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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

証言3.11その時から私は

3・11大震災から2年、車いす障がい者が見た震災

駒場恒雄

あの日を忘れない

突然激しく長い揺れ、車いすは前後に走り振り落とされそうで、家が潰(つぶ)れ死ぬのではと恐ろしい思いをした。戸棚から食器や家財が車いすの周りに散乱。火災の発生を心配し、独(ひと)り家族の帰りを待った。その後も強い余震に脅(おび)え、家族と共に暖房の無い寒い部屋で震え、ろうそくの灯りで4日間を過ごした。

近くのスーパーではパンやカップ麺、缶詰、飲み物など食料品の買い占めに走る人が売り場に殺到。商品はすべて売り尽くし、入荷も途絶えた。わが家では給湯器が破損。お風呂が使えなくなった。訪問入浴の入浴車利用を申し込み、1か月後に久々に入浴できた。まだ暖房が必要で寒さ対策が重要だった。電動車いすの充電や電動ベッドも動かず、介護する家族の負担も我慢の限界だった。電気が無ければ何もできない生活を反省させられた。

災害時要援護者支援制度の限界

私は下肢障害のため自力移動は難しく、逃げたくても逃げられない。災害弱者対策の必要性を訴え「災害時要援護者支援制度」が3年前にできたが、個人情報保護法と支援者2人を登録確保する難しさ、遠慮や諦(あきら)めから登録も少なく、制度の周知も進まない中で大震災が襲った。

自然エネルギーは防潮堤や堤防よりも強く、ハザードマップの想定をはるかに超え、多くの人命と財産を奪った。群馬大学片田敏孝教授は「想定にとらわれない」「最善を尽くせ」「率先して避難せよ」の避難3原則を釜石市の児童に指導。その防災教育の効果は「釜石の奇跡」と注目を浴びている。

津波で犠牲になった体が不自由な人は、住民全体の死亡率に比べ2倍以上高かった。さらに避難活動中に消防団員や民生委員、介護福祉関係施設の職員も多数犠牲になった。車いすの知人は両親と共に亡くなった。息子を置いて避難できず、運命を共にしたのだろうと悔やみきれない。高齢者と重度な在宅障がい者など、要援護者の増加に対応した避難支援のあり方が大きな課題となった。私は避難補助用具として背負い紐など備えているが、介助者を道連れにする危険性と責任に複雑な思いが残った。

ガソリンは暮らしの血液だった

停電はガソリンの供給も止め、給油所のポンプが動かない。毎日、宮城県の石油基地から運ばれていた流通も震災で止まった。緊急車両以外の給油を断る店や殺到するお客様に手動ポンプで汲みあげ、1人10リットルの制限で対応していたがすぐに品切れた。家族は薄暗い朝4時から10リットルを求めて長い列に並んで購入した。10日ほどして北海道や日本海経由で届けられ、街はようやく生き返った。

広域災害と在宅重度障がい者対策

津波は行政、医療や福祉介護の機関と施設も襲い機能を失った。内陸部の自治体や医療介護施設は、直ちに後方支援活動として大切な役割りを果たした。内陸部の患者たちも避難してきた人工透析の仲間に、透析のスケジュールを譲り合い助け合っていた。この体験は「岩手県災害時透析医療支援マニュアル」が作られるに至った。

在宅で人工呼吸器を使用していた沿岸部の患者は、緊急避難した病院の判断で内陸部の病院に自衛隊ヘリで搬送された。停電の不安で病院に駆け込んだが、津波被災地患者受け入れのため断られた人もあった。停電に備え、自家発電装置は重要な機器だった。重度・重症患者に対する災害時医療支援システムや対策が無ければ在宅療養が難しいことを痛感させられた。

被災地は人口の減少や医師確保の難しさを理由に、被災した3か所の県立病院の再建が遅れ、入院ベッドの確保も厳しい情勢である。遠隔地の病院に通院する経済的負担の増加や健康不安から、自立や闘病意欲を失うなど苦しい生活を強いられている。

命あることを喜ぼう

陸前高田市の避難所に「ガンバロー高田/命あることを喜ぼう」と、壊滅的な現状に生きる意欲を失った、大人たちの姿に心を痛めた中学生が、避難民を励ますために掲げたメッセージに心を打たれた。

発災後電話が使えず、患者会仲間の安否確認は難航した。安否問い合わせメールをラジオ局に送り情報を集め、停電が復旧した4日目以降はインターネットも利用し確認を続けた。施設から背負われて避難し命拾いをした女性は、避難先は車いす用トイレも無いため親戚の家を頼り移動。避難所の名簿に無いことから20日後に無事を確認。3か月後、専門医の協力を得て在宅患者の健康調査など家庭訪問を行なった。仮設住宅は車いす障がい者には厳しい環境と構造で、住宅を失った仲間は、一日も早く安らぐことのできるバリアフリー住宅を切望している。

災害からの教訓

1.命を守る。災害弱者に対応できる避難対策の整備と個人情報保護法の見直し。

2.通信手段の確保。停電でも利用できる通信設備と災害に強い携帯電話中継塔の設置。

3.避難所設備の整備充実。車いす用トイレ、自家発電装置、個室、炊事場の設置義務化。

4.ガソリンの備蓄。通院など医療の必要な人や介護福祉関係者への優先給油制度。

5.人工呼吸器使用者や人工透析など、重度重症な在宅患者の災害時医療支援対策の整備。

6.医療機関の被災対策。お薬手帳の非常持出と常用薬品は常に1週間程度の備えの啓蒙。

7.福島原発事故で土地も食料も放射能汚染で 将来が不安。原発はいらない。

(こまばつねお 岩手県難病連会員、筋ジス患者)