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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年5月号

ワールドナウ

ESCAP地域準備会合開かれる

松井亮輔

はじめに

去る3月14日(水)から16日(金)までの3日間にわたって、第2次アジア太平洋障害者の十年実施最終年評価ハイレベル政府間会合(以下、ハイレベル政府間会合)のための地域準備会合(以下、地域準備会合)がバンコクの国連経済社会委員会(ESCAP)の国際会議センターで開かれた。参加者は、23か国と2地域(香港とマカオ)の政府、国際機関の代表および15の市民社会団体(CSO)の関係者42人を含め、155人(うち日本関係者は、全体で30人)である。

地域準備会合の主な目的は、昨年5月のESCAP総会で第2次十年(2003年~2012年)に続いてアジア太平洋地域において障害者権利条約の批准と履行を促進するための新十年(2013年~2022年)を実施することが決議されたことを受けて、今年の10月29日(月)~11月2日(金)、韓国のインチョン市で開催されるハイレベル政府間会合に諮られる新十年(「障害者の権利実現の十年」)の政策ガイドラインとなる「インチョン戦略」草案についての検討である。

地域準備会合に諮られた草案は、昨年の12月14日(水)~16日(金)、同じくESCAPの国際会議センターで開催されたハイレベル政府間会合のための地域ステークホルダー会議(地域関係者会議)での検討を経て、大幅に修正されたもの(草案修正版)で、その内容は、1.前文、2.主要政策方針と原則、3.インチョン目標と下位目標、および4.効果的な実施方法、から構成される。3のインチョン目標と下位目標には、10の目標(表1)と22の下位目標、および35の指標が含まれる。たとえば、目標1「貧困の削減と雇用見通しの改善」の下位指標の一つとしては、労働年齢の障害者の就業率と労働人口全体の就業率の格差を半減すること、そして、その進捗状況をモニターするための指標として、公的および民間セクターにおける障害のある男女の対人口就業率が提案されている。

(表1)インチョン戦略案の10の目標

目標1 貧困の削減と雇用見通しの改善
政治参加と意思決定過程への参加の促進
物理的環境、公共交通機関、知識と情報・コミュニケーションへのアクセスの向上
社会的保護の強化
障害のある子どものための早期介入と教育の拡大
ジェンダーの平等と女性のエンパワメントの確保
災害準備と対応への障害の視点包摂の確保
障害データの信憑性と比較可能性の向上
障害者権利条約の批准・履行と(条約との)国内法の整合性の促進
10 小地域、地域内および地域間協力の推進

地域関係者会議と地域準備会合の違い

前回の地域関係者会議と今回の地域準備会合との大きな違いは、前回は、CSOの参加数に制限はなかったため、全参加者115人中CSO関係者が67人と過半数を占め、オブザーバー参加とはいえ、発言も自由にできた。それに対し、今回は参加できるCSOは15団体(うち障害当事者団体は11)(表2)に絞られたものの、オブザーバー参加ではなく、正式な参加資格を与えられた。しかし、各CSO関係者が自由に発言するのではなく、インチョン戦略案の各項目についての各国政府代表による発言の後、15のCSOを代表して統一意見を述べるという方式がとられた。そのためCSO関係者は、地域準備会合前日の13日の午後から深夜にかけ、参加者の多くが泊まっているホテルの会議室で、同戦略案の各項目についての統一意見を取りまとめた。

(表2)地域準備会合への参加を認められた15のCSO

・アジア太平洋障害者センター(APCD)
・アジア太平洋障害フォーラム(APDF)
・CBRアジア太平洋ネットワーク
・DAISYコンソーシアム
・DPIアジア太平洋
・インクルージョン・インターナショナル(II)アジア太平洋
・国際リハビリテーション協会(RI)アジア太平洋地域委員会
・世界盲人連合(WBU)アジア太平洋
・世界ろう連盟(WFD)アジア太平洋
・世界盲ろう者連盟(WFDB)アジア太平洋
・世界精神医療ユーザー・サバイバー連盟(WNUSP)
・ASEAN自閉症ネットワーク
・ASEAN障害フォーラム
・太平洋障害フォーラム(PDF)
・南アジア障害フォーラム(SADF)

そのベースとなったのは、3月5日(月)~6日(火)、韓国のアジア太平洋障害フォーラム(APDF)会議組織委員会の呼びかけでソウルに集まったAPDFなど6つのCSOが取りまとめたものと、アジア太平洋障害者センター(APCD)など、4つのCSOがメールにより取りまとめたものである。各項目についてさまざまな意見が出され、時には紛糾したが、統一意見書をまとめることについては基本的な合意ができていたため、何とか同日中にその作業を終えることができた。

この統一意見書づくりでCSO関係者が心掛けたことは、これまではほとんど考慮されてこなかった障害グループ、具体的には、大洋州などの環状サンゴ島に住む障害者、障害のある先住民、ハンセン氏病を患う人々なども対象に含めるなど、同草案の内容をさらに深化・拡実させることである。

ハイレベル政府間会合までのプロセス

ESCAP事務局では、今回の地域準備会合での議論を踏まえ、さらに修正したもの(草案再修正版)をこの6月末までに作成し、公表するとしている。それがハイレベル政府間会合に諮られることになる。

今回の地域準備会合では、草案修正案に対してCSOからかなりの修正意見がでたことを考慮して、いくつかの政府代表から、ハイレベル政府間会合までに今回同様CSOも参加し、意見表明ができる地域準備会合を再度開き、議論(セカンド・リーディング)をしたほうがよいという意見があった。

また、ハイレベル政府間会合ではCSOは発言できないということがESCAP事務局の説明で明らかになったことから、CSOとしては「わたしたちのことは、わたしたち抜きで決めてはならない」という立場から、ハイレベル政府間会合の前に地域準備会合を再度開くよう、強く主張した。

しかし、日本をはじめ、多くの政府関係者の支持が得られず、結果的には、セカンド・リーディングはしないで、ハイレベル政府間会合に委ねられることになった。そして、その妥協案としてタイ政府代表から出されたのが、「国連本部での障害者権利条約交渉時NGOにも発言や意見書の提出が認められたという前例に倣うべき」という提案である。その提案への賛成が多かったことから、ハイレベル政府間会合でもインチョン戦略草案(再修正版)の各項目に関する政府代表の発言の後、CSOの発言を認めるということになった。

もっとも今回と同様、15のCSOとしての統一意見の表明しか認められないため、CSOは同草案(再修正版)についての統一意見をまとめ、事前にESCAP事務局に提出することを求められる。CSOから出される統一意見書は、公式文書としてESCAPのウェブサイトに掲載されるとともに、各国政府の文書と一緒に、資料配布される。

このことを受けて、15のCSOは、6月末までにESCAP事務局から公表されるインチョン戦略草案再修正版の各項目について、各CSOの意見を7月末までに集め、それらをベースに8月上旬に筆者を含む、7人のCSO関係者から構成される起草委員会でとりまとめ、15のCSOの了解を得た上で、8月末までにESCAP事務局に提出することで合意した。

おわりに

今年はハイレベル政府間会合に合わせ、アジア太平洋障害フォーラム(APDF)会議、国際リハビリテーション協会(RI)世界会議およびDPIアジア太平洋地域会議が開催される。

その意味では、この10月のインチョンでのハイレベル政府間会合は、2013年以降のアジア太平洋地域における障害施策の方向性を決める極めて重要なものだけに、できるだけ多くの日本関係者が参加し、この会合の成功に積極的に貢献していただきたい。それは、第1次十年(1993年~2002年)以来、十年の推進に率先して取り組んできた日本関係者に期待される役割と言える。

(まついりょうすけ APDF事務局長)