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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年8月号

1000字提言

車椅子で電車移動

北谷好美

私は外出が好きだ。車椅子で風を切って街を行くのが好きだ。それは発症前の自由に動けた頃の自分を思い出させるからかもしれない。

移動手段として都内の移動は電車を使うことが多い。呼吸器装着者が車椅子で電車移動することに、皆さん「えっ!」と驚かれるが、当たり前のことなのにと思う。その当たり前のことを阻んでいるのは、移動手段である交通機関や街全体がまだ十分に整備されていないことだと思う。

大都市東京をしても駅が整備されていないところもあり、時に立ち往生することがある。特にそれぞれの駅のエレベータの規格が違うので車椅子がうまく収まらないことがある。

呼吸器を搭載した車椅子はほとんどがオーダーメイドで大型になる。つまり、車椅子の下に呼吸器・吸引機を置くための荷台が付くためである。また、呼吸器装着のALS人は車椅子をフラットに近い状態で使用することもあるので縦長形状になるのだ。そして、ALS人の外出には最低2人の介護者が同行することになるので、車椅子と2人の人間が収まる箱が必要になる。

最悪なエレベータは「くの字型」(JR池袋)と「奥行きのない」エレベータである。そんな箱に出くわした時は呼吸器をはずし、車椅子のリクライニングとティルトをめいっぱい起こして乗る時もある。フットレストをはずして乗ることもある。こういう荒業を使わずに、どこの駅でも自然にかつ安全に乗れるような規格・基準を作ってほしい。

また、エレベータのみならずホームや駅構内の案内板の分かりにくさ、なかなか駅員がつかまらない等、改善してほしい点が多々ある。たとえば、駅によっては南口にはスロープがあるのに北口は階段だけしかないなど、遠回りを強いられることもある。普段は通用路が階段になっていてエスカル(車椅子用階段昇降器)に切り替えられるところもあるが、エスカルはサイズが小さくて大型の車椅子では使用できない。そんな時は階段を車椅子ごと4、5人の駅員に担ぎあげてもらう。

障害者が車椅子で街に出る。見ず知らずの人たちが助けてくれる。こんな些細(ささい)なこと(段差など)で困るのかと気づいてもらえるようになる。助け合おうという気持ちが繋がっていけば一人ひとりの心が変わっていく。やがて街全体が変わっていく。障害者も行きたいところに自由に行けるようになる。

「すみませ~ん。車椅子通りま~す!」と叫ばなければ道をあけてくれない東京の駅の雑踏の中をめげずに、また出かけよう。

(きたたによしみ 日本ALS協会運営委員、主婦)