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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年8月号

列島縦断ネットワーキング【熊本】

「いらっしゃいませ」から始まる就労支援

赤星智英

社会福祉法人菊愛会は、熊本県北部に位置する菊池市という人口5万人の小さな町にあります。

法人の設立は昭和56年9月、昭和57年4月より知的障害者入所更生施設(定員30人)を開所しました。現在では、児童の事業から老人ホームの経営までを行っています。

就労支援センターかもん・ゆ~すの経緯

当事業所は、菊池市在住の障がい者の家族の方より日中活動の場(作業ができる)がないので立ち上げてくれないかという要望があり、平成13年4月1日、無認可の小規模作業所を開設し在宅者サービスを始めました。

平成18年10月1日、自立支援法に基づき、多機能型事業所として指定をいただき、就労継続支援B型事業(定員24人)、就労移行支援事業(定員6人)、障害種別は知的障がい者6割、精神障がい者4割でスタートしました。

一般就労が可能な人については、積極的に就労支援を行い地域移行を進めました。しかし、一般就労に届かない人が8人おられ、B型事業の工賃ではなく、一歩向上することを考え、就労継続支援A型事業(定員10人)への展開を考えました。そして平成21年6月開設の運びとなりました。

業種は、旅館業・公衆浴場業(家族湯)を一体的に行うサービス業への展開となりました。全国でも非常に珍しい業種の出発です。

定員10人:(登録者14人、雇用契約者14人)

障がい種別:知的障がい者9人、精神障がい者5人

旅館業・家族湯(サービス業)への挑戦(就労継続支援A型)

当地域は、菊池温泉として古くから栄え、現在10件の温泉旅館・ホテルが営業をしています。その中の屋号「旅館清流荘」と「湯の倉」を借り受け、実施となりました。

旅館業では、当初は仲居業務の補助員として仲居さんに付き添い、お客様へのサービスを学び、また、裏方である板前の補助員として業務に就いて学ぶことから始まりました(仲居さんと板前さんには、事前に障がい者の特性と個々の特性を知らせ、また研修していただきました)。接客業ですので、言葉使いや報告・連絡・相談等については繰り返しの支援が必要で、多くの時間を費やしました。とても大変でしたが、今ではそれも懐かしい思い出です。

お客様より「温泉で癒されました」「従業員の接客で癒されました」「楽しい時間を過ごすことができました。また、お邪魔します」といった言葉をいただきます。慣れないサービス業で日々奮闘していますが、着実に成長している利用者の方々の努力のたまものだと思っています。

公衆浴場(家族湯)は12室、露天風呂は2か所で営業をしています。以前、業務委託で実施していたこともあり、スムーズな業務遂行となりました。

業務内容は、55分間の入浴時間を設定し、利用終了次第5分間で温泉を抜き、家族湯内の清掃作業を行うことにしていますので、短時間での仕事の繰り返しとなります。多い時は1日約140組のお客様があるため、「てんてこ舞い」となりますが、的確に仕事ができるようになってきています。

現在、受付だけは専属職員が担当していますが、今後は受付業務も利用者本人が従事できるよう、受付マニュアルを作成して、挨拶→お客様への使用時の取り扱い説明→終了後の挨拶等の訓練を実施しています。すでに一人が習得して受付業務に従事しています。どちらの業務も営業時間が7時00分~22時00分(16時間)と長いため、シフト制での勤務となっています。

現在3年目を迎え、利用者の能力も年々向上し、仲居さんを上回る仕事量を行う方も出てきています。今後一般就労に結びつくことが可能となっていますが、現在の報酬に満足している方が多く(障害基礎年金受給取得者12人)、本人の方の一般就労に対する意識変革を行っていく必要性を感じています。意識改革を行い、一般就労に結びつけることや、当事業の賃金をアップするために利用するお客様を増やすこと、仲居業務補助ではなく正の仲居となることで賃金をアップするという目標設定が重要です。

現在は多機能型として事業を行っていますが、今後は定員を10人から20人に拡大し、単独での事業展開を考えています。また、就労訓練をして一般就労に結びつけ、今以上の所得を確保し、地域社会へ消費できる人を増やしていきたいと思っています。

旅館:1泊2食、平日10,650円(入浴税・消費税込み)~

昼食1,980円(入浴・休憩3時間)~

家族湯:12室、55分1,300円

連絡先:0968―24―2155(支配人若山まで)

短期入所事業は旅館を活用

短期入所事業(単独型)は、平成23年2月1日に認可をいただいて開始しました。全国的には施設入所併設型の事業所が多数ですが、利用者が落ち着いて過ごすことができているのだろうかと考え、旅館の1室を提供することで、「気兼ねなく」「旅館気分を味わうことができる」「ゆっくりと過ごせる」ようにしました。また、希望者には、食事の提供もできるスタイルで行っています。非常に好評で徐々に利用者が増加しています。これは客室の有効活用として実施を考えました。これも日本で初めての試みです。

実施からまだ1年を過ぎたばかりですが、目標としては契約者を200%増まで持っていきたいと考えています。

農作業への労働力提供と地域の活性化(就労継続支援B型)

当法人では農業に注目し、耕作放棄地や休耕田の有効活用として、高齢者と共にそば栽培を行い、高齢者農家に対する労働力の提供として、障がい者の労力導入に向けた試みを行っています。

仕事内容は、菊池市内の山間部にある棚田です。畦(あぜ)の面積が作付面積と同じであるために高齢者農家の悩みでもある草刈りができず、徐々に荒れた状態になっています。耕作地の維持ができない状態となったため、その草刈り等の作業の担い手として障がい者の活用を提案し、現在5農家と契約を結び実施しています。これはまた、地域の方々との共生を目的とした試みでもあります(この地域は高齢化率が平均33%。また、この地域の1地区は54%と非常に高く、休耕田から耕作放棄地となるケースが年々増加傾向にある:平成24年3月31日菊池市役所調べ)。

「そば栽培を行い共に地域の活性化に努める」。この取り組みは、地域と共に過ごせる社会実現に向けた、当法人の理念である「感」・「共」・「和」の基に、地域貢献として第一歩の前進です。

これについては、県・市の協力の下で栽培を行い、一次産業で農産物の生産だけではなく六次産業(加工~販売)までを行って収益のある作業に持っていくことにより、高齢者、利用者、事業所が「感じ・感激・感謝」を「共同・共有・共感」することで、「和」を持つ心が利用者の地域移行に踏み出すきっかけになればと思います。

1.耕作放棄地および休耕田の有効活用(高齢者の起業化)

2.労働力の提供として障がい者の活用(工賃向上)

まとめ

利用者の方々が楽しい生活を送るためには、「働く」ことが重要です。そのために「働く意識づけ」から始まり、「生活・就労面の支援」を行い、本人の望む「ライフステージ」を提案することが必要だと思います。

利用者の不安や問題を解消するためには、あらゆる機関と連携を密にした支援体制の構築が必要であることから、地域の中核としてさまざまな提案を行っていきたいと思います。

これからも社会の一員として一般消費できる方の社会移行を目指して、努力していきたいと思います。

(あかぼしちえい 就労支援センターかもん・ゆ~すセンター長)