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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年12月号

アジア太平洋地域の精神障害者の連帯に向けて

桐原尚之

1 第2次十年開始の時代背景

国際障害者年と精神障害者をめぐっては、吉田おさみ(1982:38)が「身体障害者が念頭におかれている」と分析しているが、そのことは、日本身体障害者団体連合会を中心に「馬鹿やキチガイと一緒にされてたまるか」という言葉が投げられたことに象徴されている(花田、2008:22)。それからというもの、90年代から全国精神障害者団体連合会の参加があったくらいで、アジア太平洋障害者の十年との関係は希薄なものであった。

一方で精神障害者の運動は、90年代初頭から喧々諤々(けんけんがくがく)としたものを抱えていた。ところが、1999年の精神保健福祉法改正の際「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方について」附帯決議が可決され、2001年から厚生労働省と法務省が「触法精神障害者」の処遇をめぐって合同検討会を持ち、2003年、心神喪失者等医療観察法が成立する。医療観察法の廃案・廃止闘争が小異を捨てて大同と連帯の兆しをつくった。同時代、国際的な動きとしては、1991年に世界精神医療ユーザー連盟(WFPU)が結成され、現在の世界精神医療ユーザー・サバイバーネットワーク(WNUSP)として2001年の国際障害同盟(IDA)の結成に携わっている。このころ、日本国内の障害者運動も障害種別の垣根を越えた連帯に向かっていた。

2 全国「精神病」者集団としての関わり

2001年、第56回国連総会でメキシコなど28か国から障害者の国際人権条約の提案を検討するための特別委員会の設置について決議案が出され、全会一致で可決した。翌2002年5月、第58回国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)総会でアジア太平洋障害者の十年を2003年から2012年まで延長する決議が出された。また、国内では、2004年に日本障害フォーラム(JDF)が結成され、このころから、全国「精神病」者集団は、関口明彦と山本眞理を中心に障害者権利条約の策定過程を通じて、アジア太平洋障害者の十年との関わりを密にしていった。

2003年6月、UNESCAPのもとで「障害者の権利及び尊厳を保護及び促進する国際条約に関する専門家会議」が開かれ、関口が出席した。その場で関口は、障害の定義にWHO国際分類ファミリー(とくにICD)を従来どおり入れることに反対の意見を出した。この反対意見は、その場で出されたバンコク提案に反映された。その後、国連障害者権利条約アドホック委員会では、一貫して山本が関与を続けた。障害者権利条約第17条をめぐっては、関口が資料を持って原口一博衆議院議員を訪ねて公衆衛生の文言を無くすように請願した。障害者権利条約をめぐっては、JDFを通じて第1条に尊厳を入れるように日本政府に要請した。結果として、すべて反映された。

2007年の中間年ハイレベル政府間会合では、JDFを通じて関与し、それ以降の第3次十年に向けた取り組みにも関わっていった。その一環として、2012年3月14日から16日のESCAPハイレベル政府間会合準備会合には、WNUSP理事会と調整を図り、私が出席した。他、アジア太平洋障害者人権審査機関を作る運動に関口と私が関わり、第3次十年の中心に据えることはできないかと奮闘した。

3 第2次十年の課題と第3次十年の展望

第2次十年は、障害者権利条約への影響力、APDFを通じたアジア太平洋地域のネットワーク構築、APCDの設置とUNESCAPによる援助など一定の成果を上げてきた。その一方で、積み残した課題もある。

2010年7月26日、UNESCAPが出した「アジア太平洋地域における障害者権利条約の状況」では、パラグラフ28に障害者権利条約第12条第4項の法的能力の平等にかかる支援として、後見制度を限定的に認めるととれる一文がある。これは、国連人権委員会が2009年1月26日に出した見解「障害者権利条約の認識と理解を強化することの国連人権高等弁務官事務所による主題の研究」とも立場が異なる。

私たち精神障害者としては、国連人権委員会の見解を支持し、判断能力として個人の問題に帰責し、法律行為を制限する後見制度からの解放を目指したい。そのことは、オーストラリアの仲間によって要求されたが、現状として変化が見られない。よって、UNESCAPが障害者権利条約を原則に据えて権利の実現をミッションとするならば、UNESCAP見解のみによらず、柔軟な対応を求めたいところである。

もうひとつ、WNUSPのアジア太平洋地域のネットワークが弱いため、評価を実質的なものにできなかった。どうしても、政府の報告は、信用していいものか、そうでないものかがわからない。また、政府を疑うにしても、その糸口がない以上、闇雲に疑うわけにもいかない。だからこそ、障害者団体が差別の経験から各国の実情を明らかにし、政府の報告に対して実質的な評価を与えるための情報を発信していかなければならない。このことは、WNUSPが第3次十年に関わるにあたって喫緊の課題といえる。現在、WNUSPには、インド、ネパール、韓国、オーストラリア、インドネシアなどの国に仲間がいる。今後は、彼らとの連絡を密にして、第3次十年を実効的なものにしていきたい。

(きりはらなおゆき 全国「精神病」者集団 運営委員)


【参考文献】

・花田春兆『1981年の黒船―JDと障害者運動の四半世紀』現代書館、2008年

・吉田おさみ「国障年思想を超えて――「病」者の立場から」臨床心理学研究19(3):38-42、1982年