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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年11月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

当事者からの情報発信
~統合失調症ネットラジオ「こころらじお」の活動

小熊俊雄

こころらじお誕生の経緯

統合失調症ネットラジオ「こころらじお」は2006年(平成18年)11月に誕生しました。インターネットが普及している時代で、ブログのような文字を使った表現ではなく、当事者だからこそわかる病気の辛さや悩みなどをざっくばらんに音声としてインターネットで配信しようという全く新しい試みでした。この試みに集まったのは、統合失調症を患う当事者の若者4人。4人は統合失調症などの精神的な病気を抱える者同士が集まってお喋りをするサークルで知り合いました。そこで意気投合して「同じような病気の人たちのために何かやりたいね」ということになり、こころらじおを始めるに至ったのです。

最初の頃は、話すテーマ(進学、就職、恋愛、結婚、妊娠・出産、子育てなど)を決めて取材して、当時はあまり知られていなかったSkype(スカイプ)を使ったインターネット上でのスタッフとゲストの会議通話の録音や、パソコンでの編集も手探りで行なっていました。画期的なのは、全国のどこに住んでいても、インターネットにさえ繋がっていれば、ゲストに参加してもらえるということでした。当初はゲストを探すのも大変でしたが、次第にゲストに志願してくれる人も増え、ゲストの皆さんには統合失調症の当事者としてのさまざまな体験談を語ってもらっています。

現在のスタッフは6人(男性4人、女性2人)で、東京、埼玉、名古屋、広島とそれぞれ離れて暮らしています。もちろん収録はインターネット上ですが、今でもどこかに集まって収録を行なっていると思っている人がいます。

こころらじおの特色は、インターネットでこころらじおのホームページから、24時間好きな時に聴けることです。1回の放送は約30分から1時間で、リスナーのペースで聴くことができます。

現在に至るまでのこころらじおの活動

途中スタッフの交代などがありましたが、約6年間で16回(平成24年10月現在)の番組を配信するに至っています。誕生初期には、1か月に一度くらいのペースで新しい番組を配信してきましたが、それが2か月、3か月、半年と間隔が開くようになってしまいました。それはスタッフが怠けていたり、体調を崩した訳ではありません。こころらじおに参加したことをきっかけに、スタッフがそれぞれ進学・就職・出産など、新しい道に飛び出していったからです。こころらじおはゆっくりペースでの配信になりましたが、スタッフ全員が心に抱いているメッセージは変わりません。「病気で苦しんでいるのはあなたひとりじゃない、仲間が大勢いるんだよ」という熱い志をもって活動しています。

スタッフ全員が統合失調症で、通院しながら治療をしていることは、今も昔もなんら変わっていません。しかし、生活は一変しました。

私自身、こころらじおに参加したばかりの頃は、病院に週1回通院する以外は、近くを散歩するくらいで家にひきこもって、寝たきりの生活を過ごしていました。働くことなど考えられず、寝ながら天井を見つめていました。私はこころらじおに第零回放送(試験放送)から参加していますが、こころらじおと共に成長し、あきらめていた就労も日雇い派遣に挑戦して、社会と関わることへと一歩を踏み出しました。厚生労働省での約2年間のチャレンジ雇用を経て、今では民間会社で通院日以外は毎日フルタイムで働いています。就労という夢を叶えられたのもこころらじおの仲間が互いに支え合い、応援し合い、いい刺激となったからです。

また、もう一人のシステム担当の男性は、病気のために一度は志半ばで大学を中退しましたが、再入学を果たし、毎日忙しい学生生活を楽しんでいます。それだけではありません。こころらじおの母的存在である女性スタッフは、病気を抱えながらも高齢出産を決断し、無事に男の子を出産しました。家族の協力を得て子育てに励む毎日です。子育てに関してエピソードがあります。この女性スタッフは母親としての辛さを語っています。服薬しているため、自分の息子に初乳があげられませんでした。このエピソードは多くのリスナーの反響を得ました。こうして、スタッフそれぞれが統合失調症の当事者としての生き様をこころらじおで体験談として放送してきました。

スタッフ自身が苦労を乗り越えてきたからこそ、他の人の役に立つ喜びはひとしおです。全国から寄せられるメールにも一件一件返信し、今現在、状態が良くなくて不安を抱えている人や、そんな人たちを支えることに不安を抱いている人たちの相談にのって、少しでも安心してもらえればとスタッフ自身の励みにしています。

こころらじおがメディアに紹介されて

こころらじおはこれまでに数回、メディアに取り上げられています。1回目は平成21年の5月です。毎日新聞の関西版で紹介されました。2回目はスタッフの女性が投稿した作文をきっかけに、平成22年の12月にNHKの「ハートをつなごう」という番組で紹介されました。私も出演させていただきました。全くのボランティアで始めた「こころらじお」という活動がここまで来るとはスタッフの誰(だれ)も思っていませんでした。反響は大きく、届くメールも1日数十件を超えたこともありました。全国、北から南まで各地から感想や相談のメールが届き、返信が追いつかないほどでした。今までやってきた「こころらじお」という活動が世間で評価され、認められたと思った瞬間でした。

こころらじおのスタッフは皆、適切な治療を受け社会復帰を果たしました。そしてこれからも社会と関わる限り困難にぶつかり、それが次回の放送に繋がります。一歩踏み出す勇気を配信し続けています。このような活動を続けてきて6年目、地道な活動が評価されて、第8回精神障害者自立支援活動賞(リリー賞)を受賞しました。スタッフ全員で喜びを分かち合い、今まで出演してくれたゲストにも受賞をお知らせしました。権威ある賞を受賞し、これからは受賞団体として活躍の場を少しずつ広げていく所存です。

こころらじおの今後の展開について

統合失調症への理解が広まって、いつかこころらじおが必要なくなる時まで配信は続けていきます。そんな中で、こころらじおは新たな活動を始動させました。「こころマークプロジェクト」です。普段、統合失調症の当事者だからわかる偏見や差別をなくし、“精神の病気を抱えていても暮らしやすい社会を作ろう”をスローガンに「目に見えない障がいのマーク」をデザインしました。このマークをキーホルダーやストラップにして配布する活動です。地域で精神の障がい者を受け入れるにはどうしたらよいかを考えた結果、活動をスタートさせました。こころらじおが小さな活動から始まった経験から、こころマークプロジェクトの活動も小さな活動から世の中に広まる活動にしていきたいと考えています。活動は寄付や助成金を基にしています。皆さまからの支援を募集中です。詳しくは、こころらじおのホームページをご覧ください。病気をオープンにすることが当たり前の時代を目指しています。

(おぐまとしお こころらじお 代表兼広報)


○こころらじおのホームページのURL http://kokororadio.com/ 「こころらじお」のキーワードで検索していただいても結構です。ぜひ、統合失調者の体験談を聴いてみてください。