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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

時代を読む36

IRCプロジェクト

途上国の工業化に伴って急増する労働災害には、防災対策と被災者の救済対策は欠かせない。

昭和58年(1983)に東京で開催されたアジア太平洋地域労働大臣会議では、「労災被災者のリハ」の問題が初めて取り上げられ、各国間の知識経験を相互に活用することが合意された。タイ政府(内務省労働局)は「労災補償基金」制度を拡充し、労災被災者の再就職を促進する事業としてIRC(労災リハビリテーションセンター)を発足させるため、日本政府に協力を要請した。国際協力事業団(JICA)のIRCプロジェクトが59年(1984)からスタート。日本の労働省は、障害者の職業リハを担当する職業安定局を中心に、労災保険や労災病院を所管する労働基準局、それに海外職業訓練の技術協力を進める職業能力開発局の三局が協力することとなった。

サイトはバンコク北部。タイ側が土地を提供し、日本側は建物と機材を無償提供し、60年(1985)に開所した。利用者は医療リハの終了した労災被災者とし、定員100人の規模。障害の程度や前職などから個人別の職業指導や訓練のカリキュラムが作られる。機能向上のための医療リハを並行させながら、現職復帰を目的とした職業準備課程(4か月程度)と、新しい技能を身に付けて自営なり就職をしていく職業訓練課程(1年程度)に分けられ、いずれも個人別の訓練のためモジュール訓練の手法が使われる。利用者を直接指導する専門職員が採用配置され、これら専門職員に技術を習得させるため、日本から、職業リハ・医療リハの分野に長期・短期の専門家が派遣された。

さらに、タイ職員には日本での現場研修があり、相互の交流が図られた。両国間の文化や制度の違いに戸惑いながらも、活動の展開にともなってタイ国内はじめ隣国の関係者の関心が寄せられ、ことに義肢装具への期待は大きく、協力期間は延長を含め計7年にわたった。

今年の7月、JICA研修(「障害者の雇用促進とディーセントワークの実現」)に参加されたIRCのシリナン所長を迎え、タイ料理を囲んでIRCOB会が新宿で開かれた。シリナン所長は、足掛け30年も前の開所当初、マヒドン大学医学部を卒業されたばかりの医療リハ職員だった。IRCもバンコクをはじめとして、全国5か所に整備され活動しているとのこと。益々の発展を祈りたい。

(米川一充 元IRCプロジェクトチームリーダー)