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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年3月号

東日本大震災から2年、復興への新たな道

中村浩行

はじめに

私たち青松館(せいしょうかん)(就労継続支援B型事業所)は、岩手県沿岸南部の陸前高田市にあります。施設は海岸線に近い、小高い丘に立地し、7万本の松林がある名勝「高田松原」を一望できるところにありました。ところが、「東日本大震災」によってその景色も一変し、また多くの尊い命も失ってしまったのです。高台にある青松館でも、荒れ狂う大津波に襲われ、施設内外に甚大な被害を受けました。しかし、幸いにその場にいた利用者と職員は、みんなで助け合い一人も流されず、命をつなぐことができたのです。

私たちは、あの大震災で大切な家族や多くの仲間たちを失いました。その痛みを言葉で言い表すことはできませんが、全国のみなさんから本当に多くの支援と励ましをいただきました。そしてまた素晴らしい方々との新しい出会いもありました。今回は、その出会いから生まれた青松館の取り組みを紹介します。

復興への取り組み

被災直後は、みんなの命を守る、そして次には利用者・職員家族の安否確認や食料の確保、福祉避難所の立ち上げ、青松館のライフラインの復旧を含めた施設再開への準備作業といった、目の前に山積された問題に対応するだけで精一杯でした。

また、授産作業への影響も非常に大きなものでした。津波によって、町そのものが壊滅し、取引先の企業も店舗も何も無くなってしまったという現実です。当然、休止せざるを得ない作業もあり、新しい仕事の開拓が急務となりました。

その中で、震災前から東北唯一の椿油を搾っていた「石川製油所」が廃業するというニュースが流れました。代表の石川氏は、この震災によって、50年以上続いた工場と自宅、そして何より大切な家族を失い、失意の中、廃業を決断したのでした。この気仙地域で愛され続けてきた「椿油」がなくなることは、地域にとって宝物を失うことだと感じました。

陸前高田市と大船渡市の花は「椿」であり、椿油はこれから復興を目指す地域にとってもシンボル商品になると考えました。そこで、「椿油事業」を計画、石川氏に搾油技術の継承を提案し、地域復興と障がい者の夢のために協力を依頼したのです。

そして、その願いに石川氏も賛同してくださいました。しかし、工場建設や搾油設備の導入などの資金面、製品のパッケージやデザイン、そして販売先を含めたマーケティング、これらすべての分野で素人の私たちにとって、多くの課題がありました。そこで、新聞やテレビ等にPRをお願いし、また被災地支援に関わるあらゆる団体にも情報を発信して、協力を依頼しました。その中で、資金面では国からの補助金が受けられることになり、また設備やさまざまなソフト面でも各種団体からの支援が寄せられ、平成24年4月に工場をオープンし、「気仙椿油」が製造、販売開始となったのです。

現在の状況とこれからの展望

実は、椿油事業の準備段階から、椿油そのものを販売するだけでは、ある程度限界があるのではないかと感じていました。それは、椿油の使用が地域の中でも一部の年齢層に限られ、また食用油としては高価なイメージがあったからです。地域の伝統的な商品としてのイメージを踏襲しつつ、身近で気軽に購入できる商品ということをPRする必要がありました。そのために、椿油を原料とした加工製品の開発が課題としてはあったのですが、始まったばかりの「気仙椿油」を軌道に乗せようとするだけで精一杯の状況でした。

ところが、椿油を原料にした商品化は、予想以上に早い段階で現実となります。それは過疎化地域の産業支援と活性化に取り組む「re:terra」(一般社団法人)が中心となって、被災地である気仙地域の産業支援を行う「気仙椿ドリームプロジェクト」を立ち上げたからです。その活動の第一弾として「ハンドクリーム」が開発されました。企画開発を全国女性医師のボランティアサークル「En女医会」が担当し、製造を「ハリウッド化粧品」が行うという、本当に夢のような話でした。

次には、地元陸前高田にある製麺会社「バンザイファクトリー」が生パスタを新開発し、そのソースに椿油を使用することになったのです。岩手の食材を使用して、陸前高田から全国に発信できる商品を作りたいという高橋社長の熱意が素晴らしいパスタになりました。現在、いずれの商品も売れ行きは好調で、さらに新たな商品開発も視野に入れて、取り組んでいるところです。

「出会い」に感謝

「気仙椿ドリームプロジェクト」また「バンザイファクトリー」との出会いは、さまざまな「縁」と「夢」から繋(つな)がったものです。私たちにとって、このような素晴らしい出会いの一つ一つは宝物であり、これからも大切にしていきたいと思っています。

震災後、障がいをもつ私たちも地域の一員として、ほんの少しでも復興の一役を担える誇りを持てたことは、全国のみなさまから多くの温かいご支援があったからです。本当にありがとうございました。そしてまた、新しい出会いにも期待したいと思います。

(なかむらひろゆき 社会福祉法人大洋会就労継続支援B型事業所青松館館長)