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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

世田谷区の成年後見制度の取り組みについて

田邉仁重

1 世田谷区の取り組み

世田谷区は、東京23区の西南端に位置し、86万人の人口を抱える住宅地が中心のまちである。高齢化率は約19.5%、要介護認定者は3万人を超え、愛の手帳所持者約3,600人、精神障害者保健福祉手帳所持者2,000人超となっている。核家族化や少子高齢者により、頼ることができる身近な親族が無い高齢者・障害者のために成年後見制度の需要が高まること、需要に対して成年後見人の担い手が十分でないこと、地域の支え合い活動の中で成年後見人を受任できる住民の存在を実感したことから、世田谷区が世田谷区社会福祉協議会(以下、「世田谷区社協」という)に委託して、平成18年度に区民成年後見人の養成研修を実施した。

2 区民成年後見人の活動

(1)養成から選任までの流れ

本研修の目的は、研修修了者が家庭裁判所に成年後見人として選任されることである。現在まで6回の研修を実施、79人を養成し、区民成年後見人の受任件数は累計で66件となっている。

区民成年後見人を候補者として家庭裁判所に推薦するに当たっては、世田谷区社協の成年後見センターに設置している「事例検討委員会注1参照」で成年後見人が必要な事案を検討し、弁護士等の専門職ではなく、区民成年後見人が適任と判断された場合に「運営委員会小委員会」で区民成年後見人養成研修修了者の中から候補者の選任を行い、家庭裁判所に申し立てを行う。

区民成年後見人の選任にはガイドラインを設けており、1.主に区長申立の案件で、2.紛争性が無い、3.福祉サービスの利用により身上監護が安定している、4.管理財産が多くなく、債務が無いなどを条件としている。

また、東京家庭裁判所は、区民成年後見人には、後見監督人として世田谷区社協を選任することになっている。

このように、行政と世田谷区社協が、成年後見センター所長の弁護士をはじめとする専門職との連携により、養成から成年後見人候補者として家庭裁判所への推薦、成年後見人に就任後の相談、支援、監督まで、一体となって継続的に関わり支援することで、世田谷区の区民成年後見人の信頼性と活動の確実性を担保している。

(2)実際の活動と支援体制

区民成年後見人は、就任直後から訪問や面接を繰り返し、成年被後見人等(以下、「被後見人」という)との信頼関係を築いている。「最初は会話がスムーズにできなかったが、そばにいて同じ景色を眺めることを繰り返すうちに、昔の話をしてくれるようになった」「意思疎通ができない方でも、何回も通い声をかけるうちに、目を開けてくれるようになった」「施設職員が声をかけてくれるようになり、本人の様子が分かるようになった」などの声が寄せられている。在宅生活をしている被後見人を、就任当初、ほぼ毎日訪問していた区民成年後見人もいる。

このように「被後見人のために、ゆっくり時間を割いて寄り添うことができる」ことが、区民成年後見人ならではの専門性だと考えている。

一方、成年後見人として就任後、後見事務を進める中で、負債や相続人が多数存在することなどの問題が明らかになり、区民成年後見人一人では対応が困難な事案も生じている。成年後見人に選任されれば、これらの事務も処理していかなければならない。このような場合は、成年後見センターに相談し、専門職等の手を借り解決している。区民成年後見人が問題を抱え込まず、いつでも相談できる体制が大切であると痛感している。

3 後見制度への期待と課題

区民成年後見人の誕生や障害者総合支援法で、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進の在り方が検討規定にあげられており、成年後見制度への期待は高まっている。

成年後見人は、「身上監護」と「財産管理」において大きな権限を持ち、被後見人の人生を左右する存在である。その養成については慎重に行うべきだと考えている。特に市民成年後見人においては、養成から、成年後見人としての推薦、成年後見人に就任後の相談・支援、家庭裁判所の判断によっては後見監督、さらに後見人の活動をサポートする専門家との連携など、一貫したシステムで取り組むことが大切である。

また、成年後見人は、身上監護を行うために、被後見人を取り巻く福祉サービスや福祉関係機関とネットワークを構築して対応するが、不足する福祉サービスを親や親族の代わりになって自ら成年後見人が提供することはできない。フォーマル、インフォーマルにかかわらず、福祉サービスの充実が重要な課題となっている。

世田谷区社協は「成年後見支援センター3カ年計画」を策定し、世田谷区における成年後見制度の質的量的拡大を図るため、法人後見の受任にも取り組んでいる。区民成年後見人とともに、区民に役立ち、信頼される成年後見制度の推進機関を目指していきたいと思う。

(たなべひとえ 社会福祉法人世田谷区社会福祉協議会権利擁護支援課課長)


(注1)「事例検討委員会」は、成年後見センター所長(弁護士)、弁護士、司法書士、社会福祉士、行政及び区社協職員がメンバーとなり、毎月1回、事案の検討、成年後見人の候補者選任を行なっている。