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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

ワールドナウ

ゼロプロジェクト会議2013
―障壁のない世界を目指して―

引馬知子

会議の概要

障害分野の障壁削減のために先駆的な政策や実践を交換し合う、ゼロプロジェクト会議2013が、「障害と雇用・就労」をテーマに、2013年2月17、18日の両日、オーストリアのウィーンで開催された。ゼロプロジェクトは、エッセル財団が実施し、これにワールド・フューチャー・カウンシルが協力している。今会議は、両団体とオーストリア銀行の共催であった。

会議には、5大陸に及ぶ36か国から、第一線で活躍する約250人が参加した。その内訳は、政府関係者、議員、NGO・施設・財団・国際組織(ILO、国連やEU等)の代表、研究者など多様であった。地域別では、欧州の参加者が多数を占めた。アフリカから1人、アジア(西アジアを除く)からは8人の参加者がいた。

会議は、全体会と12のワークショップからなり、報告者は80人を超えた。全体会では、「世界各地の障害者の雇用・就労状況と課題」、および「国連の障害者権利条約を視野に入れたインクルーシブな労働の促進のあり方」等を内容とする報告がなされた。また、ワークショップでは「効果的な雇用サービスとスキル」、「障害のある学生の支援」、「援助付き雇用」、「企業の社会的責任と雇用」等、多岐にわたる先駆的な政策と実践例が報告された。

総括すると、障害者の社会参加を阻む障壁を削減する、多様で良質なアプローチが模索され、これが当事者のみならず社会全体の益となる点が示されていた。

会議と報告書

今会議の基本資料として、「ゼロプロジェクト報告書 2013」が提供された(2012年刊)。ここには、ゼロプロジェクト指標を用いた、1.障害者権利条約の履行に関わる55か国調査、2.障害者雇用・就労に関わる82か国調査、3.障害者雇用を促進する40の先駆的実践と11の政策等がまとめられている。

この報告書はゼロプロジェクトの3事業の1つをなしている。ゼロプロジェクトは2011年、障害者の日々の生活や法的権利を向上する政策や実践を共有し、発展させる目的のもとに発足した。この目的達成のため、1.12月3日の国際障害者の日に毎年刊行する報告書(前記報告書)、2.情報提供のウェブサイト(左記のアドレス)、3.会議(今回の会議に相当)の事業を行い、情報共有と意見交換の場を提供している。また、これらを可能とするため、IDA、DPI、ILO、国連、大学や財団等の諸組織の関係者が「ゼロプロジェクトネットワーク」を形成している(ゼロプロジェクト、会議プログラムや報告書については、http://www.zeroproject.org/参照)。

Zero Project
Conference 2013

ゼロプロジェクト宣言
障害のある人々のためのディ一セン卜ワ一ク1

働く権利は人間の基本的人権であることを認識し、国連の障害者権利及ぴ、その他の国際的な法的文集が示す国の責務を認識し、「ディ一セントワ一ク」は、人間の尊厳、家族の安定、地域の平穏、人々のための、及ぴ、生産的な仕事と事業の発展の機会の拡大を通じて経済成長をもたらす民主主義の根源であることを認識する。

これらは同様に、国連の経済的、社会的及ぴ文化的権利に関する委員会による労働の権利2に対する一般的意見第18号(2005年)3においても明言されている。

国際的な試算によると、世界の人口において障害のある人々は約15%を占めており、そのうち7億8500万人から9億7500万の人々が労働年齢期にあることを十分に意識する。

障害のある人々の労働市場への参加率は多くの国々で低く、この状況は世界全体のGDPに年間約3-7%の損失を引き起こしている概算を十分に意識する。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の、最近の労働及び雇用に関するテーマ別研究が示す勧告4を心に留める。

我々、ゼロプロジェクトネットワークのメンバーたちは、国及ぴその他ステークホルダー(使用者、労働組合、議員、学者、施設や財団等)による、障害のある人々の雇用の促進、すなわち、特にゼロプロジェクト会議2013年の下記の結論を奨励する責任を負う。

  • 保護雇用就労制度よりも、一般労働市場における障害のある人々のための平等なアクセスを促進する。
  • アクセシブルで、かつ障害のある被雇用者を歓迎する、労働環境づくりを積極的に模索する。
  • 労働及び雇用分野における障害に基づく差別を禁止し、合理的配慮の提供を確保する。
  • 障害のある人々の雇用を増進するための積極的差別是正措置き(ポジティブアクション)を確保する。これには、自営業を促進する制度が含まれる。
  • 非差別かつアクセシブルで、全ての種別の障害のある人々を包摂する、職業訓練への平等な利用を確保する。
  • 雇用就労に関わるデ一タを収集する際は、障害の種別と仕事の種類における指標を含むようにする。
  • 全ての政策やプログラムの策定、実施、評価、モニタリングにおいて、障害のある人々を代表する諸組織が加わるようにする。

(訳 引馬知子)

訳者註:

1 ディ一セントワ一クとは、「人間らしい働きがいのある仕事」のこと

2 国連の「社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)」第6条の労働の権利

3 Economic and Social Council,General Comment No.18:, 2006/02/06 E/C.12/GC/18. (Committee on Economic, Social and Cultural Rights, Thirty-fifth session Geneva, 7-25 November 2005, THE RlGHT T0 WORK, General Comment No.18,Adapted on 24 November 2005,Article 6 of the lnternational Covenant on Economic, Social and Cultural Rights)参照

4 Thematic study on the Work and employment of persons with disabilities. Report of the office of the United Nations High commissioner for Human Rights (A/HRC/22/25)参照

ディーセントワークの実現に向けて

今会議の最後には、障害者のディーセントワークの実現を目指す「ゼロプロジェクト宣言」が採択された(51頁全訳参照)。宣言文の審議では、障害者雇用を促進する税控除に触れるべきである、あるいは、アクセシビリティや技術の重要性を入れてはどうか等の、多くの修正提案があげられた。文言の詳細はさておいて、宣言の方向性について全参加者の納得が得られたため、宣言は最終的に参加者の合意で、挙手により原案どおり採択となった。

その過程は世界の関係者が、1.障害者の置かれた状況や社会の課題、2.障害者権利条約等の国際文書の示す理念と内容の共有、3.理念と内容を具現化する継続的な意志、を確認する貴重な機会であった。

ゼロプロジェクトと日本

今会議で日本に関わる報告はなかったものの、先に触れた報告書は、日本の障害者権利条約の履行状況を記述している(日本は現在未批准)。報告書によると、日本は「労働及び雇用(27条)」に関わり、均等法(差別禁止法)の有無、就業率、自営の促進、報酬等が不十分と指摘されている。また、「アクセシビリティ(9条)」、「法律の前における平等な承認(13条)」等においても、同様の結果である。

今会議は、どの国にも障害者の社会参加を拒む障壁があり、多様な試みがその削減を目指して行われていることを明らかにしていた。現状を踏まえ、これら世界の各地域や国々の課題の捉え方や実践から学ぶことは、日本らしい改善を今後も進めていく上で、大いに役立つであろう。

次回のゼロプロジェクト会議は、「障壁のないアクセス(アクセシビリティ)」をテーマに、2014年2月に同地で開催予定である。

(ひくまともこ 田園調布学園大学教授)