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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年9月号

工夫いろいろエンジョイライフ

実用編●意外に使いやすい大きめな木のスプーン、他●

提案者:今井雅子 イラスト:はんだみちこ

今井雅子(いまいまさこ)さん

1971年生まれ。1歳半頃、先天性の脊髄性筋萎縮症と診断される。2003年より自宅を離れ一人暮らしを始める。2005年よりNPO法人箕面市障害者の生活と労働推進協議会の市町村相談支援事業部「ライフタイムミント」でピア・カウンセラーとして、2009年10月異動により居宅介護派遣事業部の当事者スタッフとして活躍中。


意外に使いやすい大きめな木のスプーン

老化はだれにも訪れます。私は先天性の障害のため、もともと大脳から筋肉に命令を伝えるのがうまくいかないので、体幹や手足はほぼ動きません。ただ手先は妙に器用だったり、わずかに力が入るところもあり、使えるカラダを総動員して過ごしています。

年を重ねるごとに肘が上がらなくなり、頭が支えられなくなり…いろいろ不具合が出てくるものです。とりわけ悲しいのは最大の楽しみ“食”に関することです。お茶碗を口元まで運べなくなったり、少しかがんでも麺類をズルズル吸い込めなかったり、思うように食べられないことは1番こたえます。

モヤモヤを抱えながら100円ショップでふと目に留まったのが、大きな木のスプーン。思いのほか軽くて持ちやすいので買って帰りました。数回使ってみるうち、何気なく変形している左手で持ってみるとしっくり手に馴染みます。柄の長さと素材の軽さが勝因でした。麺類も汁物もそのスプーンに一旦移し、口元まで運ぶと快適に食べられます。とってもハッピーな発見で、外食の際も持ち歩いています。


「ホワイトボード作戦」で冷蔵庫がスッキリ!

家の中でも外でも、私はいつも電動車いすの上で過ごしています。床から1メートル少しの世界は、空や木々は大きく見えますが、目の届かない場所が至るところに生まれます。浴室の隅のカビや棚上の埃、和室の忘れ物…特に気を揉むのが冷蔵庫の中です。冷蔵室は少し見上げるような感じでかろうじて全体を見渡せますが、野菜室や冷凍庫になると死角だらけ。一人暮らしを始めた頃は、残っている材料を忘れて腐らせたり、誤って同じものを買ってきたりで無駄のし放題でした。

ある日、白い胞子に包まれた椎茸を見て「これじゃアカン!」と、無い知恵を絞り出したのが“ホワイトボード作戦”。仕組みは簡単で冷蔵室、冷凍室、野菜室それぞれの在庫を書き出し、その都度更新していくだけです。介助者にいちいち確認しなくてもホワイトボードを見ながら献立を考えられるし、何より食べ物を無駄にすることが格段に減りました。『見えない所は記して管理』。頭も整理され、意外なレシピも思いついたりで気に入っています。


大切にしたい介助者との出会い

私の毎日はひと月に16人ほどの介助者がコロコロ、ゴロゴロ交代でやって来て、大玉転がしをしているように成り立っています。時の移ろいで馴染んだ人が去り、新しい人とまた出会いを繰り返します。これまで100人近い人たちと過ごしました。血の繋がりのない、友達でもない人たちと一つ屋根の下で寝食を共にする、改めて趣ある暮らし方だなぁと感じいります。

介助で身を立てている人もいれば、誘われたよしみで、本業は別にあって面白がっている人など、背景はまちまちでも、仕事として介助に入っている時は互いに立場をわきまえます。

けれどビジネスで割り切れないのも介助、経緯はどうあれご縁があった仲です。価値観や嗜好が違えど、いい関係でいたい、大事にしたいといつもココロで唱え、思いつくことをやってきました。介助者がどう感じているかは分からないし、もちろんトラブルも起きます。でも、目に見えない工夫は必要かもしれないな、そんなふうに思ったりします。