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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号

時代を読む43

割り当て雇用制度の創設

障害者雇用を促進するために、法律によって一定の雇用を義務づける方法が割り当て雇用制度(クオータ・システム)である。ドイツ、フランス等と並んで、わが国はその制度を採用している代表的な国のひとつである。

根拠法は、障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)であるが、前身は1960年に制定された身体障害者雇用促進法であり、すでに半世紀以上の歴史を有している。

障害者雇用への取り組みは、同法の制定以前からも行われていた。たとえば、1948年にヘレン・ケラーが来日したのを機会に身体障害者雇用促進運動強調週間が設定されたり、1952年には、この分野における基本的な対策の根拠となる身体障害者職業更生援護対策要綱が策定されたりと、雇用促進が障害者福祉の向上に資することは認識されていた。

こうした取り組みにもかかわらず、身体障害者の雇用は困難であったが、諸外国でも身体障害者の雇用に関する立法措置が行われていたことに加え、1955年には、ILO(国際労働機関)が「身体障害者の職業更生に関する勧告」(第99号勧告)を採択したことから、国際的な基準に照らしても障害者雇用促進法制を整備する必要性に迫られることになった。そして、主にドイツ等における割り当て雇用制度を参考に、身体障害者雇用促進法の制定をみることになった。

同法の特徴は、事業主に対して障害者雇用を強制するものではなく「努力義務」が課せられたこと、対象となる障害は身体障害に限定されたことである。強制雇用としない場合の法制度の実行力については当然、議論されたが、事業主の理解と協力の上に立った雇用関係があって初めて雇用促進の実効があがるとの観点から、1960年の制定時には努力義務に留(とど)まっていたと言われている。また、対象については、身体障害以外の障害に関する全国的・画一的な判定を行うための基本的な要件が整備されていないことから、それらの障害については外された。

制定時の民間事業所の法定雇用率は、現業的事業所で1.1%、非現業的事業所で1.3%であった。その後、民間事業所では平均で法定雇用率を超えることもあったが、実態的には身体障害者ゆえの雇用の困難さは解消せず、その大きな背景には、「努力義務」であっため、特に大規模の事業所での雇用が進まないことが指摘されていた。

また、障害者雇用を行う事業所間での経済的な負担の不均衡さも問題視され、1976年の同法の抜本的改正を迎える。その結果、現行制度の基本的な枠組みである「義務雇用制度」「障害者雇用納付金制度」が導入され、「義務雇用」を中核とした障害者雇用促進法制として整備され、その後、法の対象の拡大、知的障害者の雇用義務の付加等の改正が行われ、現在に至っている。

(朝日雅也(あさひまさや) 埼玉県立大学教授)