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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年7月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

洋菓子工房「ハイワークひびき」の取り組み

山田紀子

ハイワークひびきの設立

1997年12月1日、ハイワークひびきは「社会福祉法人ひびき福祉会」の4番目の施設(定員20人)として開所しました。当時のひびきの他の施設は、労働を日中活動の中心としていましたが、下請作業が中心で、利用者の工賃は3,000円から多い人で1万円ぐらいでした。作業時間も1日4時間くらい(送迎の関係)。障害の程度もさまざまでした。

「障害年金と工賃で生活できるようにしたい」「働く力のある人はもっと長時間働き、高い工賃を払いたい」「利用者がやりがいと誇りを感じれる仕事を」という願いを込めて、「ハイワークひびき」は誕生しました。

高い工賃を払うために

私たちはまず、利用者に高い工賃を払うための職種選びからはじめました。「消費するもの」として食品関係は決めていました。「パン製造」や「お弁当」などの候補からアドバイスをしていただける方もいたことから「洋菓子」に決定しました。目標は「街のお菓子屋さん」。福祉施設のお菓子でなく、「おいしいから何回も買いたくなるお菓子」「知り合いに贈答品として贈れるお菓子」を目指しました。

施設整備も洋菓子工房として整えました。できるだけ専門的にということで、設備も本格的にしました。利用者が働きやすい設備と「働く場」として分かりやすい環境を整えました。利用者の働く意識を高める工夫もしました。「白衣(作業服)に着替える。上着・ズボン・エプロン・帽子・マスク・作業靴を支給」「タイムカードの導入」など仕事への緊張感を高めました。利用者の仕事への気持ちを切り替えるためです。

当時のひびき福祉会全体の利用者から、「働く意欲のある人」「自力通所ができる人」「朝9時から夕方5時まで8時間勤務ができる体力のある人」「衛生面の理解ができる人」などの条件をクリアしたメンバーや新規の利用者で開所しました。商品も専門の方の指導で、まず職員が「焼き菓子」の作り方を学び、それから利用者に指導していきました。

初めは「マドレーヌ」ばかりを作りました。試作を繰り返し、商品が完成してから営業担当の職員が毎日「マドレーヌ」を抱えて営業にまわりました。売れなければ利用者の工賃どころか材料代も出ません。「おいしいお菓子を作ること」「お菓子を売ること」どちらも職員に課せられた重要な仕事でした。

売れなければ、工賃は払えない

商品づくりも大変でしたが、販売はもっと苦労しました。利用者の工賃は時給制。1時間100円でも1日7時間労働(昼休み1時間は除く)で700円。20日働いて14,000円を支払うのは職員にとっても大きなプレッシャーでした。

売上向上のためにさまざまな工夫、努力をしてきました。

1.営業専門の職員の配置

職員全員が利用者と製造するのでなく、販売を中心に担当する職員を配置し、販売する立場からも商品を見ていくようになりました。商品の値段設定(卸価格)やその商品の売り(自慢できること)、可愛いパッケージや包装などです。

2.「美味しい焼き菓子頒布会」

定期的なお客様を確保するために始めました。毎月1回、定期的にいろいろな焼き菓子をお届けするシステムです。会員は年単位で申し込みます。4月に申し込むと翌年3月までお菓子が届きます。ハイワークひびきの大事な応援隊です。最初は、家族や職員から始まりましたが紹介等で広がり、現在は180人近くになっています。また、お歳暮や贈答品などでも使っていただけるようになりました。

3.ロゴの作成

お菓子の袋や箱などにロゴを印刷して統一し、贈答品として使いやすいようにしました。また商品の「自慢」として、マドレーヌに使うレモンは愛媛県産の国産レモン、りんごのタルトは青森産のりんごを自分たちで加工、スイートポテトは鳴門金時を農園から仕入れるなど、安全でおいしい商品づくりを目指しました。

4.カタログやネット販売

売上はまだまだですが、お歳暮やお中元商品の提案は、毎回、何種類か行なっています。

5.企業や役所からの受注

市内や大阪府下の福祉施設(授産施設)と共同で取り組んでいます。複数の施設が共同レシピでクッキーを試作して、パチンコ店の社会貢献として購入してもらいました。14年前から始まり、現在も変わらず注文をいただいています。

6.ケーキの直販店をオープン

10年前に焼き菓子を常時販売する店舗を確保するために、生ケーキも販売する店を開業しました。そのために福祉職ではなくケーキ専門の職員を採用しました。おかげで焼き菓子の技術も大幅にアップしました。反面、お菓子作りの厳しさ、難しさも実感しました。食品を扱う責任の重さも感じました。

利用者も焼き菓子を作る人、生ケーキを作る人等仕事のレパートリーは広がり、現在は喫茶店もはじめ、利用者が接客の仕事もしています。売上は大きく伸びましたが、経費(家賃・人件費他)もかかるのが悩みです。

利用者の変化

ハイワークひびきの利用者は、朝、ハイワークに着いた時点から仕事モードになります。通勤服から作業服に着替えてスタンバイ。9時には全員作業ができる態勢にしています(最近は少し遅れ気味ですが)。朝の会で今日の仕事を職員から確認、作業に入ります。爪などの衛生チェックもお互いに点検し合います。

午前20分間、午後20分間の休憩時間以外はそれぞれ自分のできる作業を、職員の指示でこなしていきます。失敗は大きな損失になります。責任と緊張感のある仕事ですが、完成したお菓子はおいしそう。お客様から「ハイワークのお菓子はおいしいね」「みんなで作ってるの。すごいね」の言葉がうれしく励みになります。

開所当時は工賃も時給100円でしたが、現在は150円から350円の5ランクになっています。時給350円の人は、月20日間働けば49,000円の工賃になります。利用者22人の平均は3万円ぐらいになりました。商品の売り上げは毎月変動があるため、時給はなかなかアップできませんが、ボーナス等で利用者に還元しています。

工賃が上がることで利用者も大きく変化してきました。それまで母親に買ってもらっていた服を、給料日に自分で気に入った服を買いに行く、工賃を貯めてデジカメやパソコンを買った利用者もいます。生活費として親に工賃の一部を手渡したり、甥や姪にお小遣いをあげることもできます。家族の中に自分の居場所ができ、自分に自信がついてきました。仕事への自信、一緒に働く仲間、指導してもらい頼れる職員がいることが「働く」ということのやりがいや励み、楽しさにつながります。工賃が上がることで、これからの人生の選択肢も広がっていくと感じます。

これからの課題

現在は、近くのケーキ製造の会社からの紹介で、焼き菓子をホテルやコーヒーチェーン等に納品させてもらっています。納期や衛生面での問題、製造表示等をクリアしての取り引きです。利用者や職員の体力的な負担が少ない範囲で極力、注文は断らずに受けています。設備面での限界はありますが、長年の信頼関係で注文は増えてきています。しかし、取引先から注文が無くなると仕事量も激減する場合もあります。独自での販売も引き続き行う必要もあり、仕事量の調整が課題です。安定した仕事がないと利用者の工賃を今以上にアップできないからです。

利用者が労働を通じて社会とつながり、その対価として高い工賃をもらい、自信をつけ、豊かな人生を歩んでいくために、これからも頑張っていきます。

(やまだのりこ ハイワークひびき施設長)