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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年9月号

座談会 民間活動と助成財団

山形伸次(やまがたしんじ)
キリン福祉財団常務理事
岡林秀樹(おかばやしひでき)
損保ジャパン記念財団専務理事
早川雅人(はやかわまさと)
ヤマト福祉財団常務理事
藤堂栄子(とうどうえいこ)
日本発達障害ネットワーク副理事長
田中正博(たなかまさひろ)
全日本手をつなぐ育成会常務理事
オブザーバー 田中皓(たなかひろし)
助成財団センター専務理事
司会 藤井克徳(ふじいかつのり)
日本障害フォーラム(JDF)幹事会議長、本誌編集委員

藤井 今回の「民間活動と助成財団」という特集は、「ノーマライゼーション」で初めて取り上げるテーマです。

障害団体はおしなべて資金難、財政難の状況にあり、企業の助成財団の果たす役割はますます大きくなっています。今回は、障害分野の民間活動を支援する日本を代表する3財団と障害当事者団体の代表の方にお集まりいただき、これまでの助成の実績や効果、今後の助成のあり方への期待などについて話し合っていただきたいと思います。

各財団の考え方・特徴

藤井 最初に、どうして障害分野に助成をするようになったかの経緯、ここ数年力を入れている助成事業など、各財団の考え方や特徴についてお話しください。

障害当事者の活動を支援

山形 キリン福祉財団は1981年、国際障害者年がスタートした時に設立され、主に障害者福祉、高齢者福祉、児童青少年健全育成の分野で活動をしております。

障害者分野においては、ちょうどこの頃、障害当事者のリーダーたちがアメリカで生まれた自立生活運動や障害者施策を学び、日本に普及させようとする活動が高まった時期でもありました。

1986年、当時の事務局長がアメリカで開催された障害者自立生活体験旅行に参加して活動の重要性を認識し、ヒューマンケア協会の設立や自立生活問題全国集会開催などに関わり、1991年に全国自立生活センター協議会(JIL)が設立された時から現在に至るまで、CIL(障害者自立生活センター)の活動も含めて、障害当事者の自立生活に向けた運動に継続して助成をしております。

私どもの活動の特徴は、身体、知的、精神など障害の種別を問わず難病も含めて障害当事者の活動に視点を合わせた助成をしているところであり、最近では、知的障害者の当事者組織であるピープルファーストの活動や、障害当事者の就労に関わる活動、障害のある子どもたちの放課後活動の制度化に向けた取り組みなどにも助成しております。

障害福祉分野を重点に

岡林 損保ジャパン記念財団は1977年に設立され、定款上は社会福祉のすべての分野を助成対象にしました。設立時に関係各方面にアドバイスを求め、かつ検討を重ねた結果、社会福祉分野の中でも最もニーズが高いと判断した、障害者、障害児の在宅福祉分野に当初3年間は重点を置き、助成を行うことにしました。財団が設立された年には「きょうされん」が結成されるなど、障害者団体自身の活動も活発になってきていたという、時代的な背景もあったと思います。

その後、世界的にも障害者福祉に対する活動が活発になってきて、国連でも1981年に国際障害者年を制定し、各国あげて障害者施策の充実が決定され、その後の国連・障害者の十年、アジア太平洋障害者の十年を経て、障害者福祉への取り組みの緊急性・必要性の高さは現在まで引き継がれています。このような国内外での取り組みの動きを受け、障害者福祉分野に重点的に取り組んでいこうという当初の方針を継続し、現在に至るまで障害者福祉分野を重点に活動をしています。

障害者の経済的な自立を支援

早川 ヤマト福祉財団は1993年に設立されました。初代理事長の小倉昌男さんが私財を投じて立ち上げました。当初は助成と奨学金で始めましたが、1995年の阪神・淡路大震災が発生した時、障害者の救援をしている前線本部を訪ねたことがご縁になり、障害者の作業所、精神科病院などを見学しました。そこで初めて福祉的就労の実態を知り、障害者の経済的な自立を支援していくという現在の財団の方針が定まったのが1995年後半でした。

96年からパワーアップセミナーを開催し、自らも実践をしようとスワンベーカリーというパン屋さんを開店して現在に至っています。経済的な自立に特化して重点的に助成をしてまいりましたが、今後もその方面で引き続きお手伝いをさせていただければと思っています。

なぜ障害分野に特化したのか

藤井 欧米では障害分野に特化した財団が少なくないと聞いていますが、日本では数ある財団の中でわりと少ないです。どうして障害分野に力を入れようと考えたのか。経営者のご判断、あるいは何かきっかけがあったのか。また、従業員の障害分野へ特化していることへの関心、応援はどうなのでしょうか。

山形 いまでこそCSR(企業の社会貢献活動)が当たり前になっていますが、当時の経営者たちには財団設立前から社会に奉仕する、恩返しするという発想がありました。日本盲人職能開発センターの施設の建設協力や、全国各地の福祉施設などに清涼飲料をお配りするなど設立前から支援をさせていただいた経緯もあり、すんなりと福祉の分野に入ったと思います。

公募事業の贈呈式はキリンビールの営業拠点である全国の支社と連携しており、財団の活動には非常に好意的で協力的です。また、障害者雇用についてもキリングループ障害者雇用憲章が定められ、知的障害者の受け入れなどにもつながっていると思われます。

岡林 障害者福祉に重点を置いたのは、社会福祉全体の中で最も支援ニーズが高いと考えたからです。保険業は、一つの福祉産業という位置づけです。福祉産業としての社会福祉への貢献ということで、記念財団を作りました。

特に障害者分野では福祉車両等の自動車購入費助成、NPOへの法人設立資金および基礎強化助成を続けてきましたが、贈呈式には損保ジャパンから支店長も出席する等、社員の協力度、認知度は高いと思います。また損保ジャパンの社員有志の毎月の給与から集められる「ちきゅうくらぶ社会貢献ファンド」から、毎年200万円程度の寄付を記念財団にいただいており、主に障害児の団体への助成金の一部に充てています。

また、損保ジャパンの代理店である自動車整備工場を会員の対象として組織された「AIRジャパン」は、社会貢献活動として車いすの清掃・整備をしています。高齢者や障害者の施設や社会福祉協議会などを訪問し、車いすのネジを締めたりタイヤの交換をしたり、さびをとったりする活動を全国で行なっており、損保ジャパンからも支店長をはじめ多くの社員が積極的に参加しています。

早川 財団を設立した小倉さんが「宅急便」を作った時も労働組合の協力が大きかったのですが、ヤマト福祉財団も労働組合の全面的な協力で進んでいった流れがありました。今に至るまで労働組合のカンパや、17万人の従業員から6万人の賛助会員を募り、夏と冬に500円ずつ集めたお金を原資として活動しています。小倉さんの私財を元に財団を始めましたので、社員にもインパクトがあり、会社全体での協力はできていると思います。

助成による効果

親の会活動から当事者活動へ。助成の支援で歴史を重ねてきた

藤井 助成財団の支援による効果は結構なものがあろうかと思います。助成を受ける立場でその辺はいかがでしょうか。

田中(正) 全日本手をつなぐ育成会は、もともとは手をつなぐ親の会で、親御さんが手をつなぎながらわが子の実情を社会に訴えていこうというのが運動の始まりでした。一昨年に60周年を迎えましたが、発足当時は自助団体でした。家で親御さんが見るしかないという状況から始まって、学校に入る前の通園施設作りの運動を行いました。昭和54年までは就学猶予で、学校に行く機会すら拒まれていましたから、権利擁護の視点で社会参加をしたいというのが運動の柱でした。

国際障害者年が大きな転機になりましたが、学校に行けるようになると卒後の社会参加の場として、藤井さんも熱心に取り組まれた作業所作りを親の立場で行なってきました。今日お集まりの財団には、作業所の建物の整備、器具類に助成をしていただいているのではないかと思います。

教育の場も整い、社会参加も何とかできるようになって、今度は障害のある当事者が活動をしたいとそれぞれの地域でグループを作りました。国連の障害者権利条約の批准に向けて、自分たちも権利擁護について勉強しましょうという勉強会などへの助成や、全日本育成会で本人向けに年4回発行している「ステージ」という機関紙にも助成をいただいています。

初めの一歩は自分たちで踏み出して、そこに多くの方々から助成、支援をいただいて本人支援まで歴史を重ねてきましたが、全国的な組織団体の共通の課題になっていますが、会への参加率が下がってきています。少し引いた目で見れば、社会がずいぶん暮らしやすくなったというプラスの評価もできるのですが、東日本大震災のような未曾有の災害には、同じような立場で同じような視点で関われるお互いの支えあいがないと厳しいという状況があります。

特に、被災地の避難所で知的障害の方が居づらいという状況に支援をいただき、また昨年も、ヤマト福祉財団から被災地の事業所の工賃アップセミナーの助成をいただきました。助成団体には、いざという時にお互いに助け合うだけでは足りない部分への支援、行政の手が届かないところへの支援をしていただいています。

運営ノウハウと資金の支援に感謝

藤堂 議員立法で発達障害者支援法が成立しましたが、理念法ですので、どんなことを実施するのか細かいところはまだ決まっていません。私たちがきちんと対応しなければとJDDネット(日本発達障害ネットワーク)ができました。全国LD親の会、日本自閉症協会、アスペ・エルデの会、えじそんくらぶ(ADHD)、EDGE(読み書きに困難を有するディスレクシア)の5つの当事者団体を中心に、学会、心理士、作業療法士などの職能団体の方たちなど、大きな団体が17、エリア団体を入れると67団体が加入しています。末端まで入れると10万人規模の大きな団体になっています。

発達障害の概念は幅広く、知的レベルは、自分で意思を十分に伝えられない方から大学院を卒業して仕事をバリバリしている方、また知的レベルには関係なく、社会的な生活をしているけれどもちょっと辛いという方もいらっしゃいます。自閉症からLD、ADHDまで幅広い。また、ネットワークとしても、いろいろな団体の長が集まって話しますので、本当に末端の方たちの声が聞こえているのかという課題があります。

助成財団に助成をいただいて大変助かったことはいくつかあります。各団体の歴史が10年弱と浅く、自分の団体のことは分かっても、組織体を動かす運営は分からない。まず運営に関しての知恵と資金をいただき、その上で活動への支援をいただきました。

一番大きかったは東日本大震災時に、いつもと違う環境の避難所で状態が悪くなってしまうお子さんたちを、東北は発達障害にあまり理解が進んでいない地域でもあるのですが、各地の職能団体の方たちが週替わりで訪問してくださいました。これがすぐにできたのも、助成団体のおかげかと考えています。

平時には、新しい概念ですので啓発セミナーなどを開催しています。私たちはセミナーの講師はできますが、場所の確保からすべてお金がかかりますので、そういうところへの助成も役立っています。

もう一つは、発達障害に対してどういう対応がいいのか、新しいプログラム作りに取り組み始めました。ホップ・ステップ・ジャンプという形で、まず企画・モデル地区での実践をして、お金も稼いでそれを次の活動に持っていく。初めは助成していただいて、自分たちでやっていけるような力をつけていかなくてはと考えています。

一方、規制が緩和されて企業がA型事業所や放課後のデイ・サービスに参入できるようになりました。発達障害という言葉が広がって、福祉というと行政からお金が出て儲(もう)かるかもしれないと、望ましくないような活動をしている企業などが出てきていることも確かです。JDDネットがセンター・オブ・センターとして、いろいろな情報を集めて、「ここは悪い」とは言えないでしょうが、「ここは発達障害に対応できますよ」と言えるような機能も持っていきたいと思います。その辺のノウハウも含めて、助成財団と密に連携を組んでおりますが、助成する側としても本当に大丈夫なのかを見極めていただければと思います。

助成を通して感じたこと

時代に合わせて助成を変える

藤井 助成事業に関わってきて、印象的な出来事や考えさせられた事柄、エピソードなどをお聞かせください。

早川 私どもは当初、国の助成が届かない無認可の作業所を中心に助成を行なってきました。今は法律も変わり、いろいろな法人格を取得し新しい事業をスタートする時代に入ってきたこともあって、この枠組みでの募集方法に再考を迫られていると思います。特に、無認可作業所からNPO法人や小規模社会福祉法人になって事業を進められている方々に加えて、他の領域から新規に事業に参入される方が応募されることもあって、見極めが難しい段階になっています。

3年前までは、上限100万円で全国偏らずに幅広く助成をしていましたが、新しく上限500万円の助成金を作って、事業のアイデアを募るスタイルに変えたものも始めました。今後も、世の中の変化に対応して助成のスタイルを変化させながら行なっていきたいと思います。

共生社会を目指す姿勢に共感

山形 多くの障害者団体のリーダー、当事者、支援者の方々の熱い情熱とバイタリティに驚かされ感心させられています。特に障害者だけの問題としてとらえるのではなく、障害があってもなくても、共に安心して暮らせる社会を目指すという一貫した姿勢には共感を得るところがあります。今でこそ公共交通機関はバリアフリー化され、障害者用のトイレ、駐車場などは当たり前になってきています。合理的配慮が高齢者や小さな子どもを持つ親にとっても、優しい社会につながっている。障害者運動が日本の社会福祉の発展に大きな貢献をしているのではと思います。

自分たちの意思を貫いた先駆者たち、粘り強く活動を継続されている関係者の皆さまに敬意を表したいと思います。

制度の「谷間」に対応

岡林 法制度の中では、障害者としてカバーできていない領域や、行政の制度的な枠組みの制約に対して、できるだけ柔軟に対応していくことが、われわれ民間助成団体に求められていることだと思います。これまでもダルク、DV、難病など、制度の谷間になっている方々への支援についても柔軟に対応してきましたし、これからも対応していきたいと思います。

2つ目として、助成事業の中で、東日本大震災の被災地における生活困難な障害者の方への支援はこれからも大きなテーマだと思います。記念財団は阪神・淡路大震災の経験から、大きな地域災害への緊急かつ迅速な支援を可能にするために、地域災害等緊急対策助成を有しています。これにより、東日本大震災でも、障害者団体への緊急助成を、発災直後に迅速に行うことができました。ただ、助成財団としての使命役割は、資金の助成だけではないと思っています。被災地の障害者が何に困ったのか、またそうした経験を今後の震災時に活かせる道はないのかなどの調査研究への助成や、東日本大震災を踏まえてのさまざまな課題やテーマを話し合う社会福祉シンポジウムの開催などを通して、多様な面からの支援を引き続き行なっていきたいと思っています。

また、障害者の就労、成年後見人など、権利擁護的な活動への支援も引き続き重要だと考えています。いろいろな障害者福祉団体が厳しい環境下にもかかわらず、非常に熱意を持って前向きに活動されています。財団としても、ぜひ支援させていただきたい、という姿勢で活動をしています。

障害団体としての感想・意見

日常の運営への支援を

藤井 現在の助成事業について、障害者団体から率直な感想や意見はいかがですか。柔軟性、即時性があることは、障害団体としては助かりますね。

藤堂 私たちのNPO法人「EDGE」は設立10年になろうとしていますので、社会的に認知されてきていますが、下部の団体を見ていますと、20万円30万円のスターターの助成金しかなくて、皆さん手弁当で活動しているのが現状かと思います。私は当初から、誰もが運動ができるように何らかの形でお力が借りられたらうれしいと思っていました。

外資系の助成団体は「揃いのTシャツで目立つイベントには参加しますよ」とおっしゃるのですが、準備段階や日々の運営のお手伝いに力を入れていただければありがたいです。お金だけではなく、ノウハウ、活動の場所や人的な提供などです。その一つの事務所は、区が安く貸してくれても制限が多い。メンバーの作ったものや本を売ったり、講演会の参加費を次の活動に生かしたいと思ってもできない。財団が持っている場所を貸していただけたらありがたい。会議の時もしかりです。

藤井 どこも事務所の家賃などで困っています。

田中(皓) 今までは助成金に焦点が当たっていますが、これからは助成財団として、助成金プラスアルファの支援で何ができるかを考えていく必要があると思います。その中に会議室の提供、人材面や情報面での協力などがあると思います。

助成財団としては、助成金を受けた団体の事業が成果を上げられるように、持てる資源を活用した多面的な支援を実施することも重要になってくると思います。

助成の枠組みを柔軟に

田中(正) 私どもは組織が高齢化しています。若年層が組織になじまない。ご自身のお子さんが通っているPTAにすらも積極的に活動する人が少なくなっています。そこを踏まえて、団体に主体性を持って参加する人を増やしていくには、この分野の専門性も大事ですが、社会全体とどうつながっていくかという広がりを考えることが大事だと思います。

育成会は、全国の都道府県と政令指定都市に56の下部組織がありますが、その事務局は多くが定年退職をした学校の先生や役所の方です。いろいろな意味での支えがないと、活動は大変です。企業で身に付けた専門性をボランティアとして生かすプロボノという考え方がありますが、パソコンに長けている方がホームページ制作に協力していただくなど、組織としてより広くつなげていく必要があると思います。

助成の枠組みも、児童・障害・高齢とちょっと縦割りになっているところがある気がします。

私は全国地域生活支援ネットワークというNPOの支援組織にも関わってきたのですが、そこでは30代40代の若者が起業して、町全体の困り感に支援をしたいという動きがあります。たとえば知的障害者の作業所に認知症の方、児童の放課後のデイ・サービスに高齢者の方に来ていただくという動きを広めていく時、どこに助成の申し込みをするのか戸惑います。

募集要項で投げかけるだけではなく、相談できる関係性があるとありがたいという声も聞いています。そういったことをすでに行なっている助成団体もあるかと思いますが、共生社会を目指す地域づくりという視点での助成のあり方についてより工夫していただければと思います。

連携事業の実績をさらに

JDFへの連携支援を糧に

藤井 JDFの権利条約に関連する活動にかかる費用は、複数の助成団体が協力して支援していただきました。JDFとしては非常にありがたく、効果が大きかったと思います。こうした連携事業についての感想、今後の連携のありようについてはいかがですか。

岡林 JDFへの長年にわたる協調助成金は、個々の財団だけでは支えきれなかったと思いますし、貴重な助成方法だったと思います。障害者権利条約の批准に向けての法整備も相当程度できてきましたので、今後は実施面で連携して協調助成していければと思います。

ただ、連携を深めることは財団間で考察されているとは思いますが、JDF以外の連携はあまり進んでいないのが実態です。各助成財団によって、予算などの作成時期や決定方法も異なります。前年度中に翌年度の助成を決めているところ、決定方法も選考委員会で決めるところ、理事会にまでかけるところなどさまざまです。その辺をいかにうまく調整していくかの課題があると思います。財団間では、多様な交流や勉強会、研究会などがありますので、そうした横のつながりを生かしながら、実質的に複数の財団が協調して支援させていただくという素地は大いにあると思います。

早川 JDFへの助成は長く続けて成果も上がっておりますので、私たちもよかったと思っています。

繰り返しになりますが、障害者に対する社会の関心はまだまだ厳しいと肌で感じています。JDFという横のつながりを広く取った団体であるからこそ、3団体が支援しているという経緯があります。JDFには、もっと幅広く市民に伝わるような啓発活動を頑張っていただければありがたいと思います。

山形 国の制度を変えていくような重要な課題に長期的に取り組んでいくには安定した資金源が必要でしょうし、複数の財団で連携しながら助成していくのは大変意義があると思います。権利条約の批准後も、よりハイレベルな制度になっていくためにモニタリングを含めた活動の支援を連携しながら継続していく必要があると考えております。

ただ、一般国民は障害者の権利条約の批准に向けた活動など障害者の置かれた現状をあまりにも知らなさ過ぎると思います。今後は、もっと世間に幅広く知っていただくような活動や理解を求めるための広報活動などを、さらに高めていく必要があると考えております。

連携が重要な時代へ

藤井 田中さんは、連携事業の展望についてどのようにお考えですか。

田中(皓) 権利条約に関しては、障害種別を超えて大同団結したJDFという組織ができた。そこが障害者団体の窓口になって活動をしていくというお話をいただいた時に、助成財団側も大同団結して共に歩んでいこうという考え方が初めてできたと思います。

少子高齢化が進んでいる日本では、障害者の皆さんに必要な権利条約ですが、一般健常者の方々も将来を考えた時、権利条約が批准されて法整備が進み、住みよい社会になっていればという共通の認識が、連携の根底にはあったと思います。その後も、民間ベースで作成されたNPO法人の会計基準の制定作業への助成の他、東日本大震災の支援では複数の財団が協力した共同助成の例があります。

重要なのは、JDFと助成財団側が毎年定例的な会合を持ち、年間の活動について活発な意見交換を行い、相互理解のもと課題を共有し取り組んでいく過程にあると考えています。

日本財団が先頭を切っていると思いますが、「点」を助成してもなかなか効果が上がらない場合は、そこを見直して、NPO法人、企業、行政などがネットワークを組んだ総合的な活動に助成していく、より成果が上がるような助成を目指そうという考え方も出始めています。また、これまでは公募方式が中心ですが、財団側から問題提起をして一緒になって活動してくれる団体を募って助成をするとか、助成財団も変わっていかなければならない過渡期を迎えていると思います。

民間の助成財団が多く作られたのは、1960年代後半から80年代です。その中で、障害福祉分野に取り組む財団が作られたのは、国際障害者年を前に「福祉分野でこれから必要なのは障害分野の支援だ」とリードされた方々の影響を強く受けたこともあると思います。障害福祉に対する世の中の関心事もどんどん変化していきますので、障害者団体側からの強力なアピールも必要なのかと感じることもあります。

日本の助成財団は一つ一つの規模が小さく、各財団の得意な分野で特徴的な助成に取り組んでいる状況ですので、助成の広がりの観点からアピールも必要になってきます。助成財団単体の活動も重要ですが、大型の事業やプロジェクトに対しては連携がますます重要になってくると思いますので、助成財団センターとしても財団間で協調していくことにも取り組んでいきたいと思います。

これからの助成事業

藤井 インクルーシブという言葉には、「分けない」「置いてきぼりをつくらない」という2つの要素があると思います。特に、「置いてきぼり」についてはそこかしこに深刻な状況があり、大規模自然災害にあってはより際立ちます。地震以外にも自然災害が考えられますので、引き続き一定のパーセンテージは柔軟に応援をしていただきたいと思いますが。

昨年ですが、ヤマト福祉財団の理事長の橋渡しで、経済同友会の社会保障部会に出させてもらい、権利条約を中心に障害分野の現況と課題について話をしました。今後、財団が接着剤になって、それぞれの本体幹部との交流、経済団体との交流などができればと思います。これも、助成財団の大きな役割になるのではないでしょうか。

また、今後の助成のあり方として、金銭面に加えてソフトパワーをつけていくことを目的とした新たな視点での助成があってもいいかと思います。その辺も念頭に置きながら、わが財団の当面の課題、中長期的な展望をお聞かせください。

社会的な課題を支援

山形 障害者団体の財政状況が厳しいことはよく認識しておりますが、財団の運営も厳しい状況が続いております。悩ましい問題ですが、継続的に助成していますと、いつまでどこまでご支援をしたらいいのかの見極めも必要になってきており、それぞれの団体に自立していただきたいという思いもあります。財団としても、個別に必要とされるたくさんの案件は承知していますが、全国に波及するような活動や、極めて緊急度が高い社会課題への取り組み、活動にシフトをせざるを得ないというのが現状です。

中期的には、より新しい課題への取り組みや発掘にも力を入れながら、福祉分野全般にバランスよく助成を行なっていきたいと思います。

また、助成先同士のネットワーク作りや情報提供などソフト面での支援も財団としては重要な役割になっていくと思います。今回のJDFのように障害の種別を問わず、連携して活動している事業には注目しておりますし、高齢者・障害者・児童青少年健全育成という縦割りの助成活動の中で、横串を指すような案件、こういう共生社会を目指してやっていきたいというご提案や事業があれば、私どもも次へのステージに向けて前向きに取り組んでいきたいと思います。

NPO法人の組織強化に重点

岡林 1977年に財団を設立し、20周年の時に事業の見直しを行いました。それまでは、法人格の有無を問わずに小規模作業所などの障害者福祉団体への物品助成を行なってきましたが、1998年の特定非営利活動促進法の成立を受けて、今後は福祉の分野でもNPO法人が大きな役割を果たしていくだろうと考え、1999年にNPO法人設立資金助成を開始しました。同時に、独立したプログラムとして自動車購入費助成を始めました。2004年からはNPOの質の向上を支援するために、基盤強化資金助成を作りました。一方、NPOの数の増加を支援する設立資金助成は2011年をもって、一応の役割を終えました。

基盤強化助成の充実を図っていく中で問題となってきたのは、NPOの組織強化と事業強化です。事業強化は新規事業や既存事業の拡充への支援、組織強化は人材面や会計・法令遵守・ITなど内部の充実ですが、助成の9割近くが事業強化助成でした。非常に高い熱意を持って事業を行なっているが、経営感覚や経理面が弱く、ノウハウや人材育成が後回しになっているのが現状だと思います。しかし、そうした組織面での強化は、今後NPOを伸ばしていくには非常に重要ですので、昨年度から、できるだけ組織強化的なところに助成をしていこうと募集内容を一部変えたところ、割合としては、まだ少数派ですが3割ぐらいにまで、組織強化的なものが増えてきました。

今年度からは基盤強化助成の中で、認定NPO法人取得資金助成を始めます。情報公開、法令遵守、組織運営体制など7項目の要件と、地域でサポーターを集める、地域に支えられる、地域とのネットワークができているという要件を満たさないと認定されませんから、これを支援していくことがいいのではと思っています。支援の方向性を数から質へ、質の中でも組織強化的なところに重点を置いています。また、海外助成も2010年からアセアン諸国に限定して始めました。まだ海外での助成件数は少ないですが、障害者福祉団体を中心に取り組んでいます。

グループ全体で雇用支援を継続

早川 企業理念として、地域社会から信頼される企業をとうたい、地域から認めていただく企業でありたいと考えていますので、社員、会社、労働組合が思いを共有しながら、グループ全体で障害者の方の支援を続けていきたいと思います。

2004年にクロネコメール便配達事業をスタートさせましたが、現時点では319か所の障害者の施設で1,580人がメール配達をしています。社員にとっても身近に障害者の方々がいることで、障害者の方の支援への認識も広がっていると思います。現場からは、「コミュニケーションは取れないけれど、正確に地図を憶えてメール便の配達ができる知的障害者の方がいるのが分かった」「当初は荷物さばきの仕事をしていたが、今は事務所で伝票の整理ができる」など、いろいろな能力があるのが分かったという声がたくさん上がってきて、今までの取り組んできた蓄積が成果となって表れていると思います。

発達障害の方などを迎えるにあたっても、現場の声、気づきを会社の中で広めていけるような活動を進めていきたいと思います。

助成事業に期待すること

長期的な展望での助成

藤井 今後への期待について、障害団体の立場からいかがでしょうか。

藤堂 お話にも出ていましたが、NPO法人は熱意が先走っていて、運営に関するノウハウや事務的なものは後からついてきていると思います。企業でリタイアする前の1年間、次の人生のために使っていいという企業もあるかと思いますが、経営感覚がないところが非常に多いと思いますので、顧問格となっていただけるととてもいい動きができるのではないかと思います。

また、長期的な展望での助成をお願いできたらと思います。本社の本来の事業とつながる形で、本社の社員やその家族なども助成した先のことが分かるような仕組みにして啓発に努めていただくことを望みます。

すでに、スワンベーカリーなどの就労の場や雇用の場を創設してくださっている財団もありますが、積極的に発達障害についてもモデル開発をしていただければと思います。

ご存知のように、発達障害の人の中には手帳がない人や持てない人もいますし、外見からは分かりにくいので、従来のいわゆる「障害」とは違っている部分があります。一般で就労した方の中にも、社内での待遇や立場への理解啓発、働き方への調整への助言なども重要な役割となってくると考えます。そのためにNPOや障害団体、当事者の声などを反映できるような方向性、活動を期待します。

親亡き後、高齢化する当事者への対応など、次々と解決すべき社会的な課題は続きます。一生を見据えて誰もが活き活きと暮らせる社会のために、これからも引き続き良質な助成をしていただけるよう期待しています。

社会の「困り感」を共有した運動を

田中(正) 個々の団体や事業所の底上げのための助成を引き続きお願いしていますが、スタートアップの助成以上に、継続的に助成していくのはたいへんだと思います。プロジェクト的なところは、全国団体が集まっているJDFのような場で共通認識の下にやっていく。行政だけでは届かないような意識改革を求める、内なる差別を解消していくような視点での啓発啓蒙は、助成団体の会社や組織のお一人お一人にも関わります。そういう相互通行を障害当事者団体が求めていく必要があるのではないかと思いました。

育成会では、熱心に活動してきた中心世代が高齢化しています。家族が中心になって地域での生活基盤を作ってきましたが、家族同居の高齢化が大きな課題になっています。高齢化した親御さんと家族によって支えられてきた本人の権利擁護、財産保全で言えば成年後見ですし、一緒に暮らしていけるインクルーシブな社会でいうと、地域をどう作っていくかが重要な要素です。

権利擁護という視点で、自分たちの困り感を社会の皆さんと共有して、一緒に社会を作っていこうと運動をしたいと思います。その視点で見ると、会社という組織に所属していても、ご自身の親御さんの介護とか、障害のあるお子さんの親であるとか、同じ課題を抱えていると思います。そういう関係性が分かる働きかけがより必要ではないかと思います。JDFの次の連携を助成団体の皆さんと進めていくには、今日のような話し合いが重要だと改めて感じました。当事者団体としての運動を深めていきたいと思います。

藤井 権利条約の批准も視野に入りつつあります。JDFが発足して来年が10周年です。大きな法律の改正も進んでいきます。日本の障害分野は、新しいステージを迎えつつあると思います。私たち障害団体も連携のありようを問われ、社会への働き方も運動の形態方法も問われてくると思います。

同時に、障害分野に特化している財団と新しいステージを共につくっていければと思います。本日のような議論を今後、個別の財団、複数財団とできることを、またこの座談会を機に、助成財団と障害者関係団体との新しい流れができることを願いながら、座談会を終わります。ありがとうございました。