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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

雇用・就労
さらに大きな歩みを目指して

志賀利一

1 過去10年の成果の継続

10年の間に大きく変化したひとつが、雇用・就労の分野である。最近の日本の企業経営者は、円高、高い法人税、自由貿易協定の対応の遅れ、派遣禁止等の労働規制、環境規制強化、電力不足といった、いわゆる六重苦の状況にあると言われ、総体的に雇用環境は低迷し続けている。その中で、障害者雇用は着実な伸びを示してきた。

平成14年から平成23年の障害者雇用数の推移は、図1のとおりである。平成14年において、56人以上の民間企業ならびに公的な機関で合計295,266人(正確には人数ではなくカウント数)が雇用されていたが、平成23年には433,641人と約14万人増加している。また、民間企業の法定雇用率1.8%に対して、平成23年の実雇用率1.65%である。あと0.15%、人数にして約3.4万人不足である。現在の制度は、障害者雇用が一定水準まで高まると、ほぼ自動的に法定雇用率も上がる仕組みになっており、平成24年度より民間企業の法定雇用率が2.0%に引き上げられることが決定している。

図1 今季の障害者計画期間における障害者雇用の推移
図1 今季の障害者計画期間における障害者雇用の推移拡大図・テキスト

この間、雇用率制度として「精神障害者の雇用率カウント」「週20時間以上の短時間労働者のカウント」「2度目の除外率の引き下げ」「納付金対象企業の拡大」等の改正を行なっており、さらに「障害者就業・生活支援センターの設置拡大」「ジョブコーチの養成拡大」「チーム支援の強化」も行なっている。また、障害者自立支援法により誕生した有期限の職業準備訓練機関である就労移行支援事業からの就労者数も最近になって伸びてきており、教育現場におけるキャリア教育推進の効果も現れてきている。

キーワードは「一般雇用を希望する人に特化したサービスの提供」と「労働・福祉・医療・教育との連携による支援」である。障害者総合支援法における衆参両院の附帯決議「障害者の就労の支援の在り方については、障害者の一般就労をさらに促進するため、就労移行だけでなく就労定着への支援を行えるようなサービスの在り方について検討するとともに、一般就労する障害者を受け入れる企業への雇用率達成に向けた厳正な指導を引き続き行うこと」は、これまでの実績を基本に、より着実な推進を目指す計画が求められる。

2 慎重に検討すべき課題

一般雇用の促進と同様、雇用・就労分野の大きな課題は、福祉的就労に対する労働法規適用である。平成24年3月時点で就労継続支援事業(A型・B型)の利用者は約15.8万人、個別給付サービス全体の24%に相当する。表1は、企業等で雇用されている人の月額賃金と福祉的就労の平均工賃をまとめたものである。福祉的就労の平均工賃は、決して高いと言えない知的障害や精神障害の一般雇用の賃金と比べても、10分の1程度に過ぎない。最低賃金水準には遠く及ばない。「工賃倍増計画」や「官公需優先発注」等の取り組みも行われてきたが、この格差を埋めるのは容易ではない。総合福祉部会の骨格提言では、3年をめどとした試行事業により、人的支援・仕事の確保・賃金補填(ほてん)の在り方を検証することを提言しているが、同時に「労働法を適用することが適切でない人が働く場を失うことのないよう十分な配慮を行う」とも記されている。現実的でバランスのある計画が求められる。

表1 雇用と福祉的就労の月額賃金格差

  全体平均 30時間/週以上 20時間/週以上 20時間/週未満
雇用 身体障害 254,000円 268,000円 197,000円 52,000円
知的障害 118,000円 124,000円 83,000円 40,000円
精神障害 120,000円 157,000円 59,000円 24,000円
福祉的就労施設
(工賃倍増対象施設)
12,222円(平成18年) → 13,079円(平成22年)

最近では、就労継続支援A型事業所の運営主体も多様化している。すでに、株式会社が約360か所のA型事業所の運営を行なっている。ある程度の営利を追求する法人による運営の成果は、数字としてまとめられていない。しかし、先ほどのバランスある計画には、一般雇用への移行促進を促し、より生産性の高い事業所拡大のインセンティブが損なわれないよう、まさに慎重な配慮が必要である。

3 新たに検証すべき課題

2010年冬以降、発達障害者についても、精神障害者としてすべての雇用促進施策の対象になっている。最近、若者の職業自立支援機関や高等教育・職業紹介の現場では、繰り返し求職活動に失敗し、就職に結びつかない一定の層の人たちに、発達障害の疑いありとして、専門機関に紹介し始めている。そして、「正規社員としての雇用が難しく経済的に非常に不安定な若年者」より「職場からの配慮や地域の支援機関から支援を受けて継続的に働く障害者」の方が、社会・経済的に有利であると考える人も増えている。一方で、障害者としての生活に躊躇(ちゅうちょ)し、経済的な困窮状態が継続してしまっている人も少なくない。制度の谷間は解消されても、各領域の機関・関係者の一層の連携が求められる分野であり、対策を検討するための実態把握が早急に必要な分野である。

(しがとしかず 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園事業企画局研究部)