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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年1月号

政策委員会に期待すること

障害者主体・市民主体の障害者施策を推進する要(かなめ)としての政策委員会

平野方紹

1 障害者主体を前面に打ち出したノーマライゼーション条例制定が契機

さいたま市では、平成15年に障害者基本法(当時)を根拠として「障害者施策推進協議会」(以下「協議会」)を設置し、障害者施策についての審議を活発に行なっていました。そして平成23年に、改正された障害者基本法に基づき「障害者政策委員会」(以下「委員会」)に改称し、平成24年度からは委員会として新たなスタートを切っています。これだけでは、障害者基本法改正に準じて名称を変えただけに思えますが、さいたま市では全く別の意味がこの名称変更に含まれています。

さいたま市では、平成22年に障害者条例策定が市長から協議会に諮問され、これを受けて、協議会は条例策定を実務的に検討する専門委員会を協議会内に設置するとともに、1.できるだけ多くの障害者や市民の声を条例制定に反映させたい、2.さいたま市の実態に即した現実的で実践的な条例にするために、一人でも多くの障害者や市民が参加して議論するための「障害者条例策定のための100人委員会」を発足させ、この100人委員会には、文字通り100人を超す、障害者や市民が登録し、条例制定までに10回開催され、延べ800人が参加し、条例策定へ向けての大きな原動力となりました。

この条例策定での議論で大きく取り上げられたことは、差別や虐待のない、障害者が権利の主体となるさいたま市にしよう、障害の有無にかかわらず誰(だれ)もが権利を尊重される地域社会を作ろうということでした。そんなこともあり、100人委員会では障害者本人、その家族の意見や経験を尊重して現実を学びながら考えるという討論を大切にして積み重ねてきました。その成果が「誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例」(ノーマライゼーション条例)です。

施策や制度を創(つく)る根本には、障害者や家族などの当事者の声や実態を据えるべきであり、それが権利を保障することである、これがノーマライゼーション条例作りから学んだ教訓でした。

表 協議会と委員会のメンバー構成の推移

単位:人

区分 協議会 委員会
委員数 20 20
障害当事者委員 10
内訳 障害者本人委員
家族・保護者委員
女性委員
公募委員

※委員長は学識経験者が務めることが慣例のため、委員会は裁決する場合には障害当事者委員が過半数となる。
(委員数20人-委員長(議長)2人=19人÷2=9.5人<障害当事者委員10人)

2 政策委員会への変身は障害者主体の宣言

ノーマライゼーション条例を受けて、平成23年度から新たなメンバーで協議会が発足しましたが、条例制定での議論と教訓を反映し、メンバー構成を表のように組み替えることとしました。これは、1.障害者主体を保障するために障害当事者の構成を高める、2.女性の比率を高める、3.市民参加を促進するため公募委員を増員する、などを意図しています。これにより、協議会は意見も活発に出されるようになり、メンバー間での議論が会議のほとんどを占めるようになり、事務局(行政当局)の提案についても障害者目線・市民目線から直言する場となっています。大変失礼な表現で恐縮ですが、少なくない協議会で事務局(行政当局)からの説明と質疑応答に終始し、事務局からの報告とその形式的承認の場となっていることと大きな違いを見せています。

平成23年の障害者基本法改正に伴い、国の中央障害者施策推進協議会が障害者政策委員会に改組されたことを受けて、さいたま市でも協議会から委員会へ改称しましたが、これは法改正に沿っただけではなく、これまでの条例作りや協議会での議論から、「行政当局が作成した障害者施策の推進を協議する」場ではなく、「障害当事者と市民とで障害者施策を考える」場にしようという決意を込めて改称することとしました。これは、委員会自らが障害者主体で施策の検討を行うことを宣言することでもあります。

3 障害者参加・市民参加の委員会運営を目指して

障害者参加・市民参加という条例作りの教訓を活かすために、委員会は、委員会だけで議論を閉じないようにしています。そのために多くの障害者や市民が参加する「誰もが共に暮らすための市民会議」(条例を根拠)を発足させ、図のように、市民会議と委員会が二人三脚で議論を進めることとしています。多くの障害者や市民の生の声を障害者主体の立場から計画(障害者計画、障害福祉計画、地域福祉計画など)や施策に反映させる、そんな役割を委員会は担ってゆきたいと考えています。

図 障害者施策の推進体制
図 障害者施策の推進体制拡大図・テキスト

国の政策委員会も障害者の主体性を尊重し、障害者や国民と施策の橋渡しとしての役割を果たしてほしいと願っています。また、各都道府県や市町村の委員会や協議会の声を集約する役割を担っていただきたいと思っています。

(ひらのまさあき 立教大学コミュニティ福祉学部、さいたま市障害者政策委員会委員長)