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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年3月号

発達障がいのある子どもたちを、ネットワークで支援する

青木彰

はじめに

NPO法人みんなの教室は、発達障がいのある子ども(6歳~18歳)を支援するのがミッションです。「みんなの教室・石巻」は2012年4月に、東日本大震災の被害を受けた石巻圏(石巻市・東松島市・女川町)の子どもたちを支援するために設置しました。活動内容は次のとおりです。

(1)個人別指導事業(多様な発達障がいの状況に合わせて個別に検査・指導を行います)

(2)教育相談事業(月に1回の行事を中心に、保護者の希望に添った活動・相談に応じます)

ターゲット層は小・中・高校の子どもたちですが、これまで幼児・青年から高齢者までの多様な相談がありました。相談内容は、いじめ・不登校・学力不振・引きこもり・うつなどの精神的問題や家庭内の問題などです。これまで他のNPOや自治体(県)の協力を得て活動を広げてきましたが、石巻地域の特性や活動内容の深化という面での限界も感じています。月ごとの行事に参加する児童・生徒の中には仮設住宅から来ている場合もあり、より計画的・合理的な運営が求められている状況です。

事業のニーズと問題点

石巻圏の児童生徒は約26,000人ですが、発達障がいのある子どもたちは1,690人ほどと思われます(文科省の予想による6.5%にあてはめて)。みんなの教室で個別指導を受けているのは7人、行事参加者は年間で延べ500人ほど、電話相談者は45組です。指導できている子どもたちは極めて限られていて、それ以外の子どもたちは各学校の支援学級または普通学級での学習となっています。ところが、各学校で発達障がいのある子どもに対応すべき通級学級、小学校の「ことばの教室」は津波のため水没したり、財政困難で設置できなかったりして皆無の状態といえます。通常の学級で困難を抱えた児童・生徒はまだまだ多く、高いニーズがあると予想できます。

問題点は子どもたちの周辺にあります。普通学級での対応の限界、保護者の発達障がいの理解不足、地域社会の差別意識などが子どもたちに合わせた指導を困難にしており、さらに、震災の被害により余裕のない社会情勢で精神的な問題も日々悪化しているようです。そこで、この状況打開のための提案が「フィールドワーク(実地調査)」です。

フィールドワークの目標

震災後2年が経とうとしている現在でも、石巻圏の子どもたちの状況はあまり変わっていません。潜在的なニーズがあると予想できますが、対応は学校や地域に任されたままです。そこで、特に発達障がいのある子どもたちのために、次の目標を設定します。

目標1:個別指導の合理化と充実

目標2:行事・イベントの拡大と豊かさ

目標3:誰にとっても利用しやすい情報提供

フィールドワークの手段と作業範囲

今回のフィールドワークでは、現場での実践者を中心に、石巻圏のネットワークを機能させるための協働として実地調査をして報告書にまとめます。スタッフは4人とし、次のような体制でインタビューなどの活動に入る予定です。

スタッフ案1:教育分野(実際に指導に当たる教師など)

スタッフ案2:福祉分野(ソーシャルワーカーなど資格保有者)

スタッフ案3:医療分野(診断に当たる小児科医師など)

スタッフ案4:歴史分野(地域の歴史・文化に詳しい歴史学者など)

2013年 4月 メンバーの決定・スケジュール調整・作業内容決定
予算案(被災地復興資金、寄付金などを予定)・活動案決定
5月 インタビュー先決定(自治体・企業・学校・福祉施設・任意団体・医療施設・NPO法人・地域社会代表者・国際団体NGOなど)
6月 具体的活動
7月  
8月 まとめの討議
9月 報告書のまとめ
10月 報告書の配布

作業範囲は石巻圏とし、上の表のような過程で環境を理解し文化学として提言をまとめることにしています。

次のステップ

フィールドワークを活動をとおして社会の変化に対応した、子どもたちの生活を改善できる行動を次のステップ1から3に提案できると考えています。

ステップ1:2013年4月に予定されている自閉症スペクトラム障害に対応できる指導方法・内容を具体化していく。学習の現場では当然と考えられているが、アスペルガー障害や高機能自閉症はほぼ自閉症と同じであり発達障がいもこれに含まれる。つまり、LD(学習障がい)やADHD(注意欠陥多動性障がい)などについても指導方法は同じようになる。

ステップ2:発達障がいと疑われる子どもたちを含めた、困難を抱えた児童・生徒を理解し、できることや活動の範囲を拡大する。そのための教育相談・社会資源の活用をノーマライゼーションの見地から提案する。

ステップ3:これまでの習慣だけでなく、新しい習慣を加えることで地域全体が暮らしやすいものにできることを提案する。自治体の努力だけでなくボランティアや任意団体、退職教員の会、地域のコミュニティーセンターなどを活性化する。

通級指導の合理性・効果は鳥取県で証明されました。鳥取県の発達障がいのある児童・生徒は、診断名があるケースで100%が個別指導を受けており、孤立化・差別化されている発達障がいのある子どもたちに救いの手となっています。これは人口が希薄な地域状況と訪問による指導を取り入れているためです。できるならば、石巻圏の子どもたちのためにネットワークの輪が広がることを願っています。

(あおきあきら NPO法人みんなの教室理事長)