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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号

ライフステージごとの課題 学齢期

学齢期の在宅生活の現状と課題について

下山郁子

平成12年から、重症心身障害児者の地域での普通の暮らしを目指して、横浜市内の重症心身障害児者の親の会の連絡会「横浜重心グループ連絡会~ぱざぱネット~」の活動を行なっている。その活動を通し、学齢期の現状と課題について次のように考える。

1 学齢期の暮らしの現状と課題

学校は教育の場であるが、重症心身障害児が必要な介助、支援を受け、教育という環境の中で充実した時間を過ごすことができることは、学齢期の在宅生活の大きな支えとなっている。学校で子どもたちがそれぞれの関心や興味が引き出され、豊かな時間を持つことができる意義は大きい。子どもの笑顔は、親の喜びであり、子どもの暮らしを支える親にとって大きな力となる。学齢期における学校生活の役割は、教育というところにとどまらず、障害のある本人と家族の暮らしの支援になっているということができる。

しかし、学校生活における課題はいろいろある。その一つに、医療的ケアが必要な場合の、学校への送迎の問題がある。学校内では多くの場合、医療的ケアは教師あるいは看護師によって対応されているが、医療的ケアが必要な子どもはスクールバスで通学することが難しいという現状がある。家族が送迎を担う場合、朝と帰り、親が二往復して子どもの学校生活を支えている。学校が遠い場合は、別室で帰りの時間を待つ状況となり、学校の送迎は家族にとって大きな負担となっている。

医療的ケアが必要な、介助負担の大きい家族ほど、学校の送迎を余儀なくされている。送迎の負担をなくすことは、大きな課題であると思う。医療的ケアが必要な場合、横浜市内では、重症心身障害者の通所施設の送迎において、看護師が送迎車に同乗して、医療的ケアの対応をすることで可能になっている。医療的ケアを必要とする子どもの学校への送迎が可能になることを切に望みたい。

2 学齢期の生活支援の現状と課題

学齢期は確かに学校によって大きく支えられているが、学校があるから大丈夫という意識から、生活支援の必要性が十分に理解されていない面があるのではないかと思う。学校に行っている時間以外は、家族が障害のある子どもの暮らしを支えており、家族と一緒の生活の中に、必要とする支援がたくさんある。

重症心身障害児の生活への支援として、訪問看護、居宅介護、移動支援、日中一時支援、短期入所、訪問入浴などがあるが、訪問看護については、以前は高齢者への支援がほとんどであったが、以前よりだいぶ小児も利用できるようになった。

訪問看護の場合は、医療的ケアへの対応が可能であり、子どもの体調維持に関しても、家族が頼りにしている状況である。居宅介護の利用については、入浴や食事などの介助について、家族の負担軽減になっている。まだごく一部ではあるが、医療的ケアの認定を受け、ヘルパーの医療的ケアの対応が可能になっているケースもある。今後対応が増えていくことを期待したいが、容易には進んでいないのが現状である。

日中一時支援、短期入所等については、家族との暮らしの中で、数時間の預かりや、泊まりを含む預かりが必要な場面はいろいろあり、冠婚葬祭、家族のレスパイト、きょうだい児の保護者会、きょうだい児との外出などにこれらの支援を利用できることで、暮らしが支えられる。しかし、これらについても、重症心身障害児が利用できる施設は限られており、もっと利用可能になるようにする必要があると思う。また、子どもが家族以外の介助を受ける経験を重ねることによって、自立する力を身に付けることにもつながる。

自立とは、家族と離れてグループホームや施設などで暮らすことができるようになることである。重症の障害があっても、今は医療の進歩で長く生きられるようになり、親がずっと子どもの暮らしを支えられるということではなくなってきているので、重症心身障害者の自立については、家族ももっと考える必要があると思っている。

また、児童福祉法の「放課後等デイサービス」は障害のある子どもの学童保育とも言われているが、重症心身障害児が利用できるようになると心強い。健常の子どもたちが放課後さまざまな活動をしているように、障害のある子どもたちも、学校だけでなく、その後の時間帯の支援を必要としている。

現在は、障害のある子どもを育てながら働く母親も増えている。障害のある子どもの親にも、働くための支援が必要であるということが、ようやく社会的にも認識されるようになった段階なのではないかと思う。放課後等デイサービスで、重症心身障害児も利用できるところは現在まだ大変少ないが、今後増やしていく必要がある。

3 今後に必要なこと

以前は、障害のある子どもを親が看るのは当たり前というのが社会全体の見方であったと思うが、障害があって大変なところは社会で支える必要があるというように、社会も当事者家族の意識も変わり、社会資源も徐々に増えてきて、さまざまな支援の利用ができるようになりつつあると感じている。しかし、重症心身障害児は年齢が低い層ほど、障害の状態が重症化する傾向にあり、今までの重症心身障害児支援のあり方のままでは、支援が難しくなってきている。また、少子化の中において、重症心身障害児者全体の人数は、徐々にではあるが確実に増えており、その状況に対応できる支援の質と量が必要であることを広く知っていただきたいと願っている。

(しもやまいくこ 横浜重心グループ連絡会~ぱざぱネット~会長)