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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

1000字提言

心のスイッチは、いつも3・11

鈴木るり子

講演のため、鹿児島空港に着いた。迎えの車に乗り、街路樹の中に1本咲いている百合の花を見た。「鹿児島の季節は岩手より2か月早いんだ」そう思った途端、私の脳裏に津波ですべてを失ったわが家の庭が現れた。家の守り神だった伽羅の大木の傍らで咲く百合の花は、毎年入盆に、わが家の8人の仏様をお迎えする役割を担っていた。美しい百合の花の周りには、アゲハチョウが飛び交い、まるで仏様の話し相手をしているようで、私は好きだった。私は、2、3回瞬(まばた)きをして、「ここは鹿児島、今は6月、津波から1年3か月過ぎている」呪文のようにつぶやきながら、外の景色に目をやった。これが「心のスイッチは、いつも3・11」である。

突然襲い掛かる喪失感に初めは戸惑った。何気ない会話の中で、食事中に、書店等で全く予測なく現れる。しかし、東日本大震災から2年過ぎても進まない復興の遅れが、この「心のスイッチは、いつも3・11」を活発に動かしているように感じている。復興の遅れは「心」や「身体」の復興も遅らせている。

2011年度から厚生労働科学研究補助金による「東日本大震災被災者の健康状態に関する調査」(H23―特別―指定―002)、2012年度は「岩手県における東日本大震災の支援を目的とした大規模コホート研究」(岩手医科大学医学部倫理委員会の承認(H23―69)を得た)を岩手県で最も被害の大きい大槌町、陸前高田市、山田町の3市町の全住民を対象にアンケートと健康診断を実施している。その中で、大槌町民におけるソーシャルキャピタル(以下SC)に関する分析をした。大槌町の18歳以上の住民を対象に同意の得られた2,085人のSCについて、質問紙による調査を実施した。SCは人々のつながりとして注目を集めている。先行研究では、「SC」が高い地域では、健康状態やQOLが良いことが報告されている。

本研究では、PutnamのSCの定義に基づき、「ネットワーク(以下SN)」「信頼」「互酬性」の3要素について、「SN」と「周囲への信頼性・互酬性」の2側面に分けて検討した。その結果、「SN」は避難所を含む転居回数との間には関連がみられなかった。一方「周囲への信頼性・互酬性」は避難所を含む転居回数が多いほど減少することが明らかになった。

大槌町では多くの住民が転居している。今回の結果から、今後の被災者住宅地に形成される新たな地域づくりは「SC」を高める支援策が必要と考えられた。「SC」が高まった時「心のスイッチは、いつも3・11」が消える時なのだと思っている。

(すずきるりこ 元大槌町保健師、現岩手看護短期大学教授)