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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年9月号

北海道旭川市の魅力を満喫
~カムイ大雪バリアフリーツアーセンターの取り組み

五十嵐真幸

車いす紅蓮隊と誰にもやさしい旭川づくり

幻想的な雪景色、綺麗な花、四季がはっきりしている大自然。とても空気が綺麗で、ここでしか味わえない魅力がたくさんの北海道。そして、ここ北海道旭川市と言えば旭山動物園が有名です。観光といえば、動物園や水族館、博物館など見て楽しむ観光、スキーやスノーモービルなど体験できる観光がありますが、地元の人たちと交流し、一緒に楽しむ観光、一緒にイベントに参加する観光はその地域でしか味わうことができない、心に残る観光だと考えます。

筆者は、生まれつきの「骨形成不全症」という病気で、物心ついたころから車いすを愛用し、26歳になりました。

ここでは、北海道旭川市の魅力と地元の障がい当事者が直に取り組むカムイ大雪バリアフリーツアーセンターをご紹介します。

2006年、旭川市で、障がいの有無、子どもから大人、高齢の方等関係なく、自分たちが暮らす旭川の街を「誰にもやさしい街にしよう」とアクティブな車いす当事者主体の「車いす紅蓮隊(ぐれんたい)」が結成されました。旭川市内の飲食店、ホテル、物販店などのバリアフリー取材やアドバイス、市内のイベントにも積極的に参加しながら「誰にもやさしい旭川づくり」を一緒に進めています。

2011年に「カムイ大雪バリアフリーツアーセンター」を設立し、今まで集めた情報や自分たちで創り出すイベントなどの情報を多くの仲間に知ってもらおうと、Webを主体に内外への情報発信を行っています。

このような流れの中で、旭川は当然のように障がい者スポーツが盛んな街になりました。車いすバスケットボール、車いすカーリング、車いすテニス、車いすラグビー、車いす野球、知的障がい者のサッカーやバスケット、クロスカントリースキーなどのチームがあり、アイススレッジホッケーの日本代表選手もいます。

障がい当事者が主体の車いす紅蓮隊というチームで「誰にもやさしい旭川づくり」を行うには、地元の仲間たちや障がい者スポーツを一緒に行っている仲間と共に、自分たちが暮らしやすく、明るく元気に楽しめる街にしたいと思いました。

活動に取り組み始めた頃、いろいろな機会を利用して仲間の障がい当事者たちから聞き取り調査したところ、「人が大勢集まるイベントにはあまり参加しない」という話を聞きました。

なぜ参加しないのか? その理由を調べたところ、1.人込みに入るのが大変、2.車いすは目立つから嫌だ、3.トイレがない(特に冬の場合は大変)、という話がほとんどでした。「ホントはみんなと一緒に楽しみたいのに、動きづらいので参加できない」というのが本音でした。

では、人込みの中で動きづらい車いす利用者や高齢者が一緒に楽しめるようにするにはどうしたらいいのだろうか? 関係者で話し合いを重ねました。旭川に行って観光や体験をしたいと思って旅行を計画しても、身体が不自由な場合、車いすで大丈夫だろうか? と多くの不安を抱く方もいると思います。

そこで、私たち地元の障がい当事者が多くのイベントを企画し参加してもらうことで、多くの人とふれ合うことができ、自分たちのように車いす利用者の気持ちも知ってもらうことができると思いました。また、イベントの企画に私たち車いす利用者が一緒に参加させてもらうことで、身障者用トイレを設置してもらったり、車いすでどう楽しめるようにするか、関係者からも提案していただき、誰にもやさしい、一緒に楽しめる良いイベントができるようになってきています。

雪のアクティビティー体験

「北海道」と言えば「雪」。雪が降り積もると車いすは前に進みません。人気の旭山動物園は坂が多く、冬に雪が降ると障害のない人でも歩くのが大変です。しかし、冬の北海道だからこそ味わえる雪のアクティビティーをぜひ体験してもらいたいと思います。

そこで登場するのが、雪道でも安心・安全に走行できる「快適AQURO(アクロ)」です。旭川の車いす当事者、旭川医科大学、福祉機器製作業者、障がい者スポーツを支援してくれる仲間たちで開発を進めました。通常の車いすで雪の上を走行した場合、車いすのキャスター(前輪)が雪に埋まってしまい、走行できずに転倒の恐れもありました。

「快適AQURO」は大きな前輪を取り付け、キャスターを少し浮かせ3輪車にすることで、雪、砂利、芝生の上など多少の悪路でも走行が可能となり、車いすに乗っている本人、介助する方が安心して使用することができます。「快適AQURO」には手動と電動があるため、冬でも行動範囲を広げることができます。冬になると、当ツアーセンターでレンタルを行っている「電動快適AQURO」の問い合わせが増えています。

このように、車いすを利用しながらも雪の中で楽しめるメニューが増えました。人気の体験アクティビティー「犬ぞり」は、北海道の冬を満喫することができます。「犬ぞり」は障がいのある方でも楽しめるよう、通常は立ち乗りで操作するソリを、座って操作できる手動ブレーキ付きのソリを使って体験することができます。一人で操作が難しい方はソリに座り、立ち乗り操作をしてもらうことで冷たい風を切って、大自然の中を滑走することができます。

雪国だからこそ行えるイベントに「旭川冬まつり」があります。高さ30メートルもの巨大雪像が制作され、すべて雪で作られたスロープがあり「快適AQURO」で大雪像の頂上へ登ることができます。会場内には、障がい者スポーツ体験コーナーが設置され、冬の競技「アイススレッジホッケー」や「車いすカーリング」が体験でき、実際に競技を行っているパラリンピック銀メダリストや障がい者スポーツ指導員が、子どもたちや観光で来たお客さんと一緒にスポーツ体験を行っています。

「しばれる」という言葉を聞いたことはありますか?「しばれる」とは北海道弁で「寒い・凍る」などという意味があり、冬の北海道では「今日もしばれるねぇ」という会話が日常茶飯事です。

前段でもご紹介したアイススレッジホッケーやカーリングは冬まつり会場で体験ができますが、体験スペースは屋外リンクになっています。深夜に水を撒(ま)くことで朝には氷になっています。何日か同じような作業をすることで、綺麗な氷の層が重なり、アイスリンクが完成します。

同じように、バケツや風船に水を入れ、一晩外に置くだけで朝にはアイスキャンドルが完成! 寒い旭川だからこそ体験できるアイスキャンドルの制作体験です。

ほかにも、カムイ大雪バリアフリーツアーセンターと地元車いすの仲間で参加している、旭川の隣町の愛別町で開催されている「雪中ソフトボール大会」があります。これまで30年間開催されていましたが、車いすで参加するのは初めてのことでした。大会実行委員会と一緒に車いすの方でも一緒に楽しめるように、特別ルールを設定するなど工夫を凝らしました。雪の上では「電動快適AQURO」に乗り、雪の上でもスポーツが体験できるようになりました。

お祭りに参加~UDみこし

冬のイベントやアクティビティーを楽しく体験された方は、やがて雪も溶け、春の芽生きを超えて夏になると深緑をもっと楽しみたいと、たくさん方が旭川に再来してくれるようになりました。

夏の風物詩といえば「お祭り」。浴衣を着て見る花火大会、暑い日に飲むビール…。お祭りに行きたくても、混雑しているので出かけるのを遠慮してしまう車いすユーザーがほとんどでした。座高の低い車いすユーザーは、お祭りなど混雑した場所では人でめまいを起こしてしまう人もいると思います。車いすで人を避けたり、タイヤで足を踏みつけてしまう心配をして楽しむことができないという意見を聞き、「お祭りにお店を出して、仲間たちが集まり楽しめる場所を作ろう」と、2007年から旭川で行われている「大雪さんろくまつり」に露店を出店しています。

私たち障がい当事者が実行委員として一緒に参加することで、これまで設置されていなかった身障者用トイレも設置していただきました。2009年にはお祭りの中で「みこしも担いでみないかい?」というお誘いもいただき、車いすで担ぐみこしを始めました。車いすに乗っている方は身長や車いすサイズもさまざまで、みこしを肩で担ぐことは難しく、肩に乗せて担ぐと車いすを操作することはできません。でもみんなで一緒に担げるみこしにしたいと、地元企業の方や車いすユーザーが試行錯誤し、UDみこしが完成しました(UDみこしの仕組み)。

UDみこしは前後左右に4つの車輪を付けた台車にみこしを乗せ、みこしを浮かせることで肩に負担がかからないよう工夫しました。2つの車輪は地面についており、スムーズにみこしを動かし、残りの2つの車輪は少し地面から浮いており、みこしを揺らすことで地面に付き、車いすで担いでいるような揺れを演出できるよう工夫しました。

子どもから大人、高齢者、障がいのある方ない方、外国人もみんなが一緒に担ぐことができる「誰でも担げるUDみこし」が2009年に完成し、札幌市、帯広市、北見市、北海道外からも数多く参加していただき、毎年約100人近くの仲間がみこしを担ぎに集まります。歓声や雑踏の真ん中から見る風景、みこしと一緒に堂々と歩くことができ、今までに体験したことがない達成感を味わえます。

昨年(2011年)は、旭川発祥のUDみこしを沖縄に持っていき、沖縄バリアフリーツアーセンターと一緒に、那覇大綱曳き祭りで沖縄の障がい者施設の仲間たちと一緒に担ぎました。

皆さんも毎年8月の旭川で行われる「誰でも担げるUDみこし」や、サイクリングなど各種イベントに一緒に参加してみませんか?

カムイ大雪バリアフリーツアーセンターでは、観光だけではなく、体験型や参加型イベントなどのメニューに重点を置き、宿泊施設や温泉、飲食店やトイレ情報などをパーソナルバリアフリー基準※で紹介しています。

(いがらしまさゆき 特定非営利活動法人カムイ大雪バリアフリー研究所、カムイ大雪バリアフリーツアーセンター、車いす紅蓮隊)


※パーソナルバリアフリー基準について

パーソナルバリアフリー基準とは、身体に障がいのある人や、高齢によって身体が不自由な人をはじめとする、さまざまな人たちに旅行を楽しんでいただけるように開発した基準です。

パーソナルバリアフリー基準の基本は、

(1)障がい当事者が自らの視点の調査により、観光施設などのバリアを明らかにする。

(2)常設の相談センターにおいて、利用者からの相談を受ける。

つまり、バリアを明らかにする調査と、相談システムによって、あらゆる人々のバリアフリー化を実現しようとするものです。

※車いす紅蓮隊ブログ
http://kurumaisugurentai.net/

※カムイ大雪バリアフリーツアーセンターHP
http://www.kamui-daisetsu.org/