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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年12月号

第2次アジア太平洋障害者の十年と中途失聴・難聴者

新谷友良

はじめに

第1次アジア太平洋障害者の十年に比べ第2次アジア太平洋障害者の十年(2003年~2012年)は非常に印象が薄い。その背景として、国際的には国連における障害者権利条約の採択があり、国内的には障害者自立支援法を巡るさまざまな動きがあって、障害者団体もそれへの取り組みに忙殺されてきたことが考えられる。年表的にも、障害者権利条約は2001年の国連総会で制定が決議され、2006年の国連総会で採択されている。また、障害者自立支援法は2005年に成立し、2010年に国と訴訟団との訴訟合意がなされている。しかし、第2次アジア太平洋障害者の十年の印象の薄さは、そのような外的な要因に加え、十年の中核を成す「びわこミレニアム・フレームワーク(以下、BMF)」の策定経緯とその中身のもたらすところが非常に大きいように思われる。

BMFには9つの原則が掲げられており、行動の優先領域として、1.障害者の自助団体および家族・親の団体、2.女性障害者、3.早期発見・早期対処と教育、4.訓練および自営を含む雇用、5.各種施設・公共交通機関へのアクセス、6.情報、通信および支援技術を含む情報通信へのアクセス、7.能力構築、社会保障と持続的生計プログラムによる貧困の緩和、の7つが挙げられている。また、それぞれの行動領域には、併せて21項目の目標およびアクションが示されている。いずれも、すべての障害者・障害者団体にとって切実な課題領域であるが、その中でもわれわれ聴覚障害者にとってとりわけ関わりの深い「情報通信へのアクセス」の領域での、この10年間のわが国での施策の流れを振り返ることで、BMFへのわれわれ団体としての評価としたい。

びわこミレニアム・フレームワークと聴覚障害者

第2次アジア太平洋障害者の十年に期間限定すれば、当会の活動の中心は、1.障害者の範囲に関する「デシベルダウン運動」、2.聴覚障害者の社会的認知を進める「耳マーク運動」、3.テレビの字幕付与を中心とする音声情報の文字化を求める運動、4.コミュニケーション支援としての要約筆記者の制度化を求める運動、の4点に集約できる。

そのうち「情報通信へのアクセス」としてのテレビ字幕の問題については、さまざまな当事者団体の要望を受け、1997年に「2007年までに字幕付与可能な放送番組にすべて字幕を付することを目標とする字幕放送普及の行政指針」が策定され、2007年10月には字幕付与可能な放送番組の定義を拡大し、新たに解説放送の普及目標を加えた「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」が策定された。その後、昨年の障害者基本法の改正を受けて行政指針の見直しが検討されたが「現在、各放送事業者は現指針に基づき、字幕の充実に努めているところであり、これまで拡充計画を上回る実績が大部分の放送事業者において達成されていることから、直ちに義務化する状況にはないと考える」として、字幕放送の法的義務化は実現していない。

一方、コミュニケーション支援としての要約筆記者の制度化については、2004年から2年間にわたって当会は「要約筆記通訳者養成等に関する調査研究事業」を実施し、その後2006年には「要約筆記通訳指導者養成等事業」、2007年には「要約筆記指導にかかる研究事業」を継続的に実施した。その結果、聴覚障害者が求める要約筆記者の役割、その養成方法についての姿が明確となった。

また、法制度としては2005年に成立した障害者自立支援法が、市町村の地域生活支援事業として要約筆記者の派遣を必須事業に位置づけ、都道府県の地域生活支援事業として要約筆記者の養成が裁量事業とされた。この流れは、今年6月成立した障害者総合支援法でも継続されており、「意思疎通支援を行う者のうち、特に専門性の高い者を養成し、又は派遣する事業」「意思疎通支援を行う者の派遣に係る市町村相互間の連絡調整等広域的な対応が必要な事業」が都道府県の必須事業となっている。

BMFの行動優先領域としての「情報通信へのアクセス」は、一読すれば分かるように障害者の日常生活でのコミュニケーション支援問題よりは、ICT(情報技術通信)のアクセス問題への傾斜が強い。「ICTは、経済成長の原動力となり、経済のグローバル化を刺激し続けている。しかしながら、ICTの発展の利益は、持つ者と持たざる者、また先進国と途上国との間で不均衡に広がった」「アジア太平洋地域の多くの国では、手話、点字及び指点字(触知できる手話)は、標準化されていない。これらの、又はその他のコミュニケーション手段の開発を開発・普及させる必要がある。そのようなコミュニケーション手段がないと、視覚及び/又は聴覚障害者は、ICTの発展から利益を得ることはできない」と述べるように、ICT領域での標準化、基準化の進展の先に、障害者のコミュニケーション問題の解消が求められている。

BMF策定にあたっての当会の取り組みは弱かった。聴覚障害当事者が参加しておれば、「目標16:インターネットとその関連サービスにアクセスできるようになるべき」と書くと同時に、「テレビ番組の100%字幕化」を求めたであろう。また、「目標20:手話通訳者、点字翻訳者、指点字通訳者、及び朗読者を訓練・派遣する制度を設立すべき」に「要約筆記者」の文字を入れることを要求したであろうとの反省が大きい。

(しんたにともよし 社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会副理事長)