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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号

フォーラム2013

東日本大震災復興支援に関する専門委員会の活動

相良二朗

1 はじめに

未曾有の大被害をもたらした東日本大震災から2年以上が経過し、復興に向けた取り組みが急がれる段階となった。日本リハビリテーション工学協会(以下、当協会)は、この大災害に対し、「東日本大震災復興支援に関する専門委員会(委員長沖川悦三)」を設置し、極めて微力ながらも支援活動を行なってきた。本論ではこの委員会の活動を紹介するとともに、これらの活動から見えてきた課題について述べる。

2 活動の内容

当協会専門委員会の活動を時系列上に紹介する。

(1)災害発生~避難所期

2011年3月12日から13日にかけて、新横浜にて当協会理事会を予定していた。大震災発生のニュースと関東地方にも及んだ被害のなか、理事会の中止を決めるとともに、仙台在住の理事や被災地内の会員はじめ障害のある人の安否を気遣いながらも何もできない状況にあった。4月上旬に理事会を開催し、その場で専門委員会の設置を決定した。

4月中旬に大阪で開催されたバリアフリー展会場内にて、当協会と、日本車椅子シーティング協会、日本福祉用具・生活支援用具協会、日本福祉用具評価センターの代表が会し「みちのく補助器具ネット」というメーリングリストを立ち上げることを合意し、これを活用した補助器具支援を開始した。当協会会員や賛助企業等を通して現地からのニーズを収集し、賛助企業等に中古を含めた補助器具の提供をお願いし、当協会が窓口となって現地へ届けた。

また、宮城県リハビリテーション支援センターから、多様な補助器具を製作できるイレクターパイプシステムの提供要請を受け、矢崎化工株式会社にお願いして資材の提供を受けた。避難所にて、腰掛台や立ち上がり補助器具等として活用された。

(2)応急仮設住宅期

4月に入ると応急仮設住宅の建設が開始されたが、4月下旬に一般社団法人日本作業療法士協会会長の中村春基氏から相談を受け、建設される応急仮設住宅に対する提言を共同で国会議員へ提出することとなった。災害救助法の限界はあるが、高齢者や障害のある人が少しでも苦痛なく過ごせるような最低限の配慮をお願いした。

5月上旬には仮設住宅への入居が始まったが、5月下旬に仙台在住の会員である吉田氏の案内により、名取市箱塚桜応急仮設住宅団地と福祉避難所の視察を行なった。出入り口やトイレに関しては、阪神・淡路大震災当時よりも改善されていたものの、浴槽への出入りに関して困難を訴える高齢者が多かった。また、住宅の仕様から断熱性能が心配された。

この視察をもとに、仮設住宅評価シートを作成しニーズ調査を実施した。浴槽への出入りの改善を中心に支援すべく洗い場用踏み台の設計に着手し、再び、矢崎化工株式会社へ資材提供をお願いするとともに、SIG住まいづくりや車いすSIGに対しても人材と資金の提供を依頼した。

これらの支援を受け、8月4日から11日までの間、現地にて踏み台をはじめとする補助器具製作活動を実施した。この活動には神戸芸術工科大学、日本大学、目白大学の学生もボランティアとして参加し、総勢49人が交代で参加した。この活動には途中から、仙台高等専門学校環境デザイン学科の熊谷広子助教と学生も参加し、我々の活動と資材の残部を引き継いでいただいた。

2011年11月には、名取市箱塚桜応急仮設住宅団地を再訪し、フォローアップ調査を行なった。また、周辺の仮設住宅の状況についても視察する機会を得た。

(3)復興期

2012年になると、災害復興公営住宅の計画が各自治体で始まった。高齢化率が高い被災地においては、バリアフリー住宅が不可欠であり、コミュニティ力の維持が課題となる。兵庫県は、阪神・淡路大震災の直後に福祉のまちづくり条例を改正し、住宅設計基準を定めて災害復興住宅への適用を求めた。この経験を宮城県東部保健福祉事務所へ伝え、情報面での支援を行なった。

時間の経過とともに、被災地以外の人々の意識は薄らいでいく。一方、復興期に入り現地の産業も再開を遂げ、物的な支援は現地の産業を圧迫することにもなる。このため、我々は被災地のことを忘れないこと、被災地へ訪れることが支援となると考え、「第1回東日本大震災復興支援リハビリテーション工学講習会in盛岡」を企画し、岩手大学にご協力いただき、2013年2月2日、3日の2日間開催した。

この講習会は1.全国からの参加者に復興状況と復興にはまだまだの現状を見ていただくこと、2.地元の関係者のみなさまに当協会傘下の各SIG(スペシャルインタレストグループ)が有している情報を提供すること、3.全国からの参加者に被災地にお金を落としていただくこと、を目的とした。講習会には、コミュニケーション、姿勢保持、車いす、特別支援教育、住まいづくり、移乗機器、義肢装具の7つのSIGが協力を申し出て、2つの会場で12の講座が提供された。また、岩手大学にご後援いただき、24の企業に協賛をいただいた。参加者のほとんどは東北6県からで、講師を除いては1と3の目的は残念ながら達成できなかったが、90人が参加し、リハビリテーション工学に関する人材が少ない東北地方に情報を届けることはできたと思っている。

3 将来に向けて

応急仮設住宅の使用期限が延長されたが、阪神・淡路大震災の時も最長5年間使用され、市民が復興したと感じたのは5年ないし10年後と、立場によって大きな差があった。

今回の災害では土地の盛土が必要だったり、新しい造成地への移転が必要だったりするため、より複雑な問題を抱えている。もともと人口減少や高齢化の問題を抱えていた地域も多く、そのような中でまちの新興を計画しなくてはならない。さらに、福島の一部では、より長期にわたる復興への戦いが必要である。息の長い支援を継続し、関心を持ち続けていくことが望まれる。

当協会は、第2回復興支援リハビリテーション工学講習会を2013年に福島で、第3回は2014年に宮城で開催を計画している。

片や、地震国であるわが国では、いつどこを次の地震が襲うかも分からない。この原稿を書いている4月13日の早朝にも淡路島を震源とする地震に揺り起こされた。最大震度6弱にもかかわらず、被害はそれほど大きくなかったのが幸いだった。首都直下型、東海、東南海、南海と、巨大地震の発生も予測されており、被害をできるだけ少なくする備えが求められている。特に災害弱者となりやすい高齢者、子ども、外国人、障害のある人に対する対策が課題であり、当協会としても復興支援に加えて、継続的に取り組むべきことと考えている。

4 おわりに

我々の取り組みは大災害に対して蟷螂(とうろう)の斧(おの)に等しく、ごく一部の数えるほどの人に対する支援に過ぎない。しかし、今回の経験を各自が伝え、情報として蓄積していくことは重要なことであり、それぞれがそれぞれの立場からできることを行うことが大切なことと考えている。

当協会の一連の活動に対し、ご理解とご支援をいただいた多くの関係者の方々、そして我々の活動を受け入れていただいた被災地の方々に、この場を借りて厚く感謝したい。

(さがらじろう 一般社団法人日本リハビリテーション工学協会会長、神戸芸術工科大学教授)


【参考文献】

1)相良二朗、沖川悦三:日本リハビリテーション工学協会の東日本大震災への取り組みについて、福祉介護テクノプラスVol.4、No12、pp7-10、2011、11

2)相良二朗、沖川悦三、他:東日本大震災応急仮設住宅の居住環境改善の取り組み、芸術工学会誌、No57、pp32-33、2011、11

3)沖川悦三、相良二朗、他:東日本大震災復興支援に関するリハビリテーション工学的支援活動について、神奈川県総合リハビリテーションセンター紀要、No37、2010、pp71-76、2012、12