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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年6月号

私のコミュニケーション保障

知的障害のある人にとってのわかりやすい情報
―みんながわかる新聞「ステージ」の取り組み

全日本手をつなぐ育成会「ステージ」編集委員

「ステージ」は1996年に第1号がスタートした知的障害のある人向けに作られた新聞です。1年に4回発行(春号、夏号、秋号、冬号)されます。新聞の大きさはA3サイズで8ページ(カラー・4色)、漢字にはすべてルビがふってあります。写真やイラストや図表を多く入れて、わかりやすいように工夫してあります。「ステージ」は知的障害のある当事者5人、福祉関係者1人、新聞記者1人の計7人の編集委員で作っています。今回は知的障害のある当事者の編集委員2人が、「知的障害のある人にとってのわかりやすい情報」について執筆しました。

わかりやすい情報を読者に伝える

1号を作るのに編集会議を2回開きます。1回目は、新聞に載せる内容と取材に行く人や書く人を決めます。2回目は、書かれた記事を編集委員が読み、難しい言葉がないかチェックします。

「ステージ」の内容は、1面はみんなが関心をもっている話題を取りあげます。2・3面はニュース面です。4面はエンターテインメント(グルメ、芸能など)を載せます。5面はスポーツです。6面は暮らしに役立つ情報です。7面は仕事をしている本人の取材記事や読者からの手紙やメールを載せます。8面は、テーマを決めずにいろんなことを取りあげています。8面では「やってみよう」の企画もあります。編集委員がさまざまなことを体験して記事にします。過去には、デートをしたり、乗馬にチャレンジしました。

以前、「ステージ」は1面、4面、5面、8面だけがカラーで、他は白黒のページでした。また、文字の大きさも、大きく見やすい記事もあれば、小さくて読みにくい記事もありました。今では、全ページがカラーで文字も大きくし読みやすい新聞になりました。

「ステージ」は全国の特別支援学校の生徒に読んでもらっています。学校では、「ステージ」を授業に利用したり、教室の壁に貼ったり、実際に新聞を作ってみたり、いろいろな使われ方がされているようです。また、社会人になっても「ステージ」を読んでいると、職場などで話題のニュースの話になったとき、情報があることで会話もできたり、理解もできます。

知的障害のある人は、文字にルビがふってあるだけではわかりません。わかりやすい言葉で、文章はなるべく短くすることです。また、「ステージ」は知的障害のある人が読者だからといって、子どもっぽい言葉や表現を使っていません。大人から子どもまでだれもが理解しやすい「わかりやすさ」を目指しています。

2回目の編集会議は、新聞記者や福祉関係の人が書いた記事を本人である編集委員たちが読み合わせをし、むずかしい言葉やわかりにくい表現を修正していく会議です。プロの記者が書いた記事でも全体に赤字が入ります。

私が初めて「ステージ」の編集会議に参加したとき、新聞記者や福祉関係者の人たちに対して「みんなの話すスピードが速すぎて、わからない!」と話したこともあります。現在は、編集委員が順番に司会をし、支援をしてもらいながら会議を進めています。(小池美希)

知的障害のある人へのわかりやすい情報提供とは?

知的障害のある人に関係する国や災害などの重要な情報は、できるだけわかりやすい表現で提供してくれるといいのですが、わかりやすい表現といっても何が理解できて何が理解できないかが問題です。それと、知的障害のある人は、個人によってそれぞれ情報を理解する能力に差があるため、全部が全部わからないとは言いきれません。

たとえば、テレビを観たり新聞を読むなかで、それがわかる人はストレートに情報が理解できますが、わからない人は親や支援者に「これは何を言っているのですか?」と聞きます。ただそこで、解説する人がいいかげんに説明したり、説明自体を放棄することがあると、情報を得ることができなくなってしまいます。

それを解決するには、知的障害のある人と、親や支援者の人間関係を改善していかなければなりません。それには、親や支援者が知的障害のある人の希望や気持ちを最大限に尊重して、情報を正しく得るための環境をつくってあげることが必要だと思います。

それと、知的障害のある人のための国語教室を設けることが必要です。できるだけわからない表現をなくす努力も必要だと思います。

全国の本人の会のなかで「ステージ」を活用しているところは少数だと思います。私が所属している本人の会では「ステージ」に対して関心を示す人が少ないため、活用していません。しかし、ある本人の会から「ステージは良い新聞ですね。これからもああいうことやこういうことをのせてほしい」というメールをいただきました。本人活動でステージを活用していくことは難しいかもしれませんが、必要なことでもあるので、「ステージ」を使って情報講座やワークショップを開いていくのもいいかもしれません。ちょっとずつ関心を持ってもらえるように、これからも「ステージ」をつくっていこうと思います。(横山正明)