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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

使用体験

iArm(アイ・アーム)の使用体験をして

高見和幸

私の障害

昭和43年、19歳で上京し、2年過ぎたあたりから歩行の際に違和感を覚えるようになって大学病院で診察を受けたが、病名の確定診断は出してもらえなかった。ただ、障害者手帳を取得した時に、障害名を「シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)」による四肢体幹機能障害と記されていたので、それを信じていた。その後、現在の主治医から、遺伝性ニューロパチー(CMT含む)と診断された。

その後も病気の進行は続き、17年間の会社勤務を終えて車いす生活になった。将来を考えると不安で自信を失いかけたのもこの頃だった。

体験内容

アイ・アームを知るきっかけは、約20年前から在宅での福祉用具や車いすシーティングでアドバイスを受けている、自宅近くの首都大学荒川キャンパスの准教授からの紹介だった。

アイ・アームを操作実験するにあたって、パソコンにデータをインストールしてシミュレーションを行なった。画面にはペグをはめ込むボードがあって、そのボードには縦5個、横5個のペグをはめ込む穴がセットされていて、操作はリモコンで行い、インターフェイスにアームの関節を曲げる手順ボタンが並び、その操作手順を覚えるのにひと苦労した。

平成8年3月頃、床上に置いたアイ・アームでテーブル上のペグを思い通りに動かせるか試みた。同年5月から、床上に置いたアイ・アームでティッシュの取り出しや落ちたペンを拾うなど、簡易的な板を膝上に置いてリモコンの操作を試みた。ファックスやインターホンの受話器も取ることを試みたが、なかなか上手くつかむことができなかった。

その後インターバルがあって、平成9年7月から実践に入り、日常生活に即して使用できるよう、アイ・アームを車いすに取り付けることになった。以前に覚えた操作手順はすっかり忘れてしまって、再度覚え直すのに躍起だった。

最初は、サイコロ型のペグを数個置いて距離感を確かめ、慣れるにつれてペットボトルや湯呑み茶碗に入れたお茶を飲んだり、おしぼりで顔を拭く挑戦もした。また、落下物を拾おうとしたが、薄い紙などは拾えず、別の方法で使えることもわかった。また、パソコンの電源入れや資料の印刷用紙を取りだすことにも挑んでみたが、微妙な感覚が必要になるので最善の方法を探り、使用法へ向けて考える必要があると感じた。

平成11年11月、前回までは室内のみの練習だったが、外出にも使ってみたいと思うようになった。リモコンを改良してもらい、蕎麦屋や喫茶店、いろいろな会議などへ行ってみたり、都電荒川線や地下鉄、JRにも乗って周りの反応を見たりもした。大店舗では問題はないが、小さなお店に入るのは少し無理があるようにも思えた。しかし、迷惑顔をしないで快く入店できるお店があることも付け加えておきたい。

12月の年末には、わが家で仲間大勢で大みそかを過ごすことができ、みんなで乾杯をして、思いっきりマイペースで飲めたことがすごくうれしかった。そして、刺身や唐揚げを爪楊枝で刺して食べることもできた。

平成12年の正月には弁当を食べるのに、アームの先端部分に割箸をテープで巻きつけて挑戦してみたが、すべての物を口へ運ぶことはできなかった。2月には、資料を読むためのページめくり棒を口へ持ってきたり、痒い箇所を自分でかいたりできる喜びを実感できた。

使用した感想

最初、テクノツール社から実物のアイ・アームを見せてもらった時、すごく厳(いか)ついマシーンだったことを覚えている。このマシーンで本当に身の回りのことができるのかと不安を覚えたのも事実である。しかし、使い慣れていくうちに、最初に思い描いていたことのほかにも有効な使い道がイメージできるようになり、使うことへの楽しみが増えてきた。

前述したように、自分でできることの喜びは何にも代えられない感動があった。この1台のマシーンでヘルパーの代わりをすべて補うことはできないが、自分でできることの補佐は使い方や慣れ次第で大方の期待ができるような気がしている。とは言え、一方では、日本家屋の現状をみると、圧倒的に空間の狭さがユーザーの悩みではないだろうか。

生活支援ロボットの開発に期待すること

福祉の分野にロボット産業が介入し、技術では世界に誇れるほどのスキルがあるのは間違いないところだが、あまりにも製造者側の思いばかりでユーザーの声が届いていないケースがほとんどである。製造者側、宣伝・販売社側に問題が多いように思えてならない。

すでに、アイ・アームは2008年にテクノツール社がオランダから輸入して、現在まで1台しか世に出ていないと聞いている。そこには、何が問題になっているのかを検証する機関すらないのが現状だと思うので、ロボット開発者や販売事業社側、ユーザーなどの意見や要望を集約する基幹センターを設置する必要性は大である。そう考えると、生活支援ロボットを使いたいという人たちに限りが出てくるかもしれないので、さらなる研究と進化を期待している。

(たかみかずゆき 東京進行性筋萎縮症協会)