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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

1000字提言

「税金の行方」

堤未果

一体どれほどの国民が知っているだろう?「被災地復興」の為(ため)だと言われ、今後25年間上乗せされる所得税が既(すで)に復興以外の目的で使われている事を。

今国会に提出された『東日本大震災復興特別会計』の明細によると、殆(ほとん)どの財源が増税で賄われた復興予算の4割が使われず、うち1兆円が天下り法人運営費用に充てられていた。天下り法人の代表である独立行政法人で、元官僚の不労所得と言われる理事長の年間報酬は最低でも1千万円を超えている。

政府はさらに2030年までに総発電量に占める原発比率をゼロにした場合、電気代を含む家庭の光熱費が月額で約2倍に上昇するという試算を発表した。だがこの試算は、各電力会社が電気料金を自由に設定できる「総括原価方式」や、原子力村関係者が今と同じレベルの利益を維持する前提で計算されている。国有化後も支給される東電社員のボーナスや天下り先の報酬を見直し、関連会社が火力発電用の液化天然ガスを不当な高値で購入している暴挙を正させ、電力を国民が自由に選べる仕組みに向けた試算を出せば、結果は全く違うものになるだろう。

危険な有害物質の仕分けが不可能な広域瓦礫処理キャンペーン、本年度の環境省の予算には、広域瓦礫処理の宣伝費だけで30億円の税金が充てられた。巨額の予算を受けて発信されるマスコミ報道は、全国のがれき焼却地で有害物質が出ているニュースよりも、「絆の為の広域瓦礫処理」を宣伝する記事の方が圧倒的に多くなる。

貴重な税金が無駄に使われる程に、本当に必要な社会保障費は、ますます減らされてゆく。

本来国民に代わってこうした矛盾を直接追及する立場にいる国会議員を、私たちはもっと使うべきだろう。政局やスキャンダルといった不信感だけで彼らを切り捨てるのではなく、私たちの代理人として、よりよき未来を作るための仕事をきっちりとさせる。

「国家予算」の殆どは、国会の審議も経ないままに官僚に分配先を決められ、「法律」は選挙で選ばれた国会議員の議論結果ではなく官僚に創(つく)られているのが現状だ。そしてこうしたしくみは何よりも、私達一般国民の無関心によって支えられている。

だが震災後、官邸前デモをきっかけに国民の政治への怒りは頂点に達し、震災前この国を覆っていた、無関心の壁が音を立てて崩れ出した。今まで政治に目を向けなかった人々が、週末のデモに参加し、政治の暴挙に対し声を上げ始めている。

ねらい目は政治家と有権者の立場が逆転する選挙前後だ。駅前で辻立ちする議員や候補者が増えるこの時期に、国民の声をしっかりと彼らに伝えたい。

未来を選び取る自由を決して手放さないために、「あきらめなかった」と将来子供たちに胸を張れるように。

(つつみみか ジャーナリスト)