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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年3月号

地域に寄りそう支援(南三陸町)
~被災地支援を日常支援に

太齋京子

私たちは、東北関東大震災被災障害者救援本部の支援を受けて立ち上がった被災地障がい者センターの現地採用スタッフとして、宮城県北部沿岸で活動を続けてきた。活動当初はまだまだ緊急時だったので、津波で生活が難しくなった地域への、水や介護用品などの救援物資提供が主な役割であった。その後、被災者の生活の回復とともに物資の配布が一段落し、私たちの活動も困っている人のニーズを拾う活動となった。南三陸町内の全仮設住宅58か所2195世帯へ、ポスティングや個別訪問、そして傾聴。たくさんの出会いがあり、悩みを聞いた。同じ被災者として涙した日もあった。特に、津波でJRが不通となり公共交通機関が回復していない地域であるため、通院や買い物など生活の足として延べ800人の方々を送迎することができたのは大きな喜びになっている。ただ、この地域は通院に片道3時間近くかかることもあり、1日を費やすこともしばしばであった。

こうして出会った方々と丁寧に関わり信頼関係を結べたことで、徐々に地域で必要とされていることが見えてきた。そして、自分たちにできることから始めようと一歩踏み出したのが、平成24年夏休みの障がい児の預かりである。私たちスタッフは皆被災者で仮設暮らしの窮屈さを実感しているため、とにかく子どもたちに心からホッとできる場を提供したいという一心であった。夏休みは6人の利用者から始めたこの預かり活動であるが、口コミで利用者は増え、2学期を経て、冬休みは12人の子どもたちと一緒に過ごすことができた。夏は支援でいただいたジャグジー風呂で水遊びをし、冬はしめ縄を作ったり書き初めをしたりした。預かる子どもは小学1年生から高校3年生まで幅広いので、大家族のような雰囲気。その中で自然に、年少者は年長者をお手本にしたり、年長者がけんかの仲裁に入ったり。昔は家でもこういう学びがあったのだろうと、スタッフも彼らからいろいろ教えられた。

こういった活動を通して保護者や支援学校の方々と話すうちに、何より、子どもたちの笑顔を見るにつけ、ここでの新しい地域資源の必要性を感じた。そして私たちの活動は、被災地への非常時の活動と期限を切るのではなく、もっと地域に根ざした息の長い活動として続けていく責任があることを実感するようになった。

そこで、今回NPO法人を取得し、ずっとこの地でやっていく決心に至ったのである。法人名は奏海(かなみ)の杜(もり)。多大な被害をもたらした海だが、海からの恵みも大きな南三陸町。海辺のこの町で共に生きたい、障がい者も高齢者も子どもも大人も、みなが笑顔で支え合い、優しいハーモニーを奏でるような地域づくりに寄与したいという思いを込めている。

現在は、前述の障がい児の預かりと、在宅障がい者の日中活動を支援して、彼らが再び社会参加を目指すお手伝いをしている。並行して、スタッフのスキルアップや事業化に必要な資格取得にも取り組んでいる。法人となって社会的にも認められたら、今行なっている活動を、放課後等デイサービスや居宅介護などの制度に乗せたり町の事業を受託したりと、体制的にも安定した継続を図りたい。

ただ、軌道に乗せるためには、整えなくてはならないことが大きく二つある。一つはスタッフである。今の体制は、誰か一人でも倒れたらいきなり根幹から揺るぐ事態になりかねず、至極脆弱な基盤である。志を同じくでき、障がい児を温かい目で見られる仲間をもっと集めたい。そして障がいについての知識と経験を増やし、利用者と共に考え、ここで必要な福祉を具現化していくつもりである。この意識がひいては、南三陸町全体の障がい者福祉向上につながると信じている。

二つめは活動拠点である。今の事務所と利用者たちの住む南三陸町は地理的に離れているため、放課後という限られた時間の活動ということもあり、実際の活動は南三陸町の施設を間借りしている。時間的、空間的制約も大きく、すべての人の需要に応え切れていないのが現状である。残念だが、建物を借りるにも津波で建物の7割近くが流された南三陸町。残った建物は戻ってくる人の住居として使ってほしいという思いもあり、なかなか意向に沿った物件に出合えなかった。しかし昨年秋、地域の方が、私たちの活動を理解し応援してくれ、ご自身の土地を提供してくださった。津波で平地の大部分がやられてしまった南三陸町にあって、今、土地は一番希少なものである。さらに、その土地の周りの方々の温かい目、差し伸べられた手。私たちに与えられた使命をしっかり胸に抱き、必ずそこに活動拠点を作るつもりである。

今後も私たちは、被災地障がい者センター南三陸として、これまで行なってきたことを継承・発展させた活動を続けていく。そして障がい者はもちろん、そこに住む人みんなが生きがいや誇りをもって暮らしていける地域、南三陸町の実現に貢献していきたいと考えている。

(だざいきょうこ NPO法人 奏海の杜(被災地障がい者センター南三陸)事務局長)