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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年7月号

難病患者支援の歴史的経緯

厚生労働省健康局疾病対策課

1 難病対策の経緯

(1)スモン発生とその対策

今日の難病対策の発端となった一つが、スモンである。

スモンは、脊髄や視神経、末梢神経に変化が起こり、初め両下肢のしびれなど知覚異常をきたし、これが次第に身体の上部へと広がり、進行すると歩行障害や視力障害などをもたらす、治療のはなはだ困難な疾病である。

このスモンが、昭和39年頃から全国各地域で集団発生を思わせる多数の患者が発生し、当時はその原因が不明、経過は遷延経過をたどり、失明や歩行障害などの後遺症を残すことが多く、患者は周囲から社会的疎外を受けるなど、大きな社会問題となった。

原因不明、治療方法未確立の疾病に対するり患の不安が、病気そのものの関心を呼ぶと同時に、不幸にしてスモンにかかった人々を救済すべきとの声も高まり、昭和44年10月には全国スモンの会が結成され、国や自治体に対して患者の救済、原因の解明などの対策を要望するようになった。この要望に応えて、昭和46年度から、国はスモンの入院患者に対して月額1万円を治療研究費の枠から支出することとし、患者の救済に乗り出す第一歩となった。

一方で、この原因不明の疾患に対する研究体制としては、昭和39年度から厚生科学研究費、医療研究助成費などで研究が進められていたが、昭和44年度にはそれまでの研究班がスモン調査研究協議会に組織され、厚生省の大型研究班によるプロジェクト方式の調査研究が強力に進められることとなった。

その結果、昭和47年3月にはスモン調査研究協議会によって、疫学的事実ならびに実験的根拠から、スモンと診断された患者の大多数は、キノホルム剤の服用によって神経障害を起こしたものと判断されるに至った。

この種の研究班体制およびその成果は厚生省の扱った研究としてもかなり特異的であり、その成功はいわゆる他の難病に関する研究に対しても、このような方式によって成功を収めることが可能ではないかという期待が寄せられる結果となった。

(2)難病対策の推進

このように、スモンに対する取り組みが難病対策の推進に大きな役割を演じ、スモン以外の難病(ベーチェット病、サルコイドーシス、多発性硬化症など)に対しても厚生省として対策を講じていくこととなった。

昭和46年4月に厚生省内に難病対策のためのプロジェクトチームが設置された。また、昭和47年4月には、国会においても難病についての集中審議が行われるなど、難病対策は国家的な課題となっていった。

そして、政府与党を挙げて難病対策を推進することを新しい施策として取り上げることとなった結果、昭和47年10月に「難病対策要綱」をまとめるに至り、大きく整理されることとなった。

「難病対策要綱」によれば、難病対策として取り上げるべき疾病の範囲については、

  1. 原因不明、治療方法未確立であり、後遺症を残すおそれが少なくない疾病
  2. 経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家庭の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病

とされており、純医学的観点と患者の置かれている臨床像および社会的立場という2つの観点から整理された。

現実にはこのような疾患はかなりの数になると考えられるが、すでに別個の対策の体系が存するものについては、重複を避けるため難病対策として取り上げないこととされた。

対策の進め方としては、「難病対策要綱」を踏まえ、

  1. 調査研究の推進
  2. 医療施設等の整備
  3. 医療費の自己負担の軽減

の3本柱を中心として難病対策の推進を図ることとされた。

難病対策の対象には種々の疾患が含まれるが、このうち、症例数が少なく、原因不明、治療方法が未確立であり、かつ生活面への長期にわたる支障がある特定の疾患については、難治性疾患克服研究事業により原因の究明、治療方法の確立に向けた研究を行うとともに、患者およびその家族のQOLの向上に資する難病特別対策推進事業等、さまざまな施策が行われ、制度の安定化・適正化に向け、必要な見直しを行いつつ、総合的な事業の充実を図り、現在に至っている。

2 難病対策の現状と課題

難病患者の方々に対する支援策については、総合的な事業の充実を図ってきたものの、近年ではさまざまな課題が生じてきている。

とりわけ、特定疾患治療研究事業(いわゆる医療費助成)については、難病対策の柱であると同時に、その重要性故に重い課題を抱えている。この事業は、対象疾患の治療費について、社会保障各法の規定に基づく自己負担の全部または一部に相当する額の2分の1を毎年度の予算の範囲内で都道府県に対して国が補助する事業である。その際、患者の所得や治療状況を考慮に入れ、患者の自己負担分は、入院の場合は0~23,100円/月、外来の場合はその半分と規定されている。

現在のところ、この事業の対象は56疾患に限定されており、類似した症状や経過を示す疾患であっても、指定された疾患以外は助成の対象とはならない。このため、不公平感から対象疾患の拡大要望が多数の患者団体から寄せられている。

その一方で、増加率は疾患により異なるものの、同事業の受給者数は確実に毎年増加の一途をたどっており、同事業に係る総事業費も毎年増加している。近年では、事業の伸びに対する国の予算措置が追いつかず、都道府県が超過した費用を負担する状態が続いている財政的な課題が生じており、都道府県知事会などからも、制度の安定性を確保するなど早急な改善が求められている(図1)。

図1 特定疾患治療研究事業の予算額と都道府県への交付率の推移
棒グラフ 特定疾患治療研究事業の予算額と都道府県への交付率の推移拡大図・テキスト

この他にも、研究の対象疾患の拡大、希少でない疾患の取り扱いや希少疾病に対する医薬品の研究開発との連携などの治療研究の課題、希少性故に社会一般の理解が得られにくい上に、医療現場においても専門的医療機関を探すことに困難をきたすなど患者を受け入れる医療体制の課題、既存の難病施策や障害者施策の対象とならないような制度の谷間の存在することや難病は症状の変動があり、現行の身体障害者とは別にその特性を考慮した介護や福祉サービスが必要であることなどの福祉の課題、難病の特性に応じた就職・復職支援や就職後の雇用管理などの就労支援に関する課題など多岐にわたって生じており、課題解決に向けての取り組みが求められている状況にある。

このように多くの課題がある状況下ではあるが、昨年夏に障がい者制度改革推進会議総合福祉部会でまとめられた「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」を踏まえて、障害者福祉施策を見直し、現行の障害者自立支援法を廃止し、障害者総合支援法を制定することになった。この中で、制度の谷間を埋めるべく、障害者基本法の改正を踏まえ、法の対象となる障害者の範囲に難病を加えることとしている。

3 今後の難病対策の見直し

これらの課題解決のため、平成22年4月に、厚生労働省内に、厚生労働副大臣を座長とした「新たな難治性疾患対策の在り方検討チーム(以下「省内検討チーム」)」を設置し、制度横断的に難病対策の検討を進めることとした。

また、同時に、厚生科学審議会疾病対策部会難病対策委員会(以下「難病対策委員会」)では、医療費助成制度の安定的かつ公平・公正な仕組みの構築をはじめとして、治療研究の推進、医療体制の整備、国民への啓発普及、福祉サービスの充実、就労支援等を含めた難病対策全般の見直しについて検討を進めることとした。その結果、難病対策委員会を昨年9月から月1回以上のペースで開催し、12月1日の第18回難病対策委員会において、現行の難病対策の課題、見直しに当たってのポイントや今後の難病対策の見直しの方向性を示した「今後の難病対策の検討に当たって(中間的な整理)」が取りまとめられた。

一方で、本年2月17日には、社会保障と税の一体改革の大綱が閣議決定された。その中で、「難病対策」について「医療費助成について法制化も視野に入れ、助成対象の希少・難治性疾患の範囲の拡大を含め、より公平・安定的な支援の仕組みの構築を目指す」、「また、治療研究、医療体制、福祉サービス、就労支援等の総合的な施策の実施や支援の仕組みの構築を目指す」ということが盛り込まれた。

現行の難病対策については、これまでに示したように、医療費助成、研究、福祉、就労・雇用支援などに関するさまざまな課題が生じている。今後は、これらの課題の解決に向けて、関係施策の動向を把握しつつ、省内検討チームや難病対策委員会においてより具体的・専門的な内容について検討を行い、難病対策の抜本的な見直しを進めることにより、難病患者およびその家族を総合的・包括的に支援できるような制度構築を目指している(図2)。

図2 今後の総合的な難病対策(イメージ図)【第20回難病対策委員会資料より抜粋】
図 今後の総合的な難病対策(イメージ図)拡大図・テキスト