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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

意思疎通(コミュニケーション)支援事業の完全実施と充実を願って

小中栄一

今年の4月1日から施行の障害者総合支援法では、私たち聴覚障害者に大きく関わるコミュニケーション支援について、次のような改正が行われた。

  • 「コミュニケーション支援」という表記が、「意思疎通支援」に改められた。
  • 意思疎通支援を行う者の養成と派遣が、都道府県および市町村の必須事業として位置づけられた。
  • 市町村相互間の連絡調整、専門性の高い意思疎通支援を行う者の派遣が必須事業とされ、都道府県が担うことになった。

2006年から実施された障害者自立支援法において、コミュニケーション支援事業は市町村の必須事業とされたが、実施率は伸び悩んでいる。厚生労働省の調査によると、2012年3月現在の市町村コミュニケーション支援事業全体の実施率は76.0%である。そのうち手話通訳者派遣事業は75.5%、手話通訳者設置事業は29.9%、要約筆記者派遣事業は51.5%の実施率であった。本来は、手話通訳者派遣事業、手話通訳者設置事業、要約筆記者派遣事業の三事業がセットとなって必須事業として位置づけられているが、かなりのばらつきになっている。

また、厚生労働省の2010年度障害者総合福祉推進事業において、全日本ろうあ連盟が実施した「地域生活支援事業(コミュニケーション支援事業)の実施における地域間の差違に関する調査」事業では、たとえば、人口規模が同じ自治体を比較してみると、事業費に数倍から数十倍以上の差が見られた。また、実施要項は各市町村の裁量であるため、派遣範囲、手話通訳者・要約筆記者への報酬と交通費支払い、広域派遣等基準のばらつきが大きいことが分かった。地域生活支援事業は統合補助金により実施されているが、聴覚障害者の社会参加を支える基盤的な事業として義務的経費の事業とする必要があることを指摘している。

今回の障害者総合支援法においては、義務的経費とする基盤的な事業への抜本的な改善は行われなかったが、市町村での事業実施の促進と都道府県での事業実施に向けて一定の前進が見られたと思う。

基本的には、市町村では手話奉仕員養成事業を実施し、聴覚障害について理解を深め、手話で会話ができる人を広げていくことにより、地域のバリアフリー、地域の福祉を促進していく。その上で、都道府県では手話通訳者養成・研修事業を実施し、手話通訳者を確保していく。また、市町村の手話通訳者派遣等三事業の完全実施、および都道府県においても広域派遣の連絡調整という役割を加えての手話通訳者派遣等事業の完全実施へと進められることが期待される。ぜひ、地域の聴覚障害者団体と協力して取り組んでいただきたい。

また、2012年度厚生労働省「平成24年度障害者総合福祉推進事業」において「手話通訳者等の派遣に係る要綱検討事業」を全日本ろうあ連盟が担い、自治体の担当者、厚生労働省の担当者にも加わってもらって策定した都道府県・市町村手話通訳者等派遣事業のモデル要綱、ガイドラインが厚生労働省から通知された。このモデル要綱、ガイドラインは、派遣できる内容にできるだけ制限を加えず、派遣する範囲は都道府県内とし、必要に応じて都道府県外にも広域派遣できるようにするなど、これまでの課題を解消する内容となっている。ぜひ、これを反映した事業実施となることをお願いしたい。

障害者総合支援法には施行後3年を目途に検討する項目を記載しており、その一つ「手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方」について、今後検討を進めていかなければならないが、検討の視点としては、障害者基本法の第三条の三に、「言語(手話を含む)を含む意思疎通の方法を選択する機会を確保」とあることを踏まえて、聴覚障害者の生活に関わる情報アクセス・コミュニケーションのバリアを解消し、権利として保障していくことにある。意思疎通支援に加え、情報の提供や情報理解のための支援、地域や職場等への参加支援等と一体になったコミュニケーション支援を聴覚障害者の社会参加のための基盤的な事業として、社会が責任を持って整備していくことが基本的な理念であり、施策の方向として堅持していただきたい。

具体的な検討課題をいくつか例示する。

  • コミュニケーション支援を必要とする聴覚障害者すべてに対応していくため、聴覚障害の定義・範囲を見直す。
  • コミュニケーション支援を全国一律の仕組みとし地域格差を解消する。
  • 手話通訳者の設置について業務や役割を整理し、聴覚障害者の総合的なサポートの役割を担う者として設置を拡大していく仕組みを作る。
  • 休日や夜間の利用体制、司法や裁判、医療、高等教育等の専門性が高い分野でのコミュニケーション支援体制の確立。
  • 手話通訳者、要約筆記者、盲ろう通訳・介助員の身分保障を確立する。

最後に、検討していく時は、聴覚障害当事者の意見をヒアリングで聞くのではなく、聴覚障害当事者団体を中心に、関係団体、自治体担当者、厚生労働省担当者とともにワーキングを重ねて検討していく方法をぜひ継続していただきたい。私たちも障害当事者団体として積極的に政策提言できるよう取り組んでいきたい。

(こなかえいいち 一般財団法人全日本ろうあ連盟副理事長)