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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年1月号

ワールドナウ

日本財団とオーバーブルック盲学校によるONNET事業とアジアの視覚障害者

高橋恵里子

日本財団は海外の障害者への支援を積極的に行なっている。本稿で紹介する「視覚障害者のためのオーバーブルック=日本ネットワーク事業」は、通称オンネット(ON-NET)事業と呼ばれており、日本財団がアメリカのオーバーブルック盲学校と協力して1998年からアセアン地域で視覚障害者のために実施してきた事業である。日本財団は2011年に、タイ、カンボジア、ベトナム3か国における、ON-NET事業の評価を実施した。評価報告書は、下記日本財団国際協力グループBHNチームのブログに公開されているので、詳細な評価結果や各国の視覚障害者の現状に興味のある方はこちらをご覧いただきたい(http://blog.canpan.info/bhn/monthly/201501/1)。ここでは、報告書の概要を簡潔に紹介する。

ON-NET事業の経緯と目的

オーバーブルック盲学校は、アメリカのフィラデルフィアにある私立盲学校で、パーキンス盲学校と並んで国際貢献に積極的であることで知られている。オーバーブルック盲学校は1985年から13年間にわたって、主に途上国の視覚障害留学生を積極的に受け入れていた。このプログラムに参加した学生や教員は300人以上にのぼり、英語、コンピューター、リーダーシップ養成の3つの分野を1年間集中的に勉強して、リーダーとして巣立っていった。タイの国会議員として活躍しているモンティエン・ブンタン氏やラチャスダ大学のヴィラマン・ニヨンポン氏もオーバーブルック盲学校の卒業生である。しかし当時の多くの学生は、帰国した後に自分の国で視覚障害者の立場を改善することに苦労していた。

近年まで世界視覚障害児教育会議(ICEVI)の会長を務めていたラリー・キャンベル氏は、1993年当時、オーバーブルック盲学校国際部のディレクターであった。キャンベル氏は、帰国した留学生たちから多くの相談や支援のリクエストを受けるようになり、途上国のより多くの視覚障害者を支援するためには、それぞれの地域に根差したプログラムが必要だと考え、日本財団に事業を提案した。日本財団は1980年代にオーバーブルック盲学校に途上国からの留学生のための奨学金を設置しており、さらにアジアの視覚障害者の支援を行いたいと考えていたため、支援を決定した。

こうして1998年にアセアン諸国のタイ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、カンボジア、ラオス、インドネシアを対象としたON-NET事業が開始した。事業の目的は、コンピューターによるアクセス・テクノロジーの効果的な利用を通じて、途上国における盲人と視覚障害者の教育と就労の機会を拡大することと、アジア地域に視覚障害者支援団体のネットワークを確立することであった。

キャンベル氏は当初、毎年の助成を想定していたが、日本財団は長期間にわたって事業を継続するために、基金の設置を提案した。300万ドルの基金が設置され、現在まで運用益で事業は継続されている。2012年の事業費は、ON-NETは他の国際NGOと違って現地オフィスを持たず、各国のNGOメンバーから地域アドバイザリー会議を設立し、各国のニーズを吸い上げてプロジェクトへの助成を行なっている。

各国での事業と成果

1.タイ

タイは、東南アジア諸国の中では最も教育のインフラが整った国であったため、ON-NET事業全体のハブとして、タイのラチャスダ大学にASEAN地域センターが設置され、コンピューターに関して多くのワークショップやトレーニングが行われた。また、ラチャスダ大学ではヴィラマン氏がタイ語のスクリーンリーダー、タイ語の点訳ソフト、さらにクメール語やラオス語の点訳ソフトの開発を支援した。

コンケン省に本部があるキリスト教視覚障害者財団(CFBT)は、タイに11ある盲学校のうち9校を運営するNGOであり、ここにもON-NET事業の支援でコンピューターセンターが設置され、ワークショップや研修が行われた。ON-NET事業を担当していたクリセルダ氏は「タイの視覚障害者へのコンピューターの普及はON-NETによってもたらされた」と言う。CFBTでのワークショップには、ベトナム、カンボジア、ラオスなどからも多くの参加者が参加した。たとえば、カンボジア視覚障害者協会のブン・マオ氏も、CFBTでリーダーシップトレーニングを受けてコンピューターの使い方を学んだ。

タイは現在、支援を受ける側から、ラオスやカンボジアなどへ支援を行う側へと移行しつつある。

2.カンボジア

カンボジアにおけるON-NET事業の成果は大きく2つある。1つは当時、視覚障害当事者団体がなかったため、カンボジア視覚障害者協会(ABC)の設立を支援したこと。ABCは現在、日本財団や他の国際NGOからの支援を受けているが、ON-NET事業による運営資金の支援は現在まで続いている。

また、カンボジアでは政府による特殊教育が存在しないため、クローサットメイというNGOが視覚障害児に教育を提供している。2003年頃は点字教材が不足していたため、クローサットメイが運営する4つの盲学校のうち3校に、教材作成センターを設置した。近年では、コンピューターセンターの設置およびコンピューターと英語のトレーニングを支援している。

3.ベトナム

ベトナムでは、ベトナム盲人協会(VBA)が41の州(300地区)にVBA支部を有し、約4万人が加盟している国内最大規模の視覚障害者組織である。2008年からはON-NET、VBA、およびサオ・マイ・センターの協力で九つの地区にコンピューターセンターを設立し、研修を支援した。

ベトナム教育省とも協力し、当時は輸入品で高価なため不足していた点字版をベトナム国内で生産できる体制づくりを支援した。これにより、教育省が安価な点字版を盲学生に配布することが可能になった。当時、ベトナムで使用されている点字が異なっていたが、これを統一するための会議を開催し、点字統一に貢献した。

また、ホーチミンにあるサオ・マイ視覚障害者コンピューターセンターに対して、ベトナム語数学サポートソフトの開発や無料のスクリーンリーダーの開発などの支援を行なっている。

総合評価および今後の展開と課題

ON-NET事業は、当事者の後継者を育成し、各国のニーズをうまく吸い上げて効果的な支援を行なってきたと評価できる。

成功の要因は、オーバーブルック盲学校の卒業生がキーパーソンとなって活躍したこと、各国にネットワークが形成されお互いが刺激を受け助けあっていること、また、キャンベル氏がコーディネーターとして頻繁に対象国を訪問し、人と人をつなぐ役割を果たしたことが挙げられる。氏は「最も重要なものは、フォーマルなものであれインフォーマルなものであれ、ネットワークだと言える。人々がお互いをよく知り、誰が何に強いか知っており、尋ねることができる」と語っている。

ON-NETは、今後も基金の運用益で事業を継続していく。今後の大きな予定としては、支援が途絶えていたミャンマーでのプロジェクトの開始が近々計画されている。また、評価チームによって点字プリンターの技術者の不足や、就労の状況についての課題が指摘された。今後はこうした課題に引き続き取り組んで、途上国のより多くの視覚障害者が点字やコンピューターから情報を得る喜びを味わえるよう、支援を続けていきたい。

(たかはしえりこ 日本財団国際協力グループチームリーダー、BHN(ベーシック・ヒューマン・ニーズ)チーム)