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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

充実した地域生活を送るために
―3年後の見直しに向けた視覚障害者の声―

大橋由昌

1 「はじめの鍬は強く撃て!」

「障害者自立支援法」を改正した新たな法律「障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律」いわゆる「障害者総合支援法」が施行された。「障害のある人の基本的人権の尊重」を明記した点、これまで制度の谷間となっていた国が定めている難病患者等が支援の対象に加えられるなど、高く評価すべき点も少なくない。「はじめの鍬は強く撃て!」という古風な表現を借りるならば、3年後の見直しに当たって、不完全さの改善は、障害当事者が如何に力強く「地」に働きかけることができるかだ。

以下、視覚障害者の立場から、いくつか課題を指摘してみたい。

2 歩くことにも格差

視覚障害者の関心の高い問題、外出保障のための同行援護等の事項について触れてみたい。まず、「地域格差と利用に関する弊害」を上げることができる。

現在、視覚障害者の外出に関しては、同行援護と通院介助等いくつかの手段がある。しかし、これらの利用の仕方(組み合わせや優先順位など)に関しては、地方自治体ごとにその判断が異なっているのが現状だ。その解決のため、視覚障害者の外出に関しては、同行援護事業が優先して実施されることが望ましいと考えている。

「支給量の問題」についても、外出における同行援護事業の支給量は、個人の状況に応じてその必要性を満たすことが厚生労働省の通知によって決まっているにもかかわらず、地方自治体ごとに支給量が大きく異なっている。地域間格差が生じているのも事実なのである。その矛盾を解消するためには、当事者が要望する支給量を地方自治体が追認する仕組みが必要だ。

また、「移動手段や利用内容の問題」も要望が多い課題といえる。山間地域においては、公共交通機関が十分でなく、必然的にガイドヘルパーの運転する車に同乗することが多くなる。しかし、運転中は介助できないから、という行政の解釈で、ガイドにしてみれば、ハンドルを握っている間はお金にならないのだ。視覚障害者の生活行動からみて運転時もガイドであるように、制度の改定をすべきであろう。さらに、これを解消するため、福祉有償運送などへの移行を図れればよいのだが、認可が難しい状況であるばかりか、実施内容においても、行政判断が異なっている実態が見受けられる。居住する地域によって受けられるサービス内容に差が生じていることからも、現実的な改善が必要だと指摘せざるを得ない。

3 「医療と福祉の狭間(はざま)」で

現在、視覚障害者の入院時ならびに通院におけるヘルパー利用(ヘルパーの院内支援)については、医療機関が支援をすることとされている。

全盲夫婦にとっては、仮に妻が入院した場合、入院時の準備や入院後の介助は、病院が行うこととされているものの、病院スタッフは多忙なこともあり、十分な支援を受けることはできないのが現実だ。入院という非常事態だからこそ、普段利用している事業所のヘルパーにお願いしたいのである。

また、妻が入院後、全盲の夫のための家事についても、安心して援助を頼めないのだ。そのため、入院や通院において、病院内におけるヘルパー利用および家族が入院した場合の家事援助を認めてほしい、という声が多かったのである。こうした要望に対しては、病院における援助は、すべて病院スタッフが行うことになっている、という関係機関からの回答であった。ヘルパーの派遣については、保険局の規則があるため、入院・通院時においては、医療機関以外のスタッフに看護を受けさせてはいけないからだ、という。ここにも、縦割り行政の隙間(すきま)で途方に暮れる視覚障害者問題の実態がある。

4 国との意思疎通が鍵

地域生活支援事業で「意思疎通支援を行う者の養成」とあるが、意思疎通支援する手段は、聴覚障害者の手話通訳、要約筆記に限られず、盲ろう者の触手話・指点字や、視覚障害者の代読・代筆などとも説明されている。要約筆記と比べても、専門書の点訳者や音訳者もまた、極めて専門性の高い作業なので、いつまでも無償の奉仕活動であってはならないと思う。点訳・音訳者養成事業も、意思疎通事業に組み入れるべきだろう。

また、弱視者・色弱者の支援の一環として、自分にあった文字の大きさで、音声を聞きながら活字を見られるテキストデイジーおよびマルチメディアデイジーの制作員養成にも、国は注目してほしい。

2010年の著作権法の改正により、第37条第3項に「視覚著作物をそのままの方式では利用することが困難な者」と、サービス対象者が視覚障害者以外にも拡大された。しかも、発達障害者などの読書にテキストデイジーなどが有用であることが報告されるようにもなってきた。テキストデータで提供できるならば、盲ろう者のピンディスプレイにも対応しやすい。こうした障害種別を超えた「支援者養成事業」を、国は先導的施行として積極的に実施すべきではないだろうか。

(おおはしよしまさ 日本盲人会連合情報部長・点字図書館長)