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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

自治体
政令指定都市首長としての期待

清水勇人

さいたま市は、埼玉県の南東部に位置し、都心から20キロ圏内にある県庁所在地で、古くは中山道の宿場町として発達してきた歴史を持ち、現在は、東日本の交通の要衝として、また、市内に2つのJリーグチームが本拠を置くことでも知られています。

平成13年5月1日に平成の大合併の先駆けとして、浦和市・大宮市・与野市の合併により誕生し、その後、平成15年の政令指定都市移行、平成17年の岩槻市との合併を経て、今や人口は124万人を超え、埼玉県の行政、経済、文化の中心都市としてはもちろんのこと、日本でも指折りの大都市として、大きく成長を続けてきました。

そして、これからの100年に向けて、本市が、激しい都市間競争を勝ち抜くため、また、本市が志ある人や企業が集まる「選ばれる都市」となるために、国や県から大幅に権限と財源を移譲し、政策の自由度を飛躍的に高める新たな大都市制度の創設のための取り組みや、さいたま市のブランド力の向上に寄与する取り組みを進めていきたいと考えています。

さて、本市が政令指定都市に移行してからのこの10年間は、偶然にも現行の障害者基本計画の計画期間(平成15年度~平成24年度)に当たりますが、平成18年の国連における障害者の権利に関する条約の採択にあるように、障害のある人を施設に隔離することは施策や制度の問題ではなく、人権の問題であるというパラダイムの大きな変化があった10年間でもありました。

そうしたなか、本市では平成23年3月に政令指定都市として初めて障害のある方に対する差別及び虐待を禁止する「さいたま市誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例」いわゆる「ノーマライゼーション条例」を制定し、それまで国の法制度上、未整備であった障害のある方の権利を擁護するための仕組みを市独自で計画的に整えていくこととしました。

現在、国でいわゆる障害者虐待防止法の制定、障害者基本法の改正、障害者差別禁止法の検討など、国連の障害者の権利に関する条約の批准に向けた取り組みがなされています。今後は、新たに設置された障害者政策委員会のもとで、次期障害者基本計画が策定されていくことになると思いますが、次期計画はこれらの取り組みを踏まえた初めての計画となるため、地方自治体の長として大いに期待しているところです。

特に、権利擁護の推進について従前の計画で成年後見制度や福祉制度、また福祉サービスに係る権利擁護システムの導入促進というように極めて限定的であったことから、改正された障害者基本法及びいわゆる障害者虐待防止法の制定を受け、新計画でどのように具体化に向けた取り組みが盛り込まれるのか、注視してまいりたいと考えております。

次に、住居の確保についても、本市のような人口が流入し続けている大都市においては、今後も住宅需要が増加していくことが見込まれており、多大な費用を要する新たなグループホーム等の建設や既存の住宅の改修のみではなく、アパートなどでの一人暮らしをサポートしていくような都市型の施策が求められています。

また、誰にも気付かれることなく死に至り相当期間を経過した後に発見される、いわゆる「孤立死」という新たな社会問題を踏まえ、生命の危険が予見される情報を知り得たライフライン事業者が、自治体への通報をしやすくする環境づくりや、個人情報保護法上の取り扱いを明確にするなどの取り組みも国においては積極的に進めていただきたいと考えております。

このような取り組みについては、本年5月、すでに私から経済産業省及び厚生労働省にも要望させていただきましたが、地域で孤立しがちな障害のある方々に支援を届けるためにも必要な取り組みですので、計画の策定に当たっても一定の配慮がなされるべきと考えています。

このように、各自治体の地域性に応じた具体的な施策の形成は、計画策定後の制度の設計に求められるわけですが、地域間におけるサービス水準の格差という視点とは別に、国のバックアップのもとで、各自治体が地域の特性に応じた施策が展開できるということが、次期障害者基本計画に担保されなくてはならないと思います。

最後に、本市では「誰もが共に暮らすための市民会議」という誰でも参加できる100人単位の会議を定期的に開催しておりますが、そこでは「障害のある方のほうから挨拶をするようにして、それを繰り返していくことにより、近隣の皆様とのかかわりが生まれてくると思う」という意見や、先般の東日本大震災を受け「災害時には近所との付き合いがとても大事であるが、普段から隣にどのような人が住んでいるのかをお互いに分かり合って協力し合える地域づくりが必要なのではないか」というものがあったと報告を受けています。

これは、仮に地域で暮らしていたとしても一般の人々とは一線を画して暮らすのではなく、これからは自ら地域へ、地域の住民として共に暮らしていくのだという障害のある方やその家族の方から発せられた当事者の静かな思いであると感じました。

こうした、障害のある方の意識の変化について、受け入れる地域がしっかりと準備を行えるようにサポートしていくような取り組みも必要なことだと考えています。

次期障害者基本計画は、単に障害のある人の生活の場を物理的に病院や施設から地域に移すだけにとどまらない、真の意味での地域生活を営むことが見通せるような、これからの10年の計画としていただきたいと願っております。

(しみずはやと さいたま市長)