音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年1月号

報告

第2次アジア太平洋障害者の十年最終年インチョン会議報告
―ESCAPハイレベル政府間会合とAPDF会議―

寺島彰

2012年10月29日(月)~11月2日(金)に開催されたアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)ハイレベル政府間会合に合わせて、国際団体による一連の国際会議が開催され、その会議のうち、ESCAPハイレベル政府間会合とアジア太平洋障害フォーラム(APDF)会議に参加したのでその概要を報告する。

1 国際会議日程

一連の国際会議の日程は、表1のとおりである。すべての会議が韓国インチョンのソンド・コンベンション・センターで開催された。

表1 国際会議の開催日程

  DPI APDF RI ESCAPハイレベル政府間会合
10月24日(水)      
10月25日(木)      
10月26日(金)    
10月27日(土)  
10月28日(日)    
10月29日(月)  
10月30日(火)  
10月31日(水)    
11月1日(木)    
11月2日(金)    

2 ESCAPハイレベル政府間会合

(1)経過

1981年の国際障害者年以来、アジア太平洋地域では、30年にわたり、障害者の十年を継続してきた。それにより、アジア太平洋地域は、世界の他の地域に比べて障害者の社会参加が進んだ(表2)。

表2 障害者の十年

国際障害者年「完全参加と平等」(1981)

国連・障害者の十年(1983-1992)

アジア太平洋障害者の十年(1993-2002)

第2次アジア太平洋障害者の十年(2003-2012)

国連「障害者権利条約」(2008)

新アジア太平洋障害者の十年(2013-2022)

第2次アジア太平洋障害者の十年の最終年を間近に控えた、2010年5月10日のESCAP総会において「ハイレベル政府間会合の開催に向けた準備に関する決議」(決議66/11)がなされ、ハイレベル政府間会合を2012年に韓国で開催することが決議された。以後、同政府間会合に向けた準備が始まった。

2010年6月23~25日に開催されたESCAP「第2次アジア太平洋障害者の十年(2003-2012):びわこミレニアム・フレームワークの実施状況評価に関する専門家・関係者会議」において、現在の第2次十年の達成状況が評価されるとともに、さらに、アジア太平洋地域の障害者の十年を延長すること、そして、その進展状況を測定可能な指標を用いて国家および地域レベルで追跡できるようにすること等の提案が行われた。提案を受けて、2010年10月19~21日、ESCAP「第2回社会開発委員会」において「新アジア太平洋障害者の十年(新十年)」の実施を総会に諮ることが決議された。

また、2011年12月14~16日に開催されたESCAP「アジア太平洋障害者の十年(2003-2012)の実施状況の最終評価のためのハイレベル政府間会合に向けた地域ステークホルダー会議」においては、新十年の進捗状況を測定可能な指標を用いて評価することのできる「インチョン戦略」の草案等が提案され検討された。インチョン戦略については、2012年3月14~16日、ESCAP「ハイレベル政府間会合のための地域準備会議」においてさらに検討され、今回のハイレベル政府間会合で提案された。

(2)プログラム

政府間会合は、高級実務者会合(10月29日~10月31日)と閣僚級会合(11月1日~11月2日)に分かれている。具体的なプログラムは、表3のとおりである。実質的な審議は、前半の高級実務者会合で行われ、後半の閣僚級会合では、高級実務者会合の議論により作成された閣僚宣言、インチョン戦略、会議報告書の採択が行われた。また、各国政府代表による声明が行われ、日本からは、風間直樹外務大臣政務官が日本政府の声明を述べた。

表3 ESCAPハイレベル政府間会合プログラム

[高級実務者会合]

10月29日(月)

議題1:開会式 (a)開会挨拶 (b)会議役員選出 (c)議案採択

議題2:びわこミレニアム・フレームワークのまとめ

議題3:「新アジア太平洋障害者の十年(2013-2022)に関する閣僚宣言」案と「アジア太平洋の障害者の権利の実現のためのインチョン戦略」案についての検討

10月30日(火)

議題3:継続審議

議題4:新アジア太平洋障害者の十年ワーキンググループの構成についての検討

10月31日(水)

障害者を含む政策の根拠を強化するためのパネルディスカッション

「障害者を含む災害時のリスク削減」スペシャルイベント

議題5:会議報告書採択

[閣僚級会合]

11月1日(木)

議題6:開会式 (a)開会挨拶 (b)チャンピオン賞授賞式 (c)会議役員選出 (d)議案採択

議題7:アジア太平洋地域の新アジア太平洋障害者の十年(2013-2022)についての検討

議題8:その他

11月2日(金)

インチョン市内の施設見学(ミコール特別支援学校、キョンジンリハビリテーション病院)

議題9:「新アジア太平洋障害者の十年(2013-2022)に関する閣僚宣言」と「アジア太平洋の障害者の権利の実現のためのインチョン戦略」の採択

議題10:会議報告書の採択

議題11:閉会式

閣僚級会議の中で、「国連ESCAPアジア太平洋障害チャンピオン賞」の授賞式が催され、キム・ファンシク大韓民国首相と村田俊一ESCAP事務局次長からアジア太平洋域内の国々から選ばれた10人の受賞者一人ひとりにトロフィーと記念品が授与された。日本からは、日本障害フォーラム(JDF)幹事会議長の藤井克徳氏が受賞した。

本賞は、インクルーシブな社会の構築、障害者の権利の促進と保護に関するネットワークの発展、障害者権利条約の批准・実施に貢献してきており、自国で尊敬され、これからも障害者の権利実現のために活躍できる人に対して贈られるものである。

また、10月31日の午前中、JDF主催のスペシャルイベントが開催された。開催の趣旨は、2011年の東日本大震災に際して多くの国々から精神的および物的支援をいただいたことに感謝するとともに、自然災害において、常に非常に弱い立場に置かれている障害者を守るために、どのように支援すればよいのか、アジア太平洋の障害者の災害時の経験を共有し知見を深めることであった。

プログラムは表4のとおりである。タイ、スリランカ、フィリピン、日本から報告があった後、パネルディスカッションが行われた。参加各国および国際機関の代表者など約130人の参加があり、さまざまな質問や意見が出され、このテーマに関する関心の高さがうかがわれた。

表4 JDFスペシャルイベント「障害者を含む災害時のリスク削減」プログラム

総合司会:コーディネーター寺島彰(JDF国際委員長)

開会挨拶(11:00-11:10)

森祐司(JDF政策委員長)

石井靖乃(日本財団)

池田洋一(在韓国大使館参事官)

基調報告(ビデオ上映含む)「東日本大震災の経験から一インクルーシブ社会への提言」(11:10-11:25)

藤井克徳(JDF幹事会議長)

各国からの報告(11:25-11:55)

タイ-スメット・フォンカチャ(レデンプトリスト障害者福祉財団レデンプトリスト障害児センター代表)

スリランカ-プレマダサ・ディサヤナケ(スリランカ障害者リハビリテーション財団名誉会長)

フィリピン-ジョセリーン・セバロス・ガルシア(タハナン・ワラン・バグダナン事務局長)

「東日本大震災被災地における経験と取り組み」(11:55-12:15)

白石清春(JDF被災地障がい者支援センターふくしま代表)

阿部一彦(JDFみやぎ支援センター代表)

質疑応答(12:15-12:25)

閉会挨拶(12:25-12:30)

松井亮輔(APDF前事務局長/JDF代表者会議構成員)

3 APDF会議

アジア太平洋障害フォーラム(APDF)は、2年ごとに総会と会議を開催している。今年の会議は、ESCAPハイレベル政府間会合に合わせて、インチョンで開催された。プログラムは、表5のとおりである。

表5 APDF会議プログラム

[10月26日]総会

[10月27日]全体会

1.開会挨拶 Mr. Kyung Seok Park(APDF会長)

2.基調講演 「第2次アジア太平洋障害者の十年(2003-2012)」

Mr. Alam Kanderker(APDF前会長)

3.基調講演 「新十年におけるAPDFの進展」Mr. Kyung Seok Park(APDF会長)

4.基調講演 「障害者権利条約と新アジア太平洋障害者の十年」

Mr. Ronald Clive McCallum(障害者権利委員会委員長)

5.基調講演 「権利条約批准に向けての取組」

ジュディ・ヒューマン(米国国務省国際障害者権利特別顧問)

6.パネルディスカッションA「新十年実施のためのCSOの役割と国際協力」

コーディネーター:松井亮輔(APDF前事務局長)

パネリスト:Mr.Joseph Kwok(RI社会委員会委員長、APDF新十年推進委員会委員長)、Mr. Neth Un(カンボジア障害行動協議会(DAC)次長)、佐野竜平(アジア太平洋障害者センター)、Mr. Jong Sul Yoon(韓国障害者親の会ネットワーク会長)、Mr. MoonHee Lee(Korea Differently Abled Federation事務局次長)

7.パネルディスカッションB「障害インクルーシブ開発:APDFにとっての重要課題」

コーディネーター:Ms. Charlotte McClainNhlapo(米国国際開発機関(USAID))

パネリスト:Mr.Hyung Shik Kim(国連障害者権利委員会委員、韓国国際学大学国際協力学部教授)、久野研二(国際協力機構(JICA))、Ms. Megan McCoy(オーストラリア国際開発機関(AusAID))、Mr. Setareki, S. Macanawai(大洋州障害フォーラム(PDF)会長)、Ms.Tanya Barron(Leonard Cheshire Disability国際部長)

[10月28日]分科会

[10月29日]全体会 障害者権利トークセッション

[10月30日]文化プログラム・閉会式

初日の総会では、役員の改選があり、新会長に韓国障害フォーラム会長のパク・キヨンソク氏が選出された。これまで、事務局は、(公財)日本障害者リハビリテーション協会に置かれていたが、事務局長の交代に伴い、韓国障害者リハビリテーション協会へ移管されることになった。

また、2014年の総会・会議は、ベトナムでの開催を検討したいという提案が、ベトナム障害者団体連合会代表からあった。

2日目からの会議では、全体会では、基調講演、パネルディスカッション、トークセッションがあった。また、分科会では、1.障害者権利条約、2.アクセシビリティ、3.精神障害、4.発達障害と親の会の運動、5.デフカルチャー、6.女性障害者、7.保護と権利擁護、8.自立生活、9.アートの9つのテーマで議論を深めた。

今回のAPDF会議には、JDFがツアーを企画し、同会員に呼び掛けたこともあり、日本から全体で約60人の参加があった。

(てらしまあきら JDF国際委員長・浦和大学)