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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年8月号

総論・本特集企画にあたって

花田春兆

特集テーマの企画自体、従来のものと少し違って、異質で型破りだし、具体化する組み方や文体も、型破りになりそうなのを、お許し願いたい。

でも最初、一応神妙に、

『戦後特集』1945―1975?ゼロからの出発を省みる、なるべく人物に光を。

〔時代概況〕1.一般、2.障害絡み

〔立法・対策〕

〔教育〕

〔医学面〕障害、種別・認定範囲の変遷、治療、予防、リハビリ、訓練方法、義肢・補装具など

〔福祉機器〕日常生活用具、意思伝達装置コミュニケーション機器

〔ベストセラー、出版、マスコミ〕

〔当事者運動〕障害種別、目的別(親睦・社会運動)、修好・文化は各個別

〔音楽〕

〔芸能、演劇、興行、舞踊〕

〔アート〕絵画(貼り絵・タイプアート)、書、造形

〔文学〕散文、論壇、思想性の濃いものは時代概況3.でも、創作、エッセイ、自伝・評伝、詩歌

と設計図は組み込んでみた。

ところが頼みの相談相手から、

――書く方は、実体験していない遠い過去の世界。よほどポピュラーで話題になった、事件・イベント・人物など、エポックメーキングででも示されないと、手掛かりが掴(つか)めず、構想も湧き難いのではないか…――

と注文を付けられてしまった。

言われるまでもない。この時代を体験し生き抜いて来た世代の仲間たちは、ここ数年で激減している。今、記録しておかねば、存在そのものも消えてしまう。指摘してくれた彼のような、若い研究者たちへの手掛かりだけでも、留(とど)めて置きたい。

残された時間は、今しかない。

そんな焦りに駆り立てられての企画なのだ。

そう、思い余ってオーバーになってしまいそうだが…。

まさに、ゼロからの出発。

経済優先に追われて、特別な福祉制度など何も無かった日本社会のなかで、生き延びるために声を上げた仲間たち。

さらに言えば、従来の傷痍軍人中心の思考では、そんな得体の知れないCPなどの新参者とを、同じ枠で扱うことへの、戸惑いよりも拒否反応は、まだまだ有ったのだ。

そうした世間一般にも見られる風潮への、じっくりと腰を据え生涯を掛けることになる闘い。私たちの戦後はそこから出発した、とも言えよう。

もちろん一人ひとりの個性によって、闘いぶりは異なるにしても、各自おのおのが、内から沸く声を信じて励まし合い続けた仲間たち。

そんな仲間への鎮魂。

そう、戦後という日本再生の時代を顧みる特集だ。共に闘ってきた仲間たちの鎮魂のためにも、一人でも多くの人に読んで欲(ほ)しいのだ。

一人でも多く…という願いが、何も当事者や関係者の世界に限られて良いはずはない。

文体にしても、従来の特集がそうだったように、純粋な論文調とか、いわゆるお役所的な公式文書調一辺倒の、固い一枚岩に組み上げるばかりでなく、親しめる読みやすさ、それを産む“ゆとり”と“個性の現われ”への配慮を目指して欲しい。

と言っても、漢字が多くて、カタカナオンリーのヤングには敬遠されそうな私の文章では、参考にもなるまいが、ともかく周りは気にせず、ご自分の書きやすいスタイルで、存分に想いを述べていただきたいのだ。お願いする。

ヒントと言われて先(ま)ず浮かんだのは、時代概況では、社会を揺るがした三億円・下山・三鷹の未解決三大事件だろうが、直接障害に関連するものを、ざっと挙げてゆこう。

軽重不問、順不同だ。

白衣の街頭募金(敗戦のシンボル)。安楽死・母子心中の続発(食糧難、核家族化への不安)。軍施設の民間福祉への移管(いきなりの一般病院・保養所への切り替えによる当惑・混乱)。GHQの検閲(郵便などの厳しいチェック)。郵便投票(異質な期日前投票に掏(す)りかえられて廃止)。機関誌を中心にした自主グループブーム。授産など社会事業の創業。結核の蔓延。ポリオワクチン騒動(東西冷戦の煽り)等など。

なお伝聞を余談的に加えると、医療施設関連では、社事大学生寮と元の住人海軍の亡霊との話とか、箱根の風祭療養所であったという入居者騒ぎとか、介助の都合優先で潜行していた障害女性の不妊手術など…。

国民病といわれた蔓延する肺結核を現在並みに内部障害としていたらそれこそ厖大な数になっていたはず。

俳句人口の半数近く、著名俳人の多数がそちら側に含まれそうだ。

それに、結核・ライ・身障と、予防・保護・更生と対策は対照的だが、当事者たちの創造する文芸・アートは、見事に共通共鳴しあっている。

活躍が印象的だった人材としては、「当時、競争相手以上に敵対関係だった人も居そうだが」

順不同。選択も、障害の有無(ここでは仲間も多く殆(ほとん)どが有だが)など記述も思いつくままで、申し訳ないのだが…。特に、有安君以後はオール障害者。それも外傷・ポリオ・カリエス等も含まれているが、大多数がCPなのは、私自身の同病のよしみで仲間も多く、先ず浮かんでしまうのだ。

その他、失礼承知でいろいろ書き込んだのは、それが目を引いて、この特集が一人でも多くの方に親しんでいただけるのを願ってのこと。

誤記・脱落・忘却ご容赦。故人(こちらが多いが)・健在併記。役職・経歴も、当時のものから最近・没年まで…と。ばらつきの激しいのもお断わりしておきたい。

岩橋武夫(宗教家、教育者、ライトハウス、『光は闇より』)・大石順教(画家、書道家、宗教家、世界芸術家協会、年賀はがき)・調一興(ゼンコロ、推進協、本人第一主義)・太宰博邦(厚生省事務次官、推進協、緩やかな連帯、日曜画家)・矢島せい子(大女優沢村貞子の姉、障全協会長、民俗学の専門家)・板山賢治(厚生省更生課長、全社協、JD、浴風会、向き合う)・丸山一郎((社福)東京コロニー職員、IYDP推進に厚生省入り、GHQ障害者対策の究明)・吉本哲夫(障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会事務局長、先生)・仲野好雄(全日本精神薄弱者育成会(現・全日本手をつなぐ育成会)専務理事、閣下)・皆川正治(全日本精神薄弱者育成会事務局長、狸)・飯田進(神奈川県児童医療福祉財団理事長、親側の論客)・黒木猛俊(日本身体障害者団体連合会事務局長、帝王)・有安茂(「友愛通信」主宰、全障研の基、性解放のオルガナイザー、画家)・鷲谷京子(大阪身障の会「まごころ」創刊、脊椎カリエス)・長谷川茂代(宗教家、「愛の友」協会、ベデスタホーム)・滝口富美子(作家)・谷島まもる(作詞、NHKみんなのうた)・新堂廣志(歌人、全障研)・後藤安彦(本名・2日市安。翻訳家、歌人、『短歌でみる日本史群像』『沈め夕陽』、日本古代史)・横塚晃一(青い芝、『母よ!殺すな』)・宮尾修(詩人)・横田弘(青い芝、詩人、『炎群』)、石井信子(詩人、『連峰悲歌』、ドイツ叙情派詩人の訳詩も)・前田ヤス子(歌人)。

この人々よりやや遅れての登場と記憶しているが、

寺田純一(東京青い芝、行動的論客、著名人寺田寅彦の孫)・島崎光正(宗教家、詩人)・西村勇三(堺養護、画家)・増田恵子(画家)・山田富也(仙台ありのまま舎、筋ジス三兄弟)・金満里(劇団態変)。

さらに、多士済々の推進協(JD)や青い芝・しののめの裏方(総じて多彩な女性陣)から関係者まで思い浮かべると、広がりすぎて止め処(どころ)がなくなりそうだ。

ここで注目されるのは、殆どが、文学やアートに関連を持ち、それも、それぞれの分野で高く評価される力量の持ち主だったのだから驚く。障害者運動の一翼を担いながら、内蔵する豊かな人間性を、見事な結晶で示していたのだ。

この人々の存在があればこそ、障害者運動も一般社会に共鳴を呼び起こして、無理強いでなく広く浸透して行けたのだとも言えるだろう。

障害は障害のままに受け入れながら、それぞれの分野で生き抜くエネルギー、生き甲斐(がい)を得ていたのだ。

私たちの世代には、どちらか一辺倒というより、両面に傑出していた人が多かった。今はどうだろうか。

(はなだしゅんちょう 本誌編集委員、俳人、しののめ主宰)