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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

使用体験

ロボットスーツHAL®福祉用

吉本隆彦・清水一生

ロボットスーツHAL®福祉用とは

HAL(Hybrid Assistive Limb)とは、身体に装着し、筋肉を動かそうとする脳からの生体電位信号を皮膚表面から検出し、コンピュータ制御により各部モーターを駆動させてヒトの動きをアシストするサイボーグ型ロボットである。人間の意思に合わせて身体運動機能を補助・拡張・改善し、能動的な歩行を促進させる特徴を有している。

当院へのHAL®福祉用の導入

亀田メディカルセンターは、急性期、回復期、生活期、老人保健施設などの施設で構成されており、HALは主に回復期である亀田リハビリテーション病院(以下、当院)で身体動作を支援するツールとして使用している。

当院では、2012年5月よりHALの運用を開始した。現在、片足ずつ使用できる単脚型を、左右1台ずつで運用している。対象は主に脳卒中の患者様とし、脳卒中後の不全麻痺によって生じた歩行障害の改善に向けて活用を進めている。具体的には、対象患者様の筋力量や収縮に合わせてHALによるアシスト量を調整し、円滑な足の運動を可能とすることで、より自然な歩行形態で練習が可能となるようにしている。

利用者の障害

2012年8月に脳梗塞を発症、左片麻痺を生じ入院。半年間のリハビリテーションを受けられ、足の筋力は5段階評価で2から3段階目くらいまで回復した。歩行は、4点杖と短下肢装具を使用し可能となったが、10メートルの歩行に1分ほどを要する状態であった。退院後は、車椅子での生活を主とし、屋内では短い距離は杖で歩行していた。HALは発症後約6か月が経過し、自宅へ退院した後から使用を開始した。

体験内容

HALを使用した練習は、退院後週に1回の頻度で開始し、1回当たり約20分の練習時間とした。麻痺側下肢にHAL単脚を装着し、楽な歩行が可能となるように、アシスト量を調整して実施した。また、免荷機能付歩行器を使用して、安全を確保し、かつ荷重負荷やバランスをコントロールしながら行なった。

実際の練習では、はじめの数回はHALの装着や使用方法の確認を行い、機器のフィッティングやアシストされる感覚の学習に重点を置く。その後、徐々に歩行速度や練習量を増やしていった。歩行速度は、患者様の過剰な努力による運動とならないよう、HALによるアシスト量や免荷機能付歩行器による補助を調整し、足の運動が適応できる速度とした。

使用した感想(装着者の声)

  • HALを装着して歩行した場合、通常の歩行に比べ転倒(私の場合は左前方への転倒)の恐怖心が全くなくなった。
  • HALを装着すると、歩行中に非麻痺側下肢と同じような感覚で麻痺側下肢を動かせ、健常者のように自然な歩行ができた。
  • 歩行速度はそれまで10メートルを1分かかっていたのがトレーニング2回目で36秒、4回目で26秒と明らかに効果があり、これには私も驚いた。
  • HAL装着下での歩行練習中は、健常者の通常歩行のように交互にステップして足が出るが、HALを取り外し4点杖で歩くと、まだ不安定になる恐怖心からどうしても非麻痺側の足は麻痺側より前に十分には出せず、HAL練習中の動作が汎化されにくい。しかし、練習の回数を重ねるにつれて、振り出しの改善や歩幅の拡大が見られてきており、今後の歩容の変化に期待している。

期待される効果

HALをはじめとするロボットをリハビリに用いる利点は、再現性の高い反復動作が可能となることである。

近年、リハビリテーションの効果の一つとして、反復練習によって神経系の改善が促進すると言われている。その一つに、脊髄や脳にある歩行中枢がHALによる反復動作練習によって促進の作用をもたらす可能性がある。

患者様の過剰な努力や集中を要することなく、本人の筋収縮のタイミングに合わせて効率的な反復動作練習を提供することで、歩行速度、歩き方の改善を生み出していけることが期待され、また、実際の効果としても実感していただけていると感じている。

生活支援ロボットに対する今後への期待

現在、多くの施設でHALが導入されており、HALを使用した症例報告が多く見受けられるようになってきている。今後、さらなるHALの普及にあたり、基礎および臨床データの蓄積が急務であり、どのような場面で、どのように使用することが効果的であるかを示していく必要がある。また、機器およびアシスト設定の簡素化・マニュアル化により、臨床現場に広く利用されることが期待される。

HALを使用して練習している中で、患者様からも麻痺側の脚の力(支持力、蹴り出し力など)をパソコンから数値化してほしいなどの要望がある。ヒトの手で生み出すことができずロボットでしかできない、ヒトの能力の限界を超えたパフォーマンスの提供は、ロボットリハビリテーションという新たなリハビリテーションの創造につながるものと考える。

(よしもとたかひこ(PT・PhD)・しみずいっせい(PT) 医療法人鉄蕉会 亀田リハビリテーション病院)