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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

まちづくり
まちづくりは住まいからが基本

髙橋儀平

「共生社会」を目指しノーマライゼーションの実現を旗印にした現行の「障害者基本計画」は、障害の有無にかかわらず、だれもが相互の人権を尊重し合える環境づくりがキーワードであった。2002年に閣議決定された計画では、社会のバリアフリー化の推進が共通課題として大きく取り上げられた。とりわけハード面では、ユニバーサルデザインの考えのもと、障害の有無にかかわらず、だれもが自分の意思で移動でき、使いやすい交通機関や建築物、情報環境の構築が打ち出された。本稿では、この10年における現計画の評価と、次の計画に係わる若干の課題を提起したい。

1 関連する法制度の進展を振り返る

まちづくりに係わるこの間の最大の出来事と言えば、くしくも2006年12月に国連で採択された「障害者権利条約」と同年12月に改正された「バリアフリー法」である。前者では、第3条一般原則、第4条一般的義務、第9条施設及びサービスの利用可能性、第20条個人的な移動を容易にすることをはじめ、大半の条項で建築・交通・まちづくり分野に関係している条文が見られる。

現在、権利と差別の定義について議論中であるが、後述するバリアフリー法の評価とも連動してくると思われる。このうち特に日本で実効不足が見られるのが、施設およびサービスの差別解消に係わる「監視」機能であり、教育環境の整備である。

一方バリアフリー法は、現基本計画の策定段階では、建築物のハートビル法と交通バリアフリー法とに区分されていたが、2006年、道路・交通、建築、公園、福祉タクシーを一体的に整備することを求めた法律に改正され、単体かつ行政の縦割りの整備から都市全体、まちづくりとして生活の連続性、移動の連続性を重視した考え方に変化した。これら公共空間の面では、まだまだ課題が残されてはいるものの、新たに制定された法制度により一定の進展を見た。しかし私的空間である住宅領域では、依然として旧来の分離的発想が踏襲されているといえる。

2 まちづくりは住まいから

障害者が住まう住宅の確保やバリアフリー化についてはこれまでも繰り返し指摘されている。住まいの確保や住宅改修については、障害のある人の個人的努力には限界があり、公的支援は不可欠である。

障害者世帯の住宅対策は公共空間の整備に比較して格段に遅れている。具体的にいえば、自治体レベルの障害者計画では、住まいの言及の大半が規模の大小はあるものの、グループホームなど集団的居住の数値目標が対象である。個人の人権や尊厳を重視する観点からは一般的な公的住宅での居住、戸建て住宅や民間賃貸住宅での居住者を対象とした居住支援の方策を重視しなければならない。

2006年に成立した住生活基本法で公営住宅のバリアフリー化に言及してはいるが、障害者世帯向け住宅の確保、改修支援策は進んでいない。少なくとも障害者に対する「住宅セーフティネット」は成立していないのではないか。障害者世帯向け住宅の数的目標の設定、老朽化した既存公営住宅のバリアフリー化は必須であり、「まちづくりは住まいから」を基本に公的支援の強化、立案を図りたい。

3 交通、建築、まちづくりとバリアフリー

交通、建築、まちづくり関係では法的にも物理的にも急速に発展しているが、各地の福祉のまちづくり条例の整備適合率は軒並み20~30%台にとどまるなど、バリアフリー化の実効性には今なお課題が多い。

その要因の一つには、関係者の理解と財源の確保がある。敷地や用地などの複雑な権利関係もバリアフリーの促進を阻害する要因となる。連続的な整備には多数の地権者が関与し、時には事業者間の利害が対立、既存の小規模商業施設が密集する商店街ではテナントの理解が進まない。既存施設の所有者の説得にはコストと時間、そして施策の工夫が必要だ。基本的には、障害者計画とまちづくり計画の連携がうまく取れていないと思われる。筆者は、度々両者の策定会議に参加する機会をいただくが、各々別個の議論がされているような気がする。

交通関係では、道路のバリアフリー化が予想以上の進捗である。しかし、鉄道事業者の意識は依然として整備コストを行政に要求するパターンであり、補助の遅滞のみで市民生活のバリアが継続してしまう。STS(スペシャル・トランスポート・サービス)では、NPOなどとの連携強化とともに、既存のタクシー業界との共同運行も視野に入れるべきであろう。

4 総合的な障害者施策へ

住宅関連法、バリアフリー法、学校施設整備指針、景観法など、関連する施策と障害者施策との連動が何としても必要である。現計画でも強く指摘されている「関係機関相互の緊密な連携の確保」はまちづくり分野では極めて少ない。人や生活、移動を基本とした共通の施策、協働化施策を明確に打ち出し推進する必要がある。「利用者本位の支援」は生活支援のサービスにとどまらない。障害者関係団体とは言葉のみではない連携を模索し、すべての国民が参加する差別のない社会の構築に資するバリアフリーの推進を図らなければならない。次の10年は「障害者基本計画」がノーマルな計画に位置付けられることを願う。

(たかはしぎへい 東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科教授)