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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

学びはやめられない

天畠大輔

大学への憧れ

私は障がいを負ってから、自分の居場所探しに8年もかかった。

大学進学を志したのは、ボランティアで家に来ていた大学生たちとの出会いだった。彼らの大学生活の談話をいつもそばで聞いていると、私も大学に行きたい気持ちが強くなっていったのだった。

いざ苦学してやっと入学し、学生生活がスタートすると、あのボランティア学生たちのようなほのぼのとしたものでは決してなかった。まずはチラシを配りボランティアを集め、学校側へ授業や試験の配慮願いをし、「あ・か・さ・た・な」話法の理解と通訳等の環境作りにエネルギーを要した。

この学生生活の4年間を振り返ると、私は多くのボランティアに関わってもらうことで学業を継続できた。しかしながら、授業のノートテイカーがドタキャンすることも多々あり、急遽(きょ)、代わりのテイカーがサポートするなどヒヤッとする場面に出くわすこともあった。それを機に、私は安定して学べる環境を作ろうと考え、障がい学生のサポートサークルを立ち上げ、学生たちの育成のために他大学との交流にも力を入れた。そして、現在も後輩たちが継続して活動している。

学ぶことの楽しさ

バリアをなくそうと働きかければ、仲間がそれに応えてくれ、自ずと周りの人との関わりで前に進むことができた。私の中にあるこのエネルギーはどこからくるものだろうか…。

おそらく幼少期から両親が過度に期待をかけてくれた賜かもしれない。

幼稚園時には、塾、ピアノ、スイミング等6つも習い事をさせられ、遊び盛りの私にとっては毎日が苦痛だった。友達と遊んでいる最中でも、時間になると母は容赦なく私を車に放り込み、「遊びたい」と訴えても、習い事に連れて行った。また小・中学校は、有名進学校に在籍したが肌に合わず不登校になってしまい、海外留学という経験もした。

そして障がいを負った現在、この幼少から青年期の経験が大いに活(い)かされている。受け身であった幼少期に多くの習い事をさせられたことで競争心を養った。また、中学期に海外経験をしたことで、広い視野をもって他者を理解することを学んだ。「鬼婆」と思っていた母だったが、このような経験が大学生活での大きな生きる力となっていた。

またここでは大学生活ならではの、学ぶことの喜びを知った。その最たるものが卒業論文であった。1人の大学院生と2人3脚で、2年半かけて書き上げた。このことが自信となり、大学院に進むきっかけともなった。

私は自伝に以下のような文章を書いた。

私にとって「学び」は、人が毎日、新聞を読むのと同じである。自分から積極的に情報を得ようとしなければ、情報から隔絶されてしまう。私が、大学という場所に身を預けるのは、新しい情報を耳から日々得られるためである。多くの人々は学びを役立たせるための時間と考えるであろうが、私にとって「学び」は生きる時間そのものである。だから私は「学び」をやめられない1)

今後に向けて

現在、私は京都の大学院博士課程に在籍し、東京の自宅に居ながらインターネットテレビ電話で受講している。

私の研究テーマは、当事者経験に基づいた「障がい者とコミュニケーション」である。具体的には、発話に通訳が必要な人への生存欲求、それに加えコミュニケーション欲求、成長欲求(自己能力の向上)という3つのニーズを満たす「コミュニケーション保障」の必要性についてである。

私のような発話が困難な重度身体障がい者への支援制度は、「食事、排泄、入浴、睡眠」などである。もちろん、これらの介助は不可欠だ。しかし、身体中心の介助は、障がい者の持つ生活の部分的支援ではないか。むしろ、コミュニケーションを通して、他者とつながり、成長し、社会参加を行うには、今の支援体制では限界がある。

私は、発話困難な重度身体障がい者がもつニーズを満たせるようコミュニケーション保障を制度に乗せ、成長欲求を実現させるための通訳(者)や意思伝達装置の必要性を訴えていきたい。そして、自身の研究を基盤として、私と同じように発話困難な障がい者のためのシンクタンク(政策の立案、提言を行う総合研究機関)を設立することが、今の夢である。


1)天畠大輔『声に出せない あ・か・さ・た・な』生活書院、2012年


プロフィール(てんばただいすけ)

1981年生まれ。14歳の時に医療過誤による後遺症で、四肢マヒ、発語不能、嚥下障がい、視覚障がい等重複障がいを抱える。母が「あ・か・さ・た・な」話法を見出し、外界とのコミュニケーション方法を獲得する。2004年ルーテル学院大学入学。2010年立命館大学大学院入学。現在博士課程に在学し、日本学術振興会特別研究員となる。著書『声に出せない あ・か・さ・た・な』生活書院。作品集『雨のち曇り、そして晴れ―障害を生きる13の物語』NHK出版、2010年。