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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年1月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

Artbility meets 10 designers
~コラボレーションで生まれる新しい魅力を提案

小高真紀子

10月30日から11月21日の期間、東京・銀座のクリエイションギャラリーG8で、「Artbility meets 10 designers」を開催しました。ハンディキャップをもったアーティストと活躍中の若手グラフィックデザイナー10組が、コラボレーションした作品を発表する展覧会です。あわせてアーティストの原画も75点展示しました。

19日間の開催で入場数は2,129人。学生やデザイナー、イラストレーター、会社員、編集者、作家とそのご家族、教育や福祉関係の方など、幅広い層のお客様がギャラリーを訪れ、思わず「きれい!」「すごい!」といった声が聞こえてくるほどでした。

展覧会の始まり

きっかけは、グラフィックデザイナーの福島治(ふくしまおさむ)さんからのお話からでした。「アートビリティというアートライブラリーがあって、そこにはハンディキャップをもちながらもすばらしい作品を描くアーティストがたくさん登録しています。ぜひこの展覧会をギャラリーでできませんか?」と。

アートビリティとは、社会福祉法人東京コロニーが障害をもつアーティストを支援しようと1986年に立ち上げた事業です。ウェブサイトを通して作品を紹介し、企業やデザイナーといった発注側が印刷物等に使用するときに、その使用料を作家に支払うというシステムです。私は、福島さんからお話を聞いて、初めてアートビリティの存在を知り、早速ウェブサイトを見ました。そこには、約200人による3000点以上の作品が閲覧できるようになっていて、作品はどれも生き生きとして力強く、色彩や造形力の豊かさに驚きました。しかし、作品は良くてもただ並べて見せる展覧会ではどこでもできる。クリエイションギャラリーG8ならではの企画にしたい!と考えました。

デザイナーとのコラボレーション

G8は、「デザインとコミュニケーション」をテーマに、グラフィックデザインを中心とした企画展を開催するギャラリーです。アートビリティの作品をどう見せたらさらに魅力的になるか?をメンバーで検討しました。そこで思いついたのが、デザイナーとのコラボレーションでした。

アートビリティの目的は、登録アーティストの作品がひとつでも多く仕事として使われ、活躍の場を作ること。そうして、作家と社会がつながり、作家自身の活動の励みになることだと思います。実際、アートビリティ事務局の方にお話を聞くと、「いまは福祉関係の仕事が多いのですが、もっといろんな企業やデザイナーの方にも使ってほしいんですよね」とのことでした。

ギャラリーでは、日頃たくさんのデザイナーの方々とおつきあいさせていただいていますが、今回は、若手で活躍している近年のJAGDA新人賞受賞者にお願いしようと考えました。理由は、この新しいコラボレーションを楽しんで面白い作品に仕上げてくれるだろうという思いと、学生、デザイナー、会社員など、作品を見てアートビリティをより身近に感じ、いつか使ってみようという方がいるかもしれないという思いからです。

JAGDA新人賞とは、社団法人日本グラフィックデザイナー協会が、毎年優秀な若手デザイナーに贈る賞で、新人デザイナーの登竜門といわれ、デザイン業界では非常に注目度の高い賞です。この受賞者の中から10人のデザイナーに声をかけました。依頼内容は、「アートビリティの登録作品を選び、ポスターとブックカバーをデザインしてください」。デザイナー全員快く引き受けてくださり、10組10通の楽しいコラボレーションが誕生しました。

コラボレーションをしたデザイナーの声

デザイナーの皆さんに、アートビリティの印象やコラボレーションの感想をいただきました。その一部をここにご紹介します。

「デザインができる事の可能性を感じました。この企画をきっかけに、一人でも多くのアートビリティ作品のファンが生まれる事を祈っています」(岡田善敬(おかだよしのり)さん)

「作品が素直で力強い。作家自身をぶつけられているような、そういう力強さと素直さを感じました。普段アートディレクターという立場にあって、商品を世の中に魅力的に見せていく仕事をしているので、祐谷敦志(ゆうやあつし)さんの作品を商品としてとらえ、より世の中に魅力的に、より愛くるしく見える方法を探りました」(小杉幸一(こすぎこういち)さん)

「ハンディキャップというのは特定の側面から見た基準なだけで、アートにおいては全く関係のない言葉。とてもワクワクして、とてつもないパワーをもらいました」(大黒大悟(だいこくだいご)さん)

「普段の仕事では、いろんな事情やしがらみの中で抜け道を探したりしながら、やっとモノを完成させていくことが多いのですが、今回のプロジェクトはまったく逆で、自由に表現できる。逆に難しかったです。久保田輝美(くぼたてるみ)さんの作品を見て、純粋なアートに触れ、なんか自分の感性を久しぶりに解き放たせてもらった気がしました」(榮良太(さかえりょうた)さん)

「萩尾和子(はぎおかずこ)さんの作品は一目惚れというか、あきらかに何か違う雰囲気があり、というか僕の勝手なイメージですが、「手書き」が前提と思っていたので、デジタル画面がでてきたときは驚きました」(高田唯(たかだゆい)さん)

来場者の声

また、会場では、アンケートに答えてくださった方に、コラボレーション作品のブックカバーをプレゼントしました。作品を持ち帰れる、使えると、とても好評で、420人の方のメッセージが集まりました。ほんの一部ですがご紹介します。

「本当に素晴らしい作品がたくさん!アートビリティは初めて知りました」「想像以上に素敵な取り組みで、感激しました」「デザイナーが関わる事により、新たな魅力が創出されることを実感しました」「この場所を離れたくなくなるくらい感動しました。またこの展示が見たいです」「私の娘も障害を持っております。皆様のご活躍が希望となり、私たちも夢を持っていけます」「サイコーです!障害なんて関係ないと心から感じました。学校で小さなことを悩んでいる自分や他人がおかしく思えてきます」「心から楽しく描いているのが伝わって来ました!元気をもらいました!デザイナーとのコラボレーションでアートビリティアーティストの可能性はまだまだ無限にあるんだなと思いました」「家族の作品がこのようになり大変嬉しいです」

展覧会を終えて

今回の展覧会を通して感じたことは、「デザインの力」です。デザイナーとのコラボレーションを通して、アートビリティ作家の新たな魅力と可能性を感じてもらえたのではないかと思います。デザイナーが作品の魅力を引き出し、見る側に新鮮な驚きや発見を与え、人々を笑顔にしていました。

デザインとはコミュニケーションだと改めて実感できた瞬間です。これからもアートビリティのすばらしい作品が、デザインの力でより多くの出会いを作り、作家の活躍の場が広がっていくことを願い、ギャラリーとして応援したいと思います。

(おだかまきこ 株式会社リクルートホールディングス クリエイションギャラリーG8)