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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年7月号

盲ろう者の参政権保障
~情報保障とアクセスの問題

庵悟

1 はじめに

参政権は憲法の定めるところであり、盲ろう者も障害のない市民と同様に選挙への参加が保障される必要がある。

しかし、盲ろう者は、選挙広報・政見放送の情報を自力で得ることが極めて困難である。ネット選挙が解禁されたが、圧倒的多数の盲ろう者はインターネットにアクセスできないでいる。また、投票においても困難を生じるケースをよく耳にする。

盲ろう者の参政権をめぐる現状と課題を明らかにし、解決策を考えてみたい。

2 選挙公報、政見放送等の情報アクセス

目と耳の両方に障害のある盲ろう者は、障害の程度や発生の時期によって情報取得方法やコミュニケーション手段が一人ひとり異なる。

平成24年度に厚生労働省の補助を受けて当協会が実施した「盲ろう者実態調査」によると、全国には、視覚と聴覚の両方の障害が記載された身体障害者手帳を所持している盲ろう者が約1万4千人いることが明らかになっている。しかし、支援につながっている盲ろう者はわずか900人程度で、その約6%にすぎない。

また、その900人の盲ろう者が、すべて文字や点字による情報を取得できているわけではない。ある程度年齢を重ねてから手話や点字を身に付けることは並大抵ではなく、自力で情報取得することが困難なだけでなく、人とコミュニケーションを取ることすらままならない盲ろう者が圧倒的に多い。まして、インターネットを使った通信手段を持つ盲ろう者は、極めて少ないのが現状である。

盲ろう者は、テレビ、ラジオ、新聞等からの情報を自力で取得することが極めて困難である。その結果、選挙公報、政見放送といった選挙に関する情報を得ることができず、候補者の誰を選ぶべきかの判断が難しくなる。選挙があることすら知らなかったという声も聞く。

最近のネット選挙解禁によって、選挙に関する情報提供のチャンネルが増えること自体は望ましいが、盲ろう者が利用しやすい環境整備が伴わなければ「絵に描いた餅」になろう。

先の衆院選では、国政選挙で初めて選挙公報が各都道府県の選挙管理委員会のホームページに掲載されたが、政見放送を含め、盲ろう者に配慮した形で選挙情報が提供されれば、盲ろう者の情報収集手段の拡大につながる。

国政選挙および都道府県知事選挙における政見放送に手話通訳を付けるところが増えてきているが、政党に対する手話通訳と字幕の義務付けはもちろんのこと、盲ろう者にも視聴しやすい政見放送にすべきである。

そこで、解決策としては次のような方法が考えられる。

(1)選挙公報

選挙公報の拡大文字版、点字版、DAISY版、電子データ版(テキスト版など)の配布。これらの媒体の利用が難しい盲ろう者に対しては、盲ろう者宅を訪問して選挙公報の内容を情報提供する通訳・介助員を選挙管理委員会の責任において、公費により派遣する。

(2)政見放送

弱視の盲ろう者への配慮として、手話通訳や字幕をできるだけ見やすくするようにする。たとえば、手話通訳者の服装や背景には黒っぽい色を用いたり、手話の動きを小さめにするなど、弱視の盲ろう者が手話を読み取りやすいものにする配慮が必要である。また、字幕は、黒地に白文字にして、文字をやや大きめの太字にするなどコントラストがはっきりした文字表示にする。

全盲ろうの盲ろう者には、すべての政見放送をデータ放送化し、点字ディスプレイでその情報を取得できるようにする。そのための受信機器の技術開発を進めていく。また、政党に政見放送の内容を文字データ化することを義務付けて、必要な盲ろう者に配布する。

さらに、点字も文字も読めない盲ろう者には、盲ろう者からの求めに応じて盲ろう者宅を訪問し、政見放送の内容をその人が用いるコミュニケーション手段で情報提供するための通訳・介助員を選挙管理委員会の責任において、公費により派遣する。

(3)ネット選挙

ネット選挙の解禁により、各政党や候補者がホームページなどでマニフェストを発表したり、支持を訴えることができるようになった。しかし、インターネットにかろうじてアクセスできる盲ろう者が閲覧したくても、利用できないケースが多い。

拡大文字で表示されたり、コントラストをはっきりさせるなどの画面表示の設定とともに、アクセシビリティが備わったデータ(例:テキストデータ、DAISYや点字ディスプレイ表示が可能なデータ)の閲覧がしやすいように環境整備していく。

また、盲ろう者がインターネットにアクセスできるスキルを身に付けるためのサポート体制も必要である。

このような環境整備をしていくことによって、盲ろう者の情報取得を可能にしていくことは、あらゆる聴覚障害者、視覚障害者、高齢者にとっても情報取得が可能なものになるというユニバーサルデザインの視点で取り組まれるべきであろう。

3 投票行為

(1)投票所における配慮

盲ろう者は、その障害の発生時期や程度などにより、触手話、指点字、手のひら書き、音声などと、コミュニケーション手段がおのおの異なる。盲ろう者と投票所の係官とのコミュニケーションにおいても、通訳・介助員の介在が必要である。

そこで、投票所において、盲ろう者に対して通訳・介助員が同行できるようにしていく。自分で投票用紙に記入できない盲ろう者が、投票所の係官に代筆を依頼する際、前記の理由により、通訳・介助員の介在を認める。

備え付けの鉛筆では投票用紙に記入できないが、サインペンを使えば記入できる者もいる。そうした盲ろう者が、自分の見やすいサインペンを持ち込んで投票用紙に記入できることを各選挙管理委員会に周知しておくとよい。

候補者一覧の点字版とともに、拡大文字版も用意する。

(2)郵便等による不在者投票における代理記載制度の対象者の拡大

現行では、「身体障害者手帳に上肢又は視覚の障害の程度が1級である者として記載されている者。」となっている。しかし、盲ろう者の多くは自力で投票所までの移動や投票行為が困難である。また、通訳・介助員の確保が難しい地域もある。

そこで、対象者として「身体障害者手帳に視覚と聴覚の両方の障害が記載されている者で投票所での投票行為が困難な者」を加える。

4 選挙活動

盲ろう者は、選挙で応援したい候補者がいても電話がかけられない。現状では、メールやファックスなど文字による投票依頼が認められていない。

盲ろう者の情報・コミュニケーション・移動の3つのニーズを総合的にサポートするのが通訳・介助員である。現行の「盲ろう者向け通訳・介助員派遣事業」は、障害者総合支援法に基づく都道府県(指定都市・中核市を含む)地域生活支援事業となっている。その派遣事業の要綱には、政治的活動には通訳・介助員の派遣は認められていないところがほとんどである。

単一の聴覚障害者は、自力で移動できるので、自分が行きたいところへ足を運んで支持を訴えることができる。単一の視覚障害者は、電話で支持を訴えることができる。しかし、盲ろう者は、自力で支持を訴えるすべがない。従って、盲ろう者が通訳・介助員を同行して選挙活動ができるようにするのは、「中立・公平性」という観点からも保障すべきである。ただし、通訳・介助員が選挙運動に参加していると見なされないように配慮する必要がある。

5 おわりに

盲ろう者の参政権をめぐる環境は、極めて厳しい。よって盲ろう者自身のコミュニケーションや情報取得のスキルアップを図っていくこと、盲ろう者が選挙において、自己選択・自己決定するためのサポートに欠かせない通訳・介助員の質と量の全体的な底上げをしていくこと、行政・放送業者・テレビ等のメーカーに対して、盲ろう者をはじめ誰もが利用しやすい地上デジタルテレビの開発普及を図っていくこと、盲ろう者の参政権を制約している公職選挙法等の法改正をしていくなど、同時進行で進められなくてはならない。

本年6月の通常国会で「障害者差別解消法」が成立したことから、今後、関係省庁が基本方針などガイドラインづくりの際に、障害者政策委員会などを通じて、盲ろう者の参政権について提言していきたい。

(いおりさとる 社会福祉法人全国盲ろう者協会)