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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

列島縦断ネットワーキング【宮崎】

「働きたい」の気持ちに応えた職場づくり
~障がい種別を越えた多様な働き方

楠元洋子

就労支援に取り組み始めた経緯

キャンバスの会が最初に障がい者を一般雇用したのが平成17年、NPО法人を立ち上げて1年半後のことです。宮崎県地域ビジネス創造助成金を受けて開設した紙オムツを取り扱う店舗での雇用でした。養護学校を卒業したばかりのまだ幼さの残る女性2人を雇用しました。その後、小規模作業所(現就労移行支援事業所)、街なかに障がい者と高齢者雇用の店、5か所の就労継続支援A型・B型事業所を開設してきました。

障がいのある方が地域で楽しく生き生きと過ごしてほしい、そのためには、障がいのある方の働く場所が絶対必要だと思いました。自分の給料プラス障害年金で十分にやっていけるはず…。障がいのある方が自立に向かうようにと、グループホームも3か所(現在18人が利用中)開設しました。毎日仕事があること、社会に役立てる場所があり、給与というかたちでこれが認められることは誰でもうれしいものです。

私は、「地域に溶け込む」ことを常に考えています。自ら胸を開いて地元に溶け込んでいくことが一番のコミュニケーションであり、一市民として福祉の立場から提案をさせていただき、街づくりの委員として協力しています。

キャンバスの会は都城市の住宅密集地にあります。多くの人に障害のある方の存在を知り、理解してほしいからです。働く姿を見ていただき、地域で共に暮らすことで理解が深まるはずだと思うからです。その思いで全事業が地域の自治会に加入、公民会費を払い、各地区の公民館活動に積極的に参加しています。生涯で、わずかな時間、期間でもよいので、働くことで社会との接点を見い出す楽しさや生きがいを持ってもらうことを目指しています。障がい者が自立するには地域で働き、地域で認められることが大切なのです。

同時にそのことは、経営面からみても地元にとって誇れるもの、不足しているものが何なのかが分かり事業拡充の近道にもなり得ると考えています。

キャンバスの会の就労支援の考え方

キャンバスの会は、都城市を拠点に給食センター、リネン工場、紙おむつ配送など13事業で170人の障がいのある方を雇用しています。そのうち給食事業とリネン事業では、90人が就労継続支援A型雇用で働いています。

A型事業所であるからには「稼ぐ事業所」でなくてはなりません。事業所側も最低賃金以上の給料を支払い、雇用保険はもちろんのこと、社会保険に加入している方も数名います。

A型雇用を行う上では、福祉という概念を変えないと生き残っていくことは難しいと考えています。民間企業と同じ市場で競合することが求められるからです。サービスの質や価格、商品力を向上させ、いかにお客様に満足していただくか、同時に発想や営業力、提案力、そして何よりも企業との連携が必要になります。現在も事業を行なっていく中で、メーカーや卸業者、消費者との連携や関わりが深く広がっていることを実感しています。

給食事業は設立から3年連続で売り上げが伸長しており、1日1300個を配達しています。その一つ一つに汁物を無料で提供しています。高齢者の皆さんの嚥下障害などを少しでも防げるのではないかという思いからです。これは、重度の身体障がいの娘からヒントを得ました。事業展開していくなかで、私の娘が利用したらどうなるかということをいつも考えています。

現在はマーケットの裾野も広がり、多くの在宅の食事療養者や高齢者施設からも注文をいただくようになりました。きざみ食や糖尿食、一口カット食などニーズに応じた弁当をお届けしています。私が常に考えるのは、「売りたいものを売るのではなくお客様が買いたい、ほしいと思うものを売る」ということです。そこに、福祉で培ったきめ細やかな気づきやサービスを加えています。

もう一つ、私が心掛けていることは「スピード」です。職員にも2秒で返事をするようにと言っています。昨日言ったことと今日言ったことが違うのは当たり前。利用者さんのため、お客さんのため、社会のためになると確信したら、最短コースを見つけてすぐにプレゼンに行くようにしています。

「支援」の観点からみると、障がいのある方への尊重、働く権利の保障、継続的に働くことのできる支援体制ができるかどうかだと思います。キャンバスの会では「できないことを克服するよりも、できることを伸ばす」支援を行なっています。これこそが福祉におけるノーマライゼーションではないかと考えています。

アイデアの連鎖

健常者でも障がい者でも一つの仕事を長くしていれば飽きるものです。私は、施設の運営者は仕事を見つけることも仕事だと思っています。障がいのある方が仕事を選べるよう工夫してあげることが大切です。選べるとは気持ちに自由があるということ、自由があるからこそ自分の可能性と向き合うことができ、仕事が面白くなります。

リネン事業で、作業着のファスナー補整に工業用ミシンを設置しましたが、毎日補整作業があるわけではありません。そのミシンを有効活用できないだろうか…。そこで、生産活動で織ったさをり布でポーチを作りました。地元銀行のイベント用品や贈答品として2万個以上を購入していただきました。

現在、ミシンはレストラン用エプロンの製作でフル活用しています。何に対しても何かに利用できないだろうか、どんどんアイデアを連鎖させ、利用者さんもお客様にも喜んでいただけるようにすることで、この仕事が成り立っていると思っています。

現状と課題

昨年11月に、立地企業として株式会社を設立しました。障がい者雇用と就労支援の会社として、障がい者の生活力・経済力を向上させたいという思いからです。また、一般雇用と障がい者雇用の比率を同等数にすることを目標に掲げています。キャンバスの会は90人の方をA型雇用していますが、他を見てみると行政や企業の理解度が上がったとはいえ、雇用する余裕がないと言われる所がほとんどです。企業はもちろんのこと家族の理解があってこそ成り立つものであり、もっともっと働きかけが必要だと思います。

就労支援を始めた頃から、介護福祉士やPSWのような福祉専門職と同等以上に、職業専門職(当法人では調理師やクリーニング師)や営業経験者などの良質な人材を確保しなければならないと思っています。障がいのある方をA型雇用し、就労に向けるのであれば、福祉以外の専門知識・技術職のある方が間違いなく必要になります。福祉専門職の配置に関しては加算等の措置がありますが、就労継続支援A型は、福祉専門職よりも事業の専門職のほうが職業指導としての役割を果たすことが大きいという現実を理解してもらいたいと思っています。

現在、A型雇用者全員に最低賃金以上をお支払いし、月15万円以上の方もいます。私自身、最低賃金を免除できる制度があることに疑問を抱きながらもA型事業所である以上、最低賃金以上の給料をお支払いし、利用者さんの喜びや自信、自立につなげていきたいと考えています。A型事業は利用契約と同時に雇用契約を締結し、一定の労働者性を保障すべきものなのです。

最近、既存企業が就労移行支援やA型事業を始めた、また始めたいという話を耳にします。私はそのやり方は真逆だと思っています。企業がどれだけの知識を把握し障がいのある方を理解した上で参入しているのかが疑問です。本当に障がいのある方の一般就労、自立を考えていくのであれば、障がい者雇用を行なっていることを要件にするなどして、障がい者を受け入れる基盤を備えておくことが絶対的な条件だと思っています。企業がA型事業を始めるのではなく、A型事業所が一般企業になるのが理想なのです。

おわりに

私たちが最終的に目指すところは、親亡き後も障がいのある方が安心して生活していくことのできる居場所作りです。私も障がいのある子どもの親の一人です。家族の皆さんも同じ不安を抱えているに違いありません。今まさに、その環境作りを行なっているところです。私を含め、親御さんが安心できるようにと。それには、行政任せではなく親たちが悩み、考えて自ら動いて実現するしかないと思います。

(くすもとようこ 社会福祉法人キャンバスの会理事長)