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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

盲ろう
新障害者基本計画に期待すること

門川紳一郎

1 はじめに

わが国では現在、障害者の多様化・重度重複化・高齢化が急速に進行している。また、地震などの災害時における障害者をはじめとする要援護者への支援体制は緊急に整備されなければならない。

これらの問題を踏まえた時、新たな「障害者基本計画」においては、多様な障害者のニーズに柔軟に対応できる、「人間中心の制度づくり」を基本に据えた計画の策定が望まれるだろう。

2 新障害者基本計画に盛り込みたいこと

現行の障害者基本計画のさらなる充実を図るために、以下の内容を盛り込むことを提案する。

一 基本的な方針について

現行の基本計画で示されている4つの横断的な視点に、「災害に備えた総合的かつ広域的な対策の推進」を新たに加えたい。

昨年3月11日に発生した東日本大震災の教訓を踏まえ、障害者を含む「災害弱者」への総合的で適切な支援体制を、社会全体で構築していく取り組みが必須である。

たとえば、災害関連情報の入手に困難を伴う障害者等を含めたすべての市民に対して、防災情報、災害関連情報などが最大限実用的に提供されることが、優先課題として位置づけられるべきである。同様に、災害発生後の救援物資の提供、避難所の確保、要援護者支援など、災害関連の日常生活上の必要な支援体制づくりが急務であり、そのためには分野横断的で多岐にわたる施策の整備が重要である。

二 重点的に取り組むべき課題

「2 活動し参加する基盤の整備」の項目に、(3)として「情報へのアクセス権の保障とコミュニケーション支援の確立」を加えたい。

障害者権利条約第21条の(C)および(E)を踏まえるならば、情報へのアクセス権を保障しコミュニケーション支援を確立することは、すべての障害者が経済的自立と同様に地域で自立生活を営む上で最低限必要な権利を保障することになるからである。

3 「盲ろう」の位置づけと盲ろう者支援

現行の障害者基本計画の中で、「盲ろう」という言葉が盛り込まれている部分が2か所ある。

一つは、分野別施策の基本的方向の「2 生活支援」の施策の基本的方向の2在宅サービス等の充実の各種障害への対応では、「盲ろう等の重度・重複障害者、高次脳機能障害者、強度行動障害者等への対応の在り方を検討する。」とある。

盲ろう者は、視覚と聴覚の両方に障害を併せもつという点では重複障害の一類型ではあるものの、人間にとって外部世界を認識するための主要な視覚と聴覚の双方に障害があることによって、情報の入手・コミュニケーション・移動の3つの生活上の基本的な行為が複合的に制約を受ける。

したがって「盲ろう」は、このような制約をもつ独自の障害として位置づけるべきである。

もう一つは、前記と同じ大項目の中の以下の箇所である。

「7 情報・コミュニケーション」の施策の基本的方向の4コミュニケーション支援体制の充実のところでは、「コミュニケーション支援を必要とする視聴覚障害者に対する手話通訳者、要約筆記者及び盲ろう通訳者の養成研修を推進するとともに、これらの派遣体制の充実強化を推進する。」とある。

しかし、盲ろう者支援は、コミュニケーション支援の枠には収まりきらないという本質的な実態がある。

確かに、聴覚障害者に対する通訳支援と類似の要素が、盲ろう者への支援にも存在する。ところが、盲ろう者への通訳には、たとえば、会議においては、話の内容の通訳だけでなく、名前・表情・言葉のニュアンス、発言者の話に対する周りの人の反応、その場にいる人の様子や動き、会議室への人の出入りなどを伝えないと、盲ろう者は取り残されてしまう。また、自力での移動が困難なため、視覚障害者向けのガイドヘルプ・同行援護のような移動支援が必要である。

さらに、盲ろう者の場合、公的な会議に参加するだけでなく、買い物や通院などの日常生活、職場、学校、近所づきあい、地域活動、社会活動といったあらゆる場面において、通訳・介助支援が必要である。したがって、全身性の重度障害者に対するサポートのような、その人のニーズに合わせた個別支援的な要素も加わってくる。

このように、盲ろう者への「通訳・介助支援」は、情報の入手・コミュニケーション・移動を総合的一体的に支援するものである。

4 新障害者計画に期待すること

前項3で述べた盲ろう者の特殊なニーズは、あくまでも多様な障害者や難病の人たち等の抱えるさまざまなニーズの一類型である。

どのような心身の困難やニーズを抱えている障害者に対してもきめ細かな対応がなされることが重要であり、既存の制度枠組みに人間を当てはめるのではなく、障害者一人ひとりのニーズに対して、いわば「オーダー・メイドの福祉施策の構築」が基本に据えられるべきである。そうした丁寧でしなやかな施策の充実が、障害者本人やその関係者にとって、安心と安全、生きる上での希望と活力を生み出すことにつながり、ひいては社会全体の新たな活性化にも繋(つな)がっていくだろうと筆者は考える。

(かどかわしんいちろう 社会福祉法人全国盲ろう者協会評議員)