」「サービスの対象に難病患者を追加する」等、一部改正にとどまった一方で、障害程度区分の在り方については施行後5年を目途に検討するとし、就労支援の在り方についても同様に検討するとした。

佐藤久夫総合福祉部会長は、「骨格提言60項目のうちで厚労省案に取り入れられたのは3事項のみである」と述べるなど多くの構成員から批判と抗議が相次いだ。そこで、民主党はJDFはじめ、多くの障害者団体や実施主体の地方公共団体等関係者とヒアリングを持ち、同年3月8日、障害者総合支援法案を発表した。

民主党が新たに発表した法案の趣旨は、障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて、地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるため、関係法律の整備について定めるとし、法の名称を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)とした。

その上で、法の基本理念を、法に基づく日常生活・社会生活を実現するため、社会参加の機会の確保及び地域社会における共生、社会的障壁の除去に資するよう総合的かつ計画的に行われることとし、障害者の範囲については、制度の谷間を埋めるべく、障害者の範囲に難病等を加えることとした。

また、障害者に対する支援として、1.重度訪問介護の対象拡大、2.共同生活介護(ケアホーム)の共同生活援助(グループホーム)への一元化、3.地域生活支援事業の追加を明記し、施行期日を平成25年4月1日(但し、一部事業は平成26年4月1日施行)とした。

そして、法の理念・目的・範囲を実践する上で最も見直しが求められていた課題に関しては、附則に法の施行後3年を目途として、1.常時介護を要する者に対する支援、移動の支援、就労の支援、その他障害福祉サービスの在り方、2.障害程度区分の認定を含めた支給決定の在り方、3.意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方、が検討規定として明記されたことは、大変大きな成果と言える。

4 法案審議に求むこと

この障害者総合支援法案は、平成24年3月13日、国会に提出された。JDFでは、工程表を最大限参考にしていただき、この法案が権利条約批准において十分に応えられる法律となるよう、特に、次の事項について国会の場での活発な意義ある審議を願い、かつ期待するものである。

(1)総合福祉部会の骨格提言をどの程度取り入れているか。

(2)権利条約との整合性はどうか。

(3)基本合意文書をクリアしているか。

(4)基本理念の条項の“可能な限り”の表記を削除できないか。

(5)検討事項について、1.検討の目標をどこに定めるのか。2.骨格提言の水準を目標と考えてよいのか。3.検討の開始時期やメンバー構成、基礎データの集約をどう考えているのか。

(6)改正障害者基本法の障害者政策委員会との関係はどうなるのか。

なお、検討期間として、「この法施行後3年を目途として」とあるが、当面の運用に際しても、必要な具体的改善の明示が求められる。

今回の制度改革に障害当事者参画を実現させた意義と役割が、初めての試みとして終わるのではなく、今回の参画を起点として、これから始まるさまざまな施策立案等へ波及していくことが、「Nothing about us without us(私たち抜きに私たちのことを決めないで)」という権利条約の基本精神を体現するものと考える。

(もりゆうじ 日本身体障害者団体連合会常務理事、JDF政策委員会委員長、本誌編集委員)


障害者総合福祉法(仮称)(新法)と障害者自立支援法の関係ならびに新法実施の工程表

平成年(西暦) H24(2012) H25(2013) H26(2014) H27(2015)   完全施行後の体系 備考
新法の流れ 6月成立 8月一部施行   8月全面施行
1.法の理念・目的・範囲 1.法の理念・目的
新法 6月本則規定 8月施行     新法の目的(権利性の確認等)  
自立支援法   7月廃止    
2.障害(者)の範囲 2.障害(者)の範囲
新法 ・改正障害者基本法第2条1項に規定する障害者 6月本則規定 8月施行     障害者基本法第2条に準ずる規定・制度の谷間を生まない規定ぶり  
自立支援法   7月廃止    
3.選択と決定(支給決定) 3.選択と決定(支給決定)
新法 本人策定(支援を受けた自己決定を含む)のサービス利用計画と市町村の支援ガイドライン 6月本則規定 試行事業 8月施行 本人策定(支援を受けた自己決定を含む)サービス利用計画と支援ガイドラインに基づく協議調整型支給決定方式  
・障害程度区分 *身・知・精ごとの審査事項の調整       7月廃止
4.支援(サービス)体系   4.支援(サービス)体系
A.全国共通の仕組みで提供される支援 A.全国共通の仕組みで提供される支援
(1)就労支援 (障害者就労センター) 6月本則規定 試行事業 8月施行 就労支援・障害者就労センター 地域活動支援センターの一部は、就労支援・障害者就労センターに統合し個別給付化
・就労移行支援
・就労継続支援(A型)
・就労継続支援(B型の一部)
・地域活動支援センターの一部(地域生活支援事業)
      7月廃止
(2)日中活動等支援1.デイ・アクティビティセンター(作業活動中心型・創作活動健康増進型 2.日中一時支援、ショートステイ 6月本則規定 試行事業 8月施行 日中活動支援・デイアクティビティセンター(作業活動中心型)・デイアクティビティセンター(創作活動健康増進型) 日中一時支援、ショートステイ日中一時支援等地域生活支援事業に係る体系事業は日中活動支援に統合し個別給付化
・就労継続支援(B型の一部)
・生活介護
・療養介護
・地域活動支援センターの一部、日中一時支援(地域生活支援事業)
・ショートステイ
・自立訓練(機能/生活)
      7月廃止
(3)居住支援(グループホーム) グループホームとケアホームの一体化(福祉ホームからの移行を含む) 6月本則規定 8月施行     居住支援(グループホームに一本化)  
・グループホーム、ケアホーム   7月廃止    
(4)施設入所支援         施設入所支援  
1.住まいの場 6月本則規定 8月施行    
・施設入所支援(住まいの場)   7月新法移行    
2.日中活動の場 6月本則規定 試行事業 8月施行
・生活介護、自立訓練、就労支援、就労継続(日中活動の場)       7月廃止
(5)個別生活支援         個別生活支援 障害者程度区分に連動する国庫負担基準を支給決定権の上限としないこと。国庫負担基準を超える分については国が市町村の財政を支援すること。
1.個別包括支援(パーソナルアシスタンス制度) 6月本則規定 段階施行 8月施行
・重度訪問介護等
・重度包括支援
対象者の拡大 7月廃止 1.個別包括支援(パーソナルアシスタンス制度)
2.居宅支援 6月本則規定 8月施行     2.居宅支援  
・居宅介護(身体介護・家事援助)   7月廃止    
3.移動支援 6月本則規定 8月施行     3.移動支援 地域生活支援事業に係る移動支援は、他の移動支援に統合し個別給付化
・移動支援(地域生活支援事業)
・行動援護
・同行援護
  7月廃止    
(6)コミュニケーション支援及び通訳・介助支援         コミュニケーション支援 コミュニケーション支援は個別給付化
1.コミュニケーション支援 6月本則規定 8月施行    
・コミュニケーション支援(地域生活支援事業)、   7月廃止    
2.通訳・介助支援 6月本則規定 8月施行     通訳・介助支援 通訳・介助支援は個別給付化し、都道府県単位で実施
・盲ろう者向け通訳・介助員派遣(都道府県地域生活支援事業)   7月廃止    
(7)補装具・日常生活用具 6月本則規定 8月施行     補装具、日常生活用具 補装具同様、日常生活用具の個別給付化
・補装具
・日常生活用具(地域生活支援事業)
  7月、補装具に統合し新法に移行        
B.地域の実情に応じて提供される支援   B.地域の実情に応じて提供される支援
・住宅入居等支援事業(居住サポート事業)
・支給決定が必要がないサービス
・福祉ホーム
・その他
6月本則規定
6月本則規定
6月本則規定
6月本則規定
8月施行
8月施行
8月施行
8月施行
    ・住宅入居等支援事業(居住サポート事業)
・支給決定が必要がないサービス
・福祉ホーム
・その他の事業
 
5.地域移行 5.地域移行
・地域移行の法定化
・地域移行プログラムと地域定着支援
6月本則規定
6月本則規定
8月施行
8月施行
    ・地域移行の法定化
・地域移行プログラムと地域定着支援
 
6.地域生活の資源整備 6.地域生活の資源整備
・地域基盤整備10ヵ年戦略 6月本則規定 8月施行     ・地域基盤整備10ヵ年戦略  
7.利用者負担 7.利用者負担
新法 6月本則規定 8月施行     応能負担/コミュニケーション支援は無償 ・高額な収入のある等利用者負担の発生する場合は、現行の負担水準を上回らないこと。
・障害福祉サービス、補装具、自立支援医療、介護保険を合算し、過大な負担とならないようにする。
自立支援法   7月廃止    
8.相談支援 8.相談支援
新法 6月本則規定 試行事業 8月施行 新法の相談支援体系  
・相談支援事業       7月廃止
9.権利擁護 9.権利擁護
・オンブズパーソン制度 6月本則規定 8月施行        
10-1.報酬 10-1.報酬
・支払い方式(1.施設系:利用者個別給付報酬(日払い)、事業運営報酬(月払い)、2.在宅系(時間割)) ・常勤換算の廃止 6月本則規定 8月施行     ・支払い方式(1.施設系:利用者個別給付報酬=事業費(日払い)、事業運営報酬=事務費・人件費(月払い)、2.在宅系(時間割))・常勤換算方式の廃止 各種の加算を整理し、可能なものは基本報酬に組み込む。
自立支援法   7月廃止    
10-2.人材確保  
新法 6月本則規定 8月施行     新法  
11.その他(成年後見制度利用支援など) 11.その他(成年後見制度利用支援など)
新法 6月本則規定 8月施行     新法