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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年1月号

ほんの森

発達保障ってなに?

丸山啓史・河合隆平・品川文雄 著

評者 加藤直樹

全障研出版部
〒169-0051
新宿区西早稲田2-15-10-4F
定価(本体500円+税)
TEL 03-5285-2601
FAX 03-5285-2603

1967年の結成以来、基調として「発達保障」を掲げてきた全国障害者問題研究会(全障研)が、一般向けのわかりやすい本を出版した。若い2人の研究者は発達保障の考え方の基本、歴史を担当し、ベテランの全障研前委員長品川文雄氏が自らの実践を執筆している。

本書の主張の重要な一つは「発達」の見方である。一般に「能力の高度化」が発達であるととらえられるが、発達保障では、それらを「タテへの発達」と呼ぶとしたら、「ヨコへの発達」があるという。より難しいことができるようになるだけでなく、多様な能力を身につけたり発揮できる場面が広がって、人との関わりが広がり生活に幅が出てくることも「発達」だと主張する。

また、能力だけでなく、気持ちが育つ、価値意識が深まるなど、人格が豊かになっていくことも大切な「発達」と考え、力の獲得と人格の形成とを統一的にとらえる発達観を提起し、さらには、「自分らしい価値ある生活をつくっていく自由度が高まる」ことを重視し、生活や人生が豊かになっていくことにつながる「発達」を目指すことが重要であるとする。

つまり高齢者を含むすべての人の発達可能性を主張し、それを目指す取り組みが発達保障であるというのである。

「発達保障」は、50年あまり前にわが国の障害児施設から提起されたものであったが、北欧で提起された「ノーマライゼーション」とほぼ同時期に、障害者の権利保障を目指すという共通の主張を含むものであった。それは、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」につながるものである。発達保障の理念が深められた例として、権利条約の「教育」(第24条)で謳われている「人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人言の多様性の尊重を強化すること」、「その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること」を挙げている。

本書に収められた品川実践は、まさに発達保障の考え方を体現したもので、これだけでも発達保障の基本を学びうるものである。しかしそれは、多くの優れた実践と共通点をもったものであり、発達保障実践は特別なものではないともいいうる。

本書あとがきで全障研委員長の荒川智氏は、新自由主義と新保守主義が席巻し、市場原理と自己責任の論理がはびこっている現在、それに対置し、「集団の発展」、「社会の進歩」を含む「発達保障」の理念と主張を今こそ広げていくべきことを述べている。まさに時宜に適した刊行である。

(かとうなおき 立命館大学名誉教授)