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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年9月号

1000字提言

昭和を切り拓いたろう女性からあなたへ

今村彩子

私の映像制作活動が世間で知られるようになった2010年頃、Lifestyles of Deaf Womenという団体からDVD制作の依頼を受けました。現代の女性の生き方(教育・就職・結婚・出産・育児等)において、聞こえない女性にはさまざまな課題があります。その団体は、聞こえる女性とも聞こえない男性とも異なる悩みをもつろうの女性が仕事とプライベートを充実させて、自分の人生を創り出していこうと情報を発信しています。

依頼のあったDVDの内容は、昭和の時代を生きた聞こえない女性の体験を記録としてまとめるというものでした。

取材で一番印象に残ったのは、大槻芳子さんというろうの女性です。大槻さんはNHK「みんなの手話」を作った人です。大槻さんが若い時、私の留学先でもあるカリフォルニア州立大学ノースリッジ校を視察しました。聞こえない学生が聞こえる学生と一緒に学び、ろうであることに誇りをもっている様子を見た大槻さんは衝撃を受けました。帰国後、アメリカで受けた衝撃や感想を手紙に書いて、友人であるNHKの職員に送りました。すると、その友人から「聴覚障害者向けの番組を作るので、ぜひ、アドバイスがほしい」と依頼があり、番組制作に関わることになりました。そして、自らキャスターも務めました。それだけでなく、ろう者や手話のことを広めようと手話で踊って歌うライブを企画し、ドレスを着て全国を回りました。

そんな彼女の活動を応援する者もいれば、批判する人もいました。「私はいつも何かをするたびに拍手喝采と批判の銃弾を浴びます」と面白おかしく話してくださり、とても痛快でした。

もちろん、明るい話ばかりではありませんでした。何人かを取材する中で、自由に結婚も出産もできなかったこと、子どもが生まれないように親が本人に内緒で手術を受けさせたという話も聞き、ショックを受けました。

また、昔は運転免許などの資格も取ることができず、車の運転さえも許されませんでした。今の若いろう者は自由に結婚をし、働いて車を買い、運転しています。こういう今があるのは、先輩たちが声を上げ、生活向上のために一生懸命運動をしてくれたからです。

ろう者の歴史を知ることは自分のルーツを知り、未来への指針となります。今の社会は昔と比べて理解が進んだものの、まだまだ壁がたくさんあります。私は映像で伝えることで社会の壁をなくし、みんなが笑って暮らせる世の中にしていきたい。それが先輩への恩返しとなり、未来の子どもたちへのバトンとなるからです。

(いまむらあやこ 映像作家)